神奈川ダービー

注目の神奈川ダービーであり、次節のジュビロの相手である川崎の試合の雑感。

◇横浜F・マリノス 1−2 川崎フロンターレ
[得点]51分:マルコン、58分:ジュニーニョ、84分:河合竜二(横)

横浜FM
榎本達也栗原勇蔵■、松田直樹中澤佑二田中隼磨那須大亮(71分吉田孝行)、河合竜二ドゥトラ奥大介(55分大島秀夫)、山瀬功治久保竜彦(80分ハーフナー・マイク

川崎:
相澤貴志箕輪義信米山篤志伊藤宏樹森勇介■、谷口博之中村憲剛、マルコン、マギヌン(87分黒津勝)、我那覇和樹(72分原田拓)、ジュニーニョ


スコア差以上に両チームの差を感じる試合だった。


まあ色々あるけど、ダブルボランチの差異が気になったかな。これは個人の差ではなく、コンビとしての完成度・バランス・相互補完性、そしてチーム戦術との親和性の観点で、大きな差があった。関係ないけど、この試合の川崎の勝因を我那覇のスルーに集約するあたり、マスメディアの代表スターシステムの凄さを改めて感じた。


序盤は、マリノスがリトリートして、カウンターを仕掛ける。中盤でのプレスが効いて相手を自由にさせず、ボール奪取後に1トップ2シャドーが、川崎の3バックのギャップを巧く突いて速攻。

マリノスは久保の下に山瀬と奥を並べた1トップ2シャドー。川崎の3バックはこれにうまくギャップを作られた。1トップの久保が深さを作って、そのギャップを2シャドーがついて行く。シャドーが後方から飛び出してくる為、川崎はまく対処しきれない。中央に寄せられると、サイドを隼磨が突いて行く。これらの対応にボランチも引っ張られてしまった為、得意の高い位置からボール奪取後の速攻が繰り出せない。

基本的にカウンター型である川崎は、引いたマリノスにボールを持たされる事で攻めあぐね、ミスからカウンターを被るシーンが目立った。試合を通して、米山の不用意なミスは気になったかな。

ただ川崎はこの流れを修正した。その後に川崎がリードして、逆に引いてカウンター狙いした時に、マリノスは効果的な対応が中々できなかった。それはチームとしての主体性の差、柔軟性の有無。典型的なのがダブルボランチですね。


今シーズンの川崎は、攻撃構成力が増していて、得意とするリアクション的なカウンターだけでなく、主体的なポゼッションからパスコンビネーションで崩していく様な柔軟性がある。勿論、攻撃の中心はジュニーニョなのだけど、ジュニーニョを活かすための幅が増している。


その鍵を握るのがボランチ中村憲剛。視野が広くキック精度も正確で、Jリーグで今最も旬のレジスタ。この試合も、川崎が守備を修正してからは、主体的に中盤でボールを受けて、的確に味方へ捌いたり、スペースにスルーパスを狙ったりと、中盤で攻撃のリズムを作り出していた。

日本人でこういうタイプは、中盤でただボールが来るのを待つ選手が多いのだけど、彼は自分のオンザボールでの展開力を活かすために、ボールを貰う為の予備プレーにも優れている。中盤の底でボールを受ける為に、ボールを来る前に首振りで周囲の状況を把握し、ボディシェイプやファーストタッチの工夫で効果的にボールを捌いて行く。今日はあんまりそういうシーンが目立たなかったけど、今シーズンはファーストタッチでDFを振り切ったり前を向いたりして、即パスやランウィズザボールで局面打開するプレーが目立つ。予測力が素晴らしい。そして、こういうタイプにありがちなパス出し地蔵タイプではなく、プレーエリアも広くて、前線のスペースにも飛び出していく。運動量も豊富。ただフィジカルコンタクトと守備が得意でない。


中盤の底にゲームメイクに優れたレジスタタイプを置かないオシム監督の構想には入っていないかもしれないけれど、実力的には代表選手に何ら遜色はない。ボランチとしてオシムの求める守備力がないので代表定着は微妙なところだけど、一度は試して欲しい存在ではある*1


この試合では、マリノスのGK榎本のキック精度の拙さを狙ってか、GKがボールを持つと、中盤から全速力でチェイスしてミスを誘発し、GKからのビルドアップを無効化し、流れを変えていた。状況判断力・予測力にも優れていて、こういう何気ない気の利いたプレーもよくする。逆にGK榎本は、この試合に限らずフィード・ミスで流れを悪くするシーンが目に付く印象。細かい事で、試合の体勢にはあまり関係ないかもしれないけど。



中村を中心にリズムを奪いだすと、マリノスは後手を踏む事になる。川崎がセットプレーで先制してリードした後は、今度はリトリートして、相手を引き出してスペースを突いて行く、序盤のマリノスのお株を奪うようなカウンター狙いが機能。この戦い方が本分であり、スペースを得たジュニーニョは怖さ倍増。


