サウジ戦

U-19日本 2-1 U-19サウジアラビア
日本 7分 河原和寿、89分 青木孝太
サウジ 81分 アル・ビシ(PK)

     森島康仁 河原和寿


梅崎司     柏木陽介    田中亜土夢
          青山隼
堤俊輔              内田篤人
     福元洋平  槙野智章
          林彰洋

河原和寿青木孝太
田中亜土夢山本真希
柏木陽介森重真人


現状でのベストメンバーですな。本番に入っても色々と模索していたようだけど、とうとう左SBは見つからなかった。

  • 試合雑感


前半はサウジが柏木にマンマークをつけてくるという、普段とは違う受身の布陣。日本は試合開始から気持ちが乗っていて、かなりアグレッシブなサッカーをやれていた。梅崎のドリブル、田中のフリーラン、内田の攻撃参加とサイドからの仕掛けがアグレッシブで、柏木、河原、森島が絡んだ攻撃はよく機能した。


そして内田の突破から得たセットプレー、柏木のFKを河原がニアで合わせて幸先よく先制。その後もサイドを中心にリズムよく攻める。同格以上の相手との試合の中では、これまで一番良い出だしだったと思う。


ただその後が良くない。このチームの悪いところは、劣勢になって押し込まれると、それを挽回できない所。前からのプレスが効いて、高い位置でボールを奪って自分達のリズムで試合を進めている時は良くても、同格以上の相手に守勢にまわると、とにかくリトリートして低い位置に守備ブロックを作ろうとしても、ゾーン守備の完成度の低さもあって、それが殆ど機能しない。コンパクトを維持できず、DFラインとボランチの間にスペースが出来てしまう。ただ守備陣の個力で跳ね返すだけ。


そしてチームに丁寧なビルドアップの意識がない。押し込まれた状況でマイボールにしても、自陣深くの低い位置から相手陣内までボールを運ぶ術がないから、無闇やたらに長いボールを蹴ってしまう。そして、高確率でセカンドボールを拾われ、せっかくのマイボールを失ってまた守勢にまわる。ここ数年の年代別代表でおなじみの放り込みサッカー・シンドロームですな。


この試合でも、徐々にサウジの個人技に押され気味となり、低い位置に押し込まれてしまう。楔に対してトップの森島と河原がボールを納められなくなってきて、ラインを押し上げる時間が作れない。中盤もサウジのプレッシャーの前にパスを繋げず、結局いつものようにロングボール主体の攻撃構築を余儀なくされる。そしてセカンドボールを拾われて二次三次攻撃を受ける。


後半はサウジが受身の姿勢を捨て、攻勢に出た事もあり、さらに押し込まれる展開。悪癖である放り込み主体の攻撃構築が増えてきて、攻撃は散発的なものになってしまう。DFラインとボランチの間が空き、そこを利用されてしまう。青木の投入で多少盛り返すも、数少ないチャンス物にできず。守備陣の粘りや、バーに救われたりと、何とか凌ぐも、どことなく悪いムードに。


とうとう、セットプレーから森島がPKを与えてしまい、それを決められて同点に追いつかれる。その後も全体がひきすぎて間延びし、セカンドボールを拾えず、空いたバイタルエリアからフリーでミドルを打たれるなどピンチの連続。福本のシュートブロックや、林の好セーブで何とか凌ぐ展開。こちらも負けじと決定機を作るが決め切れない。


そして試合終了間際、柏木のシュートのこぼれに反応した青木が、急にボールが来ても慌てず、落ち着いたステップワークから相手の股を抜いた素晴らしいシュート、GKは一歩も動けずそのままゴールに吸い込まれた。歓喜の勝ち越しの決勝ゴール。素晴らしい。その後は梅崎のキープなどで時間を稼ぎ、そのまま逃げ切って勝利、見事にU-20ワールドカップ*1出場権を手に入れた。



  • 予選突破の価値


強化課程から振り返って、本番でもチームの組織性としての成長はそれほど感じなかったけれど、選手個々の成長は大きかった。とくにJリーグで出場機会を多く得た梅崎、福本、柏木、田中、内田あたりに特に顕著。一次予選では個々の勝負で劣勢となった北朝鮮相手に、グループリーグで快勝できたのは自信になったんじゃないだろうか。前回の大熊監督と違い、選考や起用にJリーグの経験を重視した吉田監督は評価したい。


