ポルトガルvsフランス

ポルトガル 0 - 1 フランス
33' ジダン(PK)

ポルトガル:4-2-3-1
リカルド;ミゲル(63分P・フェレイラ)、F・メイラ、R・カルヴァーリョ■、ヌーノ・ヴァレンテ、コスティーニャ(75分H・ポスティガ)、マニシェ、デコ、フィーゴ、C・ロナウドパウレタ(68分シモン)

フランス:4-2-3-1
バルテズテュラムサニョルギャラスアビダルヴィエラジダンマケレレマルーダ(69分ヴィルトール)、リベリー(72分ゴヴ)、アンリ(85分サハ■)


フランスの堅守がポルトガルを上回った。これでジダン引退試合がWC決勝戦か。出来すぎだ。
とりあえず雑感。




堅守を誇る相手に先制点を許し、引いて守られて崩しきれない。ポルトガルの典型的負けパターン。ポゼッションで押し込んで、ピッチを広く使ってサイドから攻めても、エリア内で効果的なシュートチャンスは作れない。フランスの守備が何枚も上手だった。

そこで重要なのがセットプレー。ロナウドのFKをバルテズのミスから生まれた絶好のチャンスボール、この決定機をフィーゴがヘディングで決め切れなかったのが痛かった。あれで同点になっていれば、フランスもある程度攻めにこなければならず、勝ち越すチャンスもあっただろう。試合展開はがらりと変わったはず。

ポルトガルのロスタイムのGKも攻撃参加した猛攻には迫力あったが、得点には結びつかず。終了間際のフランスのパスミスをカットして生まれたラストチャンス、あそこで急いでオフサイドの選手にパスを出さず、一度ためて他の選手を使えていれば、というのは贅沢ですね。それはジダンクラスの選手にしかできない芸当だ*1


PKによる先取点を取られてしまい、堅守を崩せなかったという敗因以外には、ポルトガルがメンタル的に自滅した印象を受けた。アンリへのファウルでPKを取られてリードされた直後の、クロスに飛び込んだロナウドがペナ内で押されたかのように倒れたシーン。あれはフランスにPKをプレゼントした主審へのアピールだろう。帳尻合わせのPKをくれよ、という*2


それ以降も、ポルトガルの選手が審判にファウルをアピールするシーンが目立った。球際で粘らずにコロコロ倒れる。それに対し、この主審は毅然とした態度で微妙なプレーは無視した。そういう判定基準なんだから、ポルトガルは審判との駆け引きを前半限りにして、後半からは気持ちを入れ替え、無用なアピールをせずに同点に追いつく事のみを考えた方が得策だった。試合終了間際に見せた猛攻を後半のもっと早い時間帯に見せるべきだった。


主審がポルトガルに簡単に騙されるレベルだったらまた試合展開は違っただろうが、この試合ではポルトガルの長所でもある狡猾さが裏目に出た格好。フランスだけでなく、審判とも無駄に戦ってしまう必要はなかった。今日はオランダ戦とは全く別種類の試合、主審もカードマニア・イワノフではないのだから。

  • 絶対的FWの不在

ポルトガルにWCレベルにおいて及第点以上のCFはパウレタしかいない。そのパウレタをしても、他の強豪国ではメンバー当落線上だろう*3。相手フランスの控えFWトレゼゲ、あるいはオランダの控えFWに大会中降格したニステル、イタリアの控えFWジラルディーノ、彼らがポルトガルに生まれていれば不動のエースになれる。

唯一の点取り屋であるパウレタを封じられて、シモンを投入するために交代策を講じるとなると、代わりにロナウドをCFに持ってこざるを得ない。イングランド戦でもイマイチ機能しなかったこの布陣を、この場面でやらざるを得ないのは苦しい。その後にCFのポスティガを投入しても、先発のパウレタにさえ劣る感は否めない。後半18分のミゲルの負傷離脱もゲームプランを大きく狂わせたはず。フェリペに神采配をする余地は残されていなかった*4

もしサイドからのクロスを合わせるのに長けた世界クラスのFWがいれば、傑出したウインガーを生かしたサイド攻撃がもっと機能したと思う。長所である中盤の力を引き出せるポストプレーヤーも然り。ポルトガル人FWには、強豪国の選手選考にありがちな、議論を呼ぶような未招集選手もいなければ、パウレタを超える可能性を秘めた若手もいない*5。ここがポルトガルという小国の限界かもしれない。ただベスト4躍進は快挙で文句は付けられないです。


中盤がいくら主導権を握って、ポゼッションで圧倒しても、どこか持たされる感じで、点を決めきれない。スペインもそうだけど、長年苦しみ続けている伝統のようなもの。イベリア半島クオリティー*6。ポゼッションで押し込めることが、相手を自陣に引かせてしまう側面もあるかもしれない。