川崎に引かれると、ダブルボランチに攻撃構築力がなく、チームの攻撃に主体性に欠ける今日のマリノスの陣容では苦しかった。序盤のようなカウンター狙いは意味をなさないし、今度は逆にカウンターの餌食。マリノスはビルドアップ段階でミスが多く、川崎のカウンターを難度も喰らってしまう。


後半、森からのパス→我那覇のスルーにDFが釣られ、栗原の視野から抜け出していたジュニーニョに決められ2点差。2トップの阿吽の呼吸も良かったけれど、中盤から右サイドへの飛び出しでDFを一枚引っ張ったマギヌン?のプレーも効いていた。この段階で、今日の2チームの出来を考えるとほぼ勝負ありと感じた。その後マリノスがセットプレーから1点返したけども、チャンスに決めきれず。
印象としては川崎の完勝。川崎はマジで強くなっている。今の好順位は勢いだけではない。

  • 川崎

川崎のダブルボランチは、前述した中村と、コンビを組む谷口*2とのバランス・相互補完性が素晴らしい。

谷口は、ボランチとして展開力やパスセンスはそれほどでもないけれど、中村とは逆に身体能力に優れていて、一対一や空中戦に定評がある。この試合でもDFラインのカバー、相手シャドーのマーキングなど守備面での貢献が素晴らしかった。これらの特長は中村を短所を見事に補完しているし、その逆も然りで、谷口の短所も中村が補完している。その谷口も進化の過程にあり、昨年までの守備的なイメージが強かったけれど、今年はダイナミックな攻撃参加も多く見られ、多くの得点にも絡んでいる。まだ荒削りでミスも多いけど、五輪代表に定着していくでしょうね。なぜかU-19の時は大熊がほとんど呼ばなかったけど。


中村も谷口も、どちらかが前線に攻め上がると、もう一人はバランスを取ったり、スペースを埋めたりと、コンビとしての連係やバランス感が絶妙だった。特長の違うダブルボランチが、チームにもうまく昇華されている。川崎というと攻撃力、とりわけエースのジュニーニョや、日本代表FW我那覇にばかり注目が集まるけど、川崎の好調はこのダブルボランチの影響も大きい。個々の能力も高いし、日本代表のボランチ陣とも遜色ないし、何より組み合わせとして抜群。強いチームはダブルボランチの相性が良いケースが多い。


ジュビロの次節のはこの川崎。今節の大勝は相手との力関係が大きく、真価を問われる。とりあえずボランチの主導権争いに注目したいですな。ファブリシオ*3と上田のコンビは、タイプの組み合わせとしては谷口&中村に似てなくもない。中村と似たタイプの上田が、今のJ最高峰レジスタと同じピッチでどれくらいのプレーを見せられるのか、磐田を見にこない反町監督に健在をアピールしてもらいたい。そしてキーマンの太田を擁する右サイド攻撃に、関塚監督がどう対応してくるのか。快速系DF中野不在だったのにラインをガンガン上げてきた新潟のように無策なら助かるんだけど、それはないだろうでも一番怖いのはやっぱりジュニーニョ。速すぎ。

マリノスは、那須と河合という、CB兼任の守備的なタイプを組み合わせていた。序盤にリトリートした守備からカウンターを狙って、前線の1トップ2シャドーが機能している段階では良かったけれど、その後に川崎に守備を修正されると、効果的にボールを動かしたり、後方から攻撃をフォローする事ができない。川崎がリードを奪って、マリノスが主体的な攻撃をしなければならない段階になると、殆ど機能性を失ってしまった。


2人の選手としての能力が悪いというわけではなく、中盤の底での組み合わせとして非常に悪いと思う。どちらもキープ力や展開力があるわけではなく、飛び出しやラン・ウィズ・ザ・ボールなどで攻撃に厚みの出せるタイプではない。大枠では似たタイプで、相互補完性も感じられない。リードして守る状況では強みを発揮するかもしれないけれども、主体性をもって攻撃を仕掛けなければならない状況では苦しい組み合わせ。中盤に一人は組み立て役が欲しいところ。


2人ともプレッシャーの中で的確にパスを捌けず、ビルドアップの段階でミスがかなり目立った。ミスの多発でDFラインもズルズルと下がり、ダブル守備的MFもDFラインに吸収されて、中盤のスペースが空きだして、全体は間延びし前線は孤立。こうなると悪循環*4


こういうタイプ同士で中盤の底を形成する場合、他のどこかで起点を作る必要がある。多くの場合はトップ下に求められるのだけど、代表の山瀬はトータル的に優れた素晴らしい選手であっても、基本的に使われるタイプ。スペースに飛び出したり、自らスペースへのドリブルで打開する事は出来ても、起点となってチームをコントロールするプレーが得意なわけではない。ベテラン奥もイマイチ冴えがなく、1トップの久保の所でもボールが落ち着かず、前線で起点は作れれなかった。後方からのビルドアップも物足りず、松田が攻撃参加した時は良いシーンがあったくらい。


マリノスにとっては、ボランチマグロンの帰国と、上野の負傷の与えている影響がかなり大きいと感じた。マグロンのキープ力と展開力、ドゥトラとの左サイドのコンビネーション、前線への攻め上がりや、上野の的確なボール捌き、中盤での気の利いたプレーなど、彼らがいれば、この試合もまた違った展開になったかもしれない。