このチームはこれまでかなり不安定な試合をしていて、直前の強化試合となったSBSカップでもかなり悪い内容だったから*2、アジア予選を突破できるか本当に心配していた。それだけに最低限のノルマをクリアーしたのはホッとした。


世界大会に出れるというだけではなく、あと2試合アジアトップレベルの国際舞台の真剣勝負を経験できる事、そしてこの後の強化が空白にならなかったのは喜ばしい。この世代のU-16はアジア一次予選で早々に敗退していて*3、その後の強化が空白になっていただけに、特にそう思うよ。


そしてここからもう次の競争が始まっているわけで、この日のメンバーからはまた本番までに様変わりして行くでしょうね。むしろ、そうでなければ困る。前回大会を振り返ると、本大会で活躍した水野や家長は予選ではメンバー外だし、A代表の青山は予選〜本番までに召集すらされていない。まあ、あれは立ち上げ当初のメンバーに拘った大熊の選考がおかしかったというのもあるが。吉田監督は選考に関しては割と妥当だと思う。新戦力の台頭、現メンバーの成長が今後も楽しみですな。


  • 青木の存在価値


決勝ゴールを決めた青木。劣勢の中、流れを代えるべく途中投入されて最高の仕事をした。前からのチェイシングもサボらず、前線でキープしたりスペースに抜け出し、得意のドリブル突破でアクセントをつけるなど、攻撃構築に多大な貢献をもたらした。彼のこのタイミングでの途中投入は、吉田監督にしては珍しいヒットの采配だったと思う。


ただこういう能力には青木は定評があったわけで、これまで重用されなかった最大の理由は、FWなのにシュートが不正確な所。高校選手権でもシュートミスで数多くの決定機を逸していた。シュートアプローチは絶品なのに、その割にシュートがネットを揺らす率が少ない。このチームでも決定的な仕事の回数はそう多くない。


もしカターニャに移籍した森本が召集可能だとしたら、FWで外れたのは青木だったかもしれないし、SBSカップで活躍して小澤との比較も難しかったと思う。スーパーサブ枠としては、快速ドリブラー安田兄との比較もあったんでしょうね。それでも青木を選んだ吉田監督の期待に見事に応え、この試合一番の仕事をした。


同点に追いつかれる前に、柏木とのワンツーから抜け出すも、浮き球をトラップがずれたのか、決定機に力みすぎてシュートをふかしてしまった。これを決めて居たら2-0で勝負をつけられただけに、期するものがあったんでしょう。次の決定機を慌てずきっちり決めた。監督からは守備重視との指示があったらしいけど、自らの判断で前にいったらしい。その状況判断も素晴らしい。


スペースへの走りやドリブルなど、前で起点になったり、苦しい時間帯に守備でも頑張っただけでなく、FWとして何より決勝ゴールをあげたという点が素晴らしいと思う。代表に選ばれてから一番良い出来だった。定評のある局面打開や、監督の期待する守備貢献だけでなく、今後もFWとしてゴールという結果でも勝利に貢献できるよう期待したい。

  • 他の良かった選手


青木の他には、独力でのドリブル突破、ラン・ウィズ・ザボール、身体を張ったキープで相手に脅威を与えた左SH梅崎、粘り強い守備を見せた福本と槙野の2CB、マンマークをモノともせず2アシストと攻撃の起点となったCH柏木、劣勢ながら攻撃参加が光った右SB内田、好セーブを連発したGK林、殊勲の先制点を決めたFW河原も良かった。この6人はこれまでの試合でも存在感を見せた。今後も軸となる選手でしょうね。


