イングランドとスウェーデン

イングランド 2-2 スウェーデン
[イ] ジョー・コール(34分)、スティーブン・ジェラード(85分)
[ス] マルクスアルバック(51分)、ヘンリク・ラーション(90分)

イングランドは1968年以来37年間、スウェーデンに一度も勝てておらず、11試合で4敗7分け。そしてそのジンクスはまたも守られた。夜の涼しい時間帯の試合のため、全体の運動量が多く、得点経過の妙もあって、半消化試合にしては意外なほど熱い展開になった。

スウェーデン:4-1-3-2
イサクソン;ルチッチ、メルベリエドマン、アレクサンデション■、リンデロート(92分D・アンデション)、シェルストレームリュングベリ■、ヨンソン(54分ウィルヘルムソン)、ラーション、アルベク(74分エルマンダー)

イングランド:4-4-2→4-1-4-1
P・ロビンソン;カラガー、R・ファーディナンド(56分S・キャンベル)、テリー、As・コール、ベッカムランパードハーグリーヴス■、J・コール、ルーニー(69分ジェラード)、オーウェン(4分クラウチ

     オーウェン ルーニー


J・コール  ランパード       ベッカム
            ハーグリーブス

A・コール             キャラガー
      テリー ファーディナンド


         ロビンソン

イングランドは警告を1枚受けているFWクラウチとMFジェラードがベンチスタート。代わりに怪我から復帰して来たばかりのルーニー、守備的なハーグリーブスが入った。右SBのネビルは怪我のため、CBのキャラガーがコンバート。
開始早々オーウェンがひざの負傷で途中退場。靭帯損傷で全治5ヶ月、ワールドカップ残り試合の出場は不可能になった*1。そのため温存していたクラウチが急遽出場。

イングランドにとっては想定外のアクシデントだったけれど、この試合の前半はそれを感じさせない出来を見せた。前半だけなら今大会のイングランドにとって一番の内容だったと思う。全体の運動量が多く、パスも素早く回す事が出来た。

ルーニー*2の復帰がチームに与える好影響もあるけど、J・コール*3の存在が大きかった。これまでのイングランド攻撃はクロス、ロングボール、ミドルシュート中心で、ダイナミックながらもどこか単調だったけれど、彼のドリブルやキープ力で攻撃に深みが出て、中盤の構成力を高めていた


守備では初先発となったハーグリーブスが機能。豊富な運動量をベースに、ボールホルダーへの激しいプレッシャー、ディフェンスラインに入って守備などが秀逸。ディレイをかけることも多く、スウェーデン得意のカウンターの機能性を低めていた。彼の守備的貢献により、ランパードジョー・コールベッカムといった他のMF人は持ち味を発揮できていた。繋ぎでも及第点の出来。これまでエリクソンは、キング、キャラガー、リオとCBの選手をアンカーにコンバートして、それらはあまり機能していなかったけれど、この試合でアンカー役に一応の答えが出たと思う。


コールの素晴らしいドライブシュートで先制し、理想的な試合運びだった前半から一転して、後半はスウェーデンにペースを握られる。前半よりラインが下がりすぎて、マークが甘くなったように思う。コーナーキックから追いつかれ、後述するジェラード投入してのシステムチェンジ後、コールのクロスからジェラードヘッドで勝ち越すも、試合終了間際にロングスローからまたも追いつかれてしまう。ジンクスが選手の心理面に影響したのかもしれない。


堅守と見られていたDF陣に思わぬ穴が生まれてしまった。DFリーダーのテリー、そして途中出場したキャンベルが、最後に目測を誤り失点に直結するミスを犯してしまった。全体的にGKロビンソンの守備範囲にも疑問が残った。セットプレーでの集中力は修正点。

          クラウチ


J・コール ランパード ジェラード ベッカム


         ハーグリーブス

A・コール             キャラガー
      テリー  キャンベル


          ロビンソン

上記が後半ジェラード投入後のシステム。ジェラードとランパードを共存させるなら、守備役としてアンカーを置いた4-1-4-1の方がバランスは良い。ただこれにも課題があって、FWが一枚しか置けないため、セカンドトップルーニーの最適ポジションがなくなってしまう。クラウチはタイプ的に1トップを苦にしないけれど、能力的にまだまだ物足りなさが残る*4


オーウェンの故障で深刻なFW不足に陥ったイングランドにとって、1トップという選択肢は現実味を帯びてきた。優勝を争うチームは、アクシデントを「怪我の巧妙」にする運の良さを持っている*5。今後エリクソンはどんなシステム・選手配置を選択するのか。