帰国中のマグロンは退団濃厚らしいし、ベテランの上野が怪我から復帰しても年齢的な問題があるので長くは計算できない。今後のマリノスには、中盤の底で効果的にボールを動かせる展開力のある選手の補強、または育成が必要かもしれない。マリユースのアーリアはキープしてからの捌きに定評がある現高3年代を代表するMFだけど、まだ時期尚早だろうから、即効性を求めるならやはり補強かな。まあ上野が健在なら急ぐ必要もないかもしれないけど、そういうタイプの一流選手が来て、チーム全体でも主体性を持った崩しができるようになれば、マリノスはさらに怖くなると思う。アタッカーとDFとサイドの選手の質は優秀なんで。


この試合では奥を一列下げて使うのも1つの手であるように感じた。奥を途中で下げるなら、起点になれる可能性のある狩野を使うのも手だったと思う。狩野は穴も波もありまくりだけど、人には真似の出来ない独特のセンスの持ち主。キック精度も高いし、プレスキックも正確。森*5のらしい不用意ファウルから生まれた絶好位置でのFKで、吉田のキック失敗を見ると、あそこで狩野も見たかった。静岡ユースの司令塔としてSBSカップで見たときから*6、狩野は印象的だったから頑張って欲しい。

*1:オシムはDFラインに下がって守れる選手、マーキング能力に優れる選手を重用する傾向があって、それはオシムの志向するサッカーを鑑みると利に適っているけれど(たとえば、3バックと4バックを選手交代なしにスムーズに移行するためには、守備的中盤の選手は2人必要。守備自体もマンマークでやること多いし。)、そういう選手と相互補完性のあるコンビを組む存在として、また先発でなくても状況に応じたアクセントとしても、こういうタイプは必要だと思う。中盤の底に一人は展開力のある選手を置くのは、世界的潮流でもある。ただ呼ばれても、現状で使われるとしたら2列目で、代表でいう遠藤の位置になるのかな。それだと活きないと思うので難しいところ。遠藤にしてもプレッシャーの強い2列目より、もう少し下がり目の前を向いてプレーしやすい位置で使った方がより活きると思う。2列目なら山瀬や羽生のような前線に飛び出せるタイプか、ルマンの松井のような溜めの作れて個人打開できるタイプの方が良いかな。個人的には、2列目で松井と山瀬のコンビを代表で見たい。日本の育成年代史上屈指の好内容を見せたツーロン3位入賞の2シャドーですな。前の五輪代表監督は、プレーエリアがかぶるという理由でこの2人を全く共存させなかったけど、松井のキープと山瀬の飛び出しは相性が意外と良いと思う。2人とも当時よりかなり進化しているしね。

*2:マリノスユース出身で、トップには上がれなかったという因縁もある。

*3:そういえば次節は累積警告で出場停止か。代役はおそらく菊地。上田との相性も悪くないだろうし、奮起して欲しい。

*4:一般的にDFラインが低くなると、それだけプレッシャーを掛ける位置が低くなり、ボールを奪う位置が低くなる。それでも守備陣に低い位置からでも攻撃を組み立てられる構築力があれば良いのだけど、今日のマリノスにはそれがないため、苦し紛れのクリアも増え、結果的に攻撃の有効回数が減ってしまう。前線との距離が離れているので、楔のパスは難度の高いものになるし、後方からのフォローも遅くなる。そうなると、攻撃は構築途中でボールカットされやすくなり、攻撃が単発になる。

*5:この人も身体能力が高くて、能力的にはかなり良いものを持っているけど、メンタル面を改善しないと代表まではいけないでしょうね。いらないファウルを犯して、ブツクサ文句を言って、カード貰う事が多すぎ。

*6:あの時の静岡ユース、後に国体優勝して、過半数がプロ行きした黄金金世代。ジュビロY→ジュビロの上田と中村、藤枝→レッズの赤星、静学→マリノスの狩野の中盤が最大の強み。意外なのは、同学年の今をときめく清水Y→清水の枝村はメンバー外、当時はそれほど目立っていなかった。この学年の当時の高体連№1選手は星陵→名古屋の本田、クラブユースでは既に飛び級でプロ入りしていた広島→愛媛の高荻とガンバの家長、そして広島Yの怪物レフティーですね。前俊は早くレンタル移籍したら。この学年で他に凄い選手は、A代表入りした清水の青山と大分の西川ですな。他の同世代の選手は若さゆえの波がありまくるけど、彼らはそれが少ない。青山は高校生当時はそこまで騒がれる選手でなかった。どちらかというと同じ高校ではレッズに行った細貝の方が有名だったはず。青山が名古屋のプロテスト的な練習参加で落とされたのは一部で有名なネタ。この世代は高校年代から有望な選手が近年最も多かった年です。86年組み。ちなみに早生まれでU-19の梅崎もこの世代。高校年代時はそこまで騒がれていなかった。波はあるけど、彼も凄いね。