相手を引き出してカウンターを狙った方が効率はいいかもしれないけれど、そういうお国柄ではないし、ポルトガル人選手の相対的な特徴が堅守速攻向きではない。まあこんなレベルの国でさえ決定力不足に悩んでいるのだから、日本の敗因を決定力不足だけで論じるのは無理があるでしょうね。


  • フランス


フランスは特別凄かったわけではないけれど*7、相変わらず守備が堅い。ブラジルを完封したのが自信になったのか、この試合ではほとんど失点の気配がなかった。スペイン、ブラジル、ポルトガルと、中盤でパスを繋ぐ志向の強いポゼッション型のチームには無類の強さを発揮している。その中でも絶対的ストライカーのいないポルトガルは相性の良い相手だった。

アンリもPKゲットでエースFWとして最低限の仕事は果たした。ここがパウレタとの一番の差だろう。そのPK、ジダンが決めたわけだけど、短い助走でタイミングを合わされるって、完全にGKに止められるパターンですよ。絶対にGKが届かないコースに蹴ったジダンの技術を褒めるべきか。PKストッパーのリカルドもタイミングとコースは完璧だったんだけどなあ。


フランスは前評判を覆しての決勝進出。いくら主力が高齢で、開幕前までチームとしてまとまっていなかったとはいえ、チームのベースがEURO2000優勝時のフランス*8なのだから、過小評価すべきではなかったですな。


EURO2000といえば、決勝の相手は同じイタリア。当時は、後半のロスタイムまで1−2とイタリアにリードを許し、守備を固める相手を攻めあぐねる苦しい展開の中、試合終了間際にヴィルトールが同点ゴール、延長13分にトレゼゲが決勝ゴールを決め、劇的な優勝を飾っている。フランスはWC1998でも準々決勝でイタリアをPK戦で下しており、相性は悪くない。ただ今大会のイタリアは、当時のカウンター頼みの守備的チームとは一味違う。


イタリアは、これまで下してきたスペイン、フランス、ポルトガルのようなポゼッション型のチームとはタイプが違う。パスは繋いでもよりダイレクト志向が強く、相手をあえて引き出して守備陣形を整える前にカウンターを狙う事も得意としている。どちらも堅守が売りなので*9、先取点をあげた方が圧倒的有利になる。裏を返せば先取点を取られるのは嫌なので、両チームとも慎重に様子を伺うような展開になりそう。試合が0-0のまま膠着して、PK戦まで縺れる可能性もありそうだ。


フランスはジダンの出来に大きく左右される分、安定感に優るイタリアの方が有利だと思う。監督の采配の差も出そう。ただフランスの方が嵌った時の爆発力はあるね。アンリとジダンが決勝で噛み合うような事があれば、どうなるか分からない。

*1:それにしても、昨日のピルロのタメを作ってからのラストパスは見事だった。普通あの時間帯に位置でボールを受けたら、パスを出し急ぐがシュート打ってしまうよ

*2:これは主審によっては非常に有効な駆け引きの一つ。フットボールの世界では日常的に行われている。そして日本人に一番足りない所と、よく外国人は言いますね。イングランド人もあまりやらないけど、あれは伝統ね。

*3:タイプ的には典型的なフィニッシャーで、点を決めなければいる価値はあまりない。けっこう使いにくいタイプ。

*4:ポルトガルは控えになると戦力が一気に下がる。だからこそ、豊富な戦力を活かしきれないペッケルマンやファンバステンは宝の持ち腐れだと思う。控えの方がむしろ攻撃的才能はあるくらいだし、スーパーサブとして有効活用して欲しかった。

*5:ウーゴ・アルメイダ、マククラは期待してたんだけどね。一度リーガでブレイクしかけたマククラは靭帯断裂してから伸び悩んでしまった。このポジションが育たないと、今後のポルトガルはかなり厳しい。MFにはクアレスマモウチーニョ、マヌエル・フェルナンデスと逸材がいるんだけど。

*6:個人的には好きなんだけど、同格以上の相手になるとどうにも勝ちきれないんだよね。絶対的ストライカーが現れれば、もう一段階ブレイクスルーすると思うんだけど。そういう意味では、トーレスという可能性を有すスペインの方が未来はある。ポルトガルはデコのようなブラジルからの帰化選手が、FWというポジションに現れれば面白い。

*7:ブラジル戦で凄かったジダンもそこそこだったし、PKを取ったとはいえアンリもまだチームに噛み合っているとはいえない。

*8:近年のナショナルチームで元も強い印象を残した勝者。フットボールの進化を考えれば史上最強かもしれない。

*9:両チームとも守備は固いけれど、明らかに差があるのはGK。これまで顕在化していないだけで、バルテズには細かいミスがけっこう多い。対するブッフォンは完璧に近い。