ポルトガルvsオランダ


イエローカード16枚にレッドカード4枚の激闘。序盤にあった名勝負の予感が、審判のゲームコントロールと選手のラフプレーによって壊されてしまった面もあるけれど、国の威信を懸けた熱すぎる試合で、個人的には楽しめました。深夜というか早朝にリアルタイムで見たけれど、試合展開がカオスに満ち溢れていて、個人的にも感情的になってたので、どんな内容なのか頭に入らなかった。すぐ書いた雑感も感情入って滅茶苦茶だしね。というわけでもう一度振り返っておきたい。


4-2-3-1
         パウレタ

 フィーゴ    デコ    ロナウド

     マニシェ  コスティーニャ

バレンテ             ミゲル
     カルバーリョ  メイラ
          リカルド

ポルトガルは元FCポルト3センターが揃い踏みしたベストメンバー。怪我のアンドラーデとGK以外はEURO準優勝時と同じ陣容。フェリペ政権が生んだ完成品ですな。

攻撃の起点であるデコを中心に、中盤での優れた構成力からチャンスを作り出す。そのデコがサイドに流れたり、SBミゲルの攻撃参加、左右流動的に動くウインガーとの絡みでサイドを崩していく。デコを軸にマニシェの前への推進力とミドル、フィーゴの匠のキープ、ロナウドの独善的プレーがアクセントをつける。

  • オランダ

4-3-3
         カイト
 ロッベン           ファンペルシ

     コクー    ボメル

        スナイデル
ジオ               ブラルーズ
    マタイセン  オーイエル


      ファン・デル・サール

オランダはCBのブラルーズが右SB、これまでサイドで使ってきたカイトがCF。これまでエースとして重用してきたファン・ニステル・ローイは控え。ラフィーが病み明けで本調子ではなく、中盤は戦術遂行力では優秀も創造性を欠く。
深い位置からでも、早めに1トップに楔を当てる事から攻撃が派生。ニステルより機動力のあるカイトで幅を出したい狙いか。サイドで一対一を作り出すようなボールの運び方をして、サイドに張ったウインガーの突破力からチャンスを作り出す。DFや中盤は以前に比べ構成力に欠け、傑出したウインガーの個人技頼みになる嫌いがある。特にロッベンが消えると攻撃は半減する。

  • 互角の序盤

前半開始早々にブラルーズがロナウドへカンフーキック*1。その後の乱戦を予感させる悪質な一撃だった。これで痛んだロナウドはその後のプレーに精彩を欠き、結局前半途中で交代してしまった。不運。


序盤はオランダが厳しいプレスでポルトガルの中盤に自由を許さず、カイトのポストワークからロッベンやペルシとの絡みでチャンスを作り出す。時間が経つに連れて、デコがサイドに流れる事によってプレスを交わし、攻撃を組み立てていく。オランダは縦への楔とサイドへの単調な展開を読まれて、ボールカットから速攻を食らうことが増える。ポゼッションはオランダが上回るも、内容では互角の展開。


前半23分、右サイドからデコが入れたクロスをパウレタが見事なポストプレーで落とし、タイミングよく上がってきたマニシェが巧みなドリブルでマークを外してシュート。ポルトガルが先制。狙いであるデコがサイドに流れてのチャンスメイクが実を結んだ。マニシェは得意としている形でオランダキラー振りを発揮。


その後は、左WGファン・ペルシの独力でのドリブル突破からのシュート、サイドチェンジを受けたシモンからパウレタのシュートなど、お互いに決定機があるもスコアは動かず。試合を動かしたのは、主審のゲームコントロールの酷さ、退場劇による両監督の采配の妙。

  • 退場による変化

4-3-2

    フィーゴ     シモン

      デコ    マニシェ
         ペチート

バレンテ              ミゲル
     カルバーリョ  メイラ
         リカルド


前半終了間際にコスチーニャが警告2枚で退場。フェリペは1トップのパウレタを下げて、ペチートを投入した4-3-2にシステム変更。 普通ならCFを一枚は残す所だけれど、ロナウドの負傷によりシモンは既に途中投入されていて、経験豊富でキープ力のあるフィーゴは必要という事で、ウイングはCFを外せなかった。パウレタはフィニッシュ以外の仕事は出来ないので、数的不利での劣勢時には不必要と判断してのかもしれない。ウイングを2枚を残して、サイド攻撃主体のオランダに対し、サイドで数的不利を作りたくなかったというのもあると思う。

3-4-3
         カイト
 ロッベン           ファンペルシ
         ラフィー
    コクー       ボメル
        スナイデル
  ジオ
       オーイエル  ブラルーズ

      ファン・デル・サール

オランダはCBマタイセンに代えてOMFファン・デル・ファールトを投入し、DFを削って中盤を厚くする3-4-3に変更。ポルトガルは始めからロッベンに複数で対応するなどサイドの守備に重点を置いていたので、数的不利の中でオランダのMFがどんどん攻撃参加してくるようになった結果、バイタルエリアをケアしきれなくなって、フリーでミドルを打たれることが多くなった。それでもGKリカルドが好セーブでしのぎきる。オランダが攻め、守るポルトガルがカウンターという展開が続く。ここでオランダがチャンスを確実に決めていたら、その後の試合展開は大きく変わったはず。


この時マタイセンを下げるなら、本職ではないSBでほとんど機能してなく、一枚イエローもらって審判から目を付けられているはずのブラルーズを代えた方が良かったと思う。レッドを一枚出した審判が、帳尻合わせに相手へレッドを出す事はよくあるから、必須な選手でない限りイエローを持っている選手から代えていくのが常套策。荒れ試合になれている百戦錬磨のフェリペならそうしたと思う。結果論だけど、不可解なブラルーズのSB起用といい、ファンバステンは経験不足を露呈した。