ここまでで個人的に印象的なのは、ドリブル・パス・クロス・飛び出しと攻撃性能がバランスがよく、突破からシュートの局面打開を独力で仕掛けられ、守備でもハードワークできる梅崎。何より個人で勝負できる点が良い。試合後のサラリーマンヘアはうけた。今後も中心選手として期待したい。
今年で契約切れのため、海外からもオファーがあるらしいけど、大分は帰国後に即刻契約更新した方が良いと思うよ。契約切れたらフリーで移籍されても文句は言えない。推定年俸480万円だから、Jリーグの他クラブも安値で買い取れる。今オフはオファーが殺到しそうですな。正直欲しい。

  • 求められる左SB


逆に、悪かったのは左SBの堤。期待されているはずの守備も不安定だったし、攻撃面の貢献度はないに等しく、ビルドアップも拙い。左SHの梅崎がドリブルで独力でも押し込めるから、その時にバックパスしてのアーリークロスがかなり有効になるんだが、堤だとそれが期待出来ない。梅崎は右利きのため中に絞る傾向が強いので、その外を抉れるような攻撃のフォローも必要。現状の左サイドは梅崎の負担が大きすぎる。


とにかく4バックが基本のこのチームで、左SBは立ち上げからずっと穴になっているポジション。そもそも堤は本職SBでないので多くを求めるのは酷。グループリーグで本来SHの柳澤を試したけど、これは以前も失敗していたように、やはりここでも守備の穴になっていた。今後は何としても左SBの発掘が求められる。Jリーグで台頭してくれるとありがたいんだが。



他には、前線でボールを納められず、FWとしてゴールにも絡めず、PKも与えてしまった森島、攻撃構築に課題のあるアンカーの青山、途中出場で流れに乗れなかったSHの山本も出来は良くなかった。奮起に期待。


  • 今後の展望


正直試合内容は良くなかったし、改めて露呈した課題も多いんだけれど、この試合だけはまあ良いか。選手個々の詳細な印象も合わせて、追々取り上げていきたい。


気になるニュースも。

田嶋専務理事は、U―20W杯出場決定に伴い、年内で満了となる吉田監督の契約をU―20W杯終了まで延長する意向を明らかにした。
http://www.sponichi.co.jp/soccer/news/2006/11/08/09.html

アジアで勝てた大熊監督を続投させて、本番のWYでどうなったか、特に試合内容を思い出すと不安だけれど、協会にユース指導に長けた優秀な外人監督を連れてくる英断を下せるとは思えないので、続投するなら頑張って欲しいですな。とにかく安易な放り込みは止めて、丁寧なビルドアップの意識は植え付けて欲しい。同じアジアで素晴らしいサッカーを見せて優勝したU-16の城福監督に練習を手伝ってもらったらどうか。次のU-18は、日本人なら彼しかいないだろうね。人間力復帰は止めてくれよ。


それにしてもすんなり続投とは、AY準優勝ながら内容の悪かった清雲監督を続投させず、フル代表のトルシエと兼任にしてWY準優勝の結果を出した99年の事を協会は忘れたのかね。各年代が少なからずフル代表と共通性のあるサッカーを志向しているのに、このチームだけがその流れに取り残されているのは不安だ。別に共通性なくても、素晴らしいサッカーなら文句はないですけどね。この後の2試合で続投に相応しい内容をぜひ見せてもらいたい。


次は韓国戦。カタール国際では10人の相手に数的優位を活かせないバックライン総残りの受動的な横ポンサッカーで何とか辛勝、先のSBSカップでもカウンターで効率良く点をとるも内容では圧倒された。もう結果が全ての試合は終わったのだから、次はぜひ内容・結果とも求めたいですね。この世代の両チームの対戦を振り返る限り、韓国がしっかり繋ぐサッカーをやって、日本が放り込むサッカーをやりそうなのが不安だ。韓国に負けるのはいつの時代も悔しい。頑張ってください。

*1:この呼び名はしっくりこないので、ここでは今後もWYと表記するかもしれない。

*2:韓国にはスコア上は3-0と快勝したけど、内容は最悪の部類。1歳下の地方選抜の静岡ユースにも押され気味の辛勝。メキシコユースには結果も内容も惨敗。

*3:生き残っているのは内田、青山、伊藤くらいなのか。その他も選手も、本番までにはまた伸びてきて欲しいね。現高3は有望な選手が多いので、プロに行ってからの伸びに期待。