世界最高峰のCHであるジェラードとランパードを並べる。単純に個々の能力の足し算では世界最高峰の2センターだけれど、それが機能するかといったらまた別。これまでの試合では、どちらかが守備に気を使いすぎて攻撃的な持ち味が消えたり、どちらも攻撃的にいって守備に穴が生じたりするなど、とにかくバランス取りに苦慮していた。それでも圧倒的な個人能力で及第点の出来ではあったけれど、最適の組み合わせとは思えない。これまで通り共存させるのか、ハーグリーブスを入れてバランスを取るのか、1トップにして3人とも使うのか、エリクソンの決断が今後の鍵を握る。

相対的にはベスト16最弱クラス。これは美味しい組み合わせ。個人的にはドイツ戦が見たかったんだが。勝ち抜けば準々決勝はオランダvsポルトガルの勝者。どちらが来ても熱そうだ。
世界屈指のタレントが各ポジションにいるし、課題だった攻撃構成力もJ・コールとルーニーが本領発揮すれば大きな問題ではなくなる。チームとして噛み合えば優勝を狙うポテンシャルは十分あるでしょうね。

     ラーション  アルバック


 リュンベリ  シェルストロム  ヨンソン


          リンデロート

エドマン            アレクサンデション
      ルチッチ  メルベリ


          イサクション

M・ヨンソン → ヴィルヘルムション
アルバック → エルマンデル
リンデロート → D・アンデション

攻守の切り替えが早く、堅守からの素早いカウンターの迫力は健在。ただ最前線、そして中盤に下がって組み立てに貢献するズラタンを怪我で欠いたため、効果的なタメを作れる選手が少なくなり、攻撃が単調になっていた嫌いはある。
前半はイングランドのチェックが早く、中盤で主導権を握れなかった。ラーションも厳しいマークで試合から消えることが多く、前線で起点を作れない時間帯が多かった。FW(主にズラタン)のポストプレーから、ラーションリュンベリが飛び出してくる得意の波状攻撃も見られなかった。イングランドがペースを落とした後半は、サイドを突く素早い攻めで持ち直した。

得点を生んだリスタート・セットプレーは強力。得点シーン以外でも決定機を作り出していた。優れたプレスキッカー、空中戦の強い選手の両方が揃っているのが強み。これは大きな武器。

  • 1回戦 vsドイツ

ドイツ戦では攻撃に変化を与えられるズラタンの復調が求められる。彼を起点にリュンベリラーションが飛び出していけば、ドイツの守備陣はかなり苦戦するはず。不安定なDFラインの裏を狙いたい。開催国は強敵だけれど、チャンスは十分あると思う。
スウェーデンの試合は面白くなることが多いので、トーナメントも期待したい。開催国ドイツに一泡吹かせて欲しい。そして準々決勝、同居した02WC死のグループで蹴落としたアルゼンチンとの再戦が見たい。


グループB総括

スウェーデンパラグアイの直接対決が全てだったのかなと。
トリニダード・トバゴは最初舐めていたけれど、ベーンハッカー率いるチームはひたむきさがあったね。

*1:まずは鶴。オーウェンは最近ほとんど活躍していなく、ワンダーボーイと呼ばれた当時のキレもなかったので、イングランドにとってルーニー負傷ほどの痛手はない。ただ気になるのはFW層が薄すぎる事。エリクソンは実績のあるデフォーやベントではなく、次世代枠としてリーグ未出場のウォルコットを選んだ。ルーニーオーウェンが怪我してたのに、プレミアで結果を出しているFWを呼ばないエリクソンのマネジメント能力が再び問われる事になる。でもこれでもしウォルコットが爆発したら神選出ですな。

*2:ロングボールをコントロールしてシュートまで持ち込んだプレーは彼にしか出来ない。まだまだ本調子には遠いけれど、調子が上向きになってくればおもしろそう。

*3:この試合では直線的な選手の多いイングランドにあって唯一変化を与えられるMF。2点目のジェラードのヘッドをアシストした場面のドリブルでのタメは、イングランドでは彼しか出来ないプレー。1点目のドライブシュートも凄かった。

*4:下がってもまったく怖さがないタイプなのに、前線で苦しむとすぐ下がってきてしまうのがイマイチ。唯一の取り柄である高さをエリアで生かした方が脅威なのに。ポストプレーの精度、決定力もない。ただチーム戦術上は重要な駒。困ったらクラウチに放り込めるのは強み。

*5:02年のWC王者ブラジル、直前でボランチの核であるエメルソン負傷、代役のクレベルソンの台頭とかね。