結局そのブラルーズは、マッチアップすることの多かったフィーゴに翻弄されて、ドリブルを防ぐ為に肘を使って退場にさせられてしまった。ここはフィーゴの役者が何枚も上手だった。ブラルーズはロナウドを悪質プレーで負傷させたツケを払う格好になった。

3-3-3
         カイト
 ロッベン           ファンペルシ

    コクー      ラフィー     
        スナイデル
  ジオ          ハイティンガ

        オーイエル

      ファン・デル・サール

これでオランダは中盤で何度かミドルを打っていたMFファン・ボメルに代えて、DFのハイティンガを投入して3-3-3にシステム変更。数的有利を生かすためにせっかく攻撃的なラフィを投入して中盤を厚くする3-4-3にシステム変更したのに、またMFを削ってDF投入でを入れてやりなおし。これはファンバステンにとって大きな誤算。個人的には超万能型のコクーをDFに下げて後方に起点を作り、ミドルの打てるボメルを中盤に残した方が良かったと思った。

数的同数になってからはポルトガルペース。オランダはポルトガルの守備を崩せず攻めあぐね、鋭いカウンターでゴールに攻め入られる。頼みのウインガーもスペースを消されたり複数で囲まれたりして輝かない。中盤の攻撃構成力の差も出ていた。


両者一名づつ退場。その後は試合が荒れに荒れて収拾がつかなくなる。

  • WC史上に残る荒れ試合


まずレフリーの判断によるドロップボール、それをオランダのヘイティンガがボールを返さず勝手に猛然とドリブルしてしまう。冷静さを欠いて熱くなり過ぎていた為、フェアプレー精神などもうどこかへいってしまった。

ここで審判がやり直しでも指示していれば、あそこまで試合は荒れなかったはず。ハイティンガのドリブルを止めるために、デコが後ろから危険なタックル、そしてイエロー。ボールが帰ってくる事を予想したポルトガルの選手の足は止まっていたため、危険を察知したデコが警告覚悟で止めるのは仕方がなかった。まあ熱くなって報復しただけかもしれないが。

このせいで両チーム入り乱れての乱闘。スナイデルポルトガルの選手をもろに突き飛ばしてたりなど、通常なら一発退場プレーが続出。熱くなりすぎた選手達の悪質プレーも原因の一つだけれど、何より主審の酷すぎるゲームコントロールが、ベスト16屈指の好カードをこんな荒れ試合にしてしまった。

その後にデコが遅延行為で2枚目イエローを貰い退場。ハイティンガのドロップボール無視がなければこの退場はなかった。警告一枚貰ってるのに不用意な遅延行為、デコも冷静さを失っていたんだろう。審判は空気読めよなあ。


この後はポルトガルフィーゴを下げてチアゴを投入しシステムは4-3-1。オランダはコクーを下げてヘッセリンクを投入して3-2-4。こうなるとシステムとか戦術とかは大して意味をなさいない、気迫の篭った魂のぶつかり合い。個人の力量が勝負を分ける。

ポルトガルは9人になってもやることは決まっている。しっかり守ってカウンターを狙えばいい。粘り強い守備は見事だったと思う。

でも熱くなりすぎてたのか、CBのカルバーリョがドリブルで攻めあがったり、SBのミゲルがウインガーのように何度もゴール前に出てきたりで、数的不利で守備を固めたとは思えないカオスがあった。特にミゲル、数的不利で勝っているチームのSBが普通はあそこまで上がらない。でもおもしろい。ロッベンとも身体能力で互角以上に渡り合ってたし、この試合のミゲルは本当に頑張った思う*2。見直した。

  • 機能性を失ったオランダ

オランダの絶対的キーマンであるロッベンは、対面したミゲルのうまい対応、そして複数で囲い込む事によって、いつもの切れを消されてしまった。

これまでも指摘してきたように、オランダは中盤に創造性を欠く為、主武器のサイドを消されると機能性は低下する。頼みのラフィーは病み明けでまだコンディション不良。激しいタフゲームの中に埋没してしまい、期待されたファンタジーは最後まで発揮できず。ベルカンプの代表引退以来、この部分がオランダになくなってしまった。

他にもDFラインの司令塔F・デブールの代表引退によって、後方からのダイナミックなビルドアップも失ってしまっている。ピッチを広く使う上で起点の一つとなるSBも、左SBのジオはまだ良かったけれど、右にコンバートされたブラルーズは役立たずだった。

  • ゴールが欲しいオランダ

ピッチを広く使う攻撃が機能しようがしまいが、オランダは点を入れなくてはならない。そういう状況で誰が必要かというと、これまでこのチームでゴールを量産してきたニステルしかいないはず*3。今大会はプレーが安定せず不調だけれど、圧倒された象牙戦でゴールを決めたのはニステルに他ならない*4。その後もオランダの選手は決定機を外し続ける。それでもファンバステンニステルを使う事はなかった。感情的な何かがあったのかな。


最後は長身FWのヘッセリンク目掛けて、プライドを捨てた放り込み攻撃。確かにあの状況でパワープレーは有効。でも美しいパスサッカーを矜持とし、パワープレーやリアクションサッカーを忌み嫌ってきたオランダが、それしか打つ手がなくなるのは大きな失望。そういうスタイルを反面教師に発展してきたはず。しかも今回は数的優位。試合終盤にファン・ホーイドンクへの放り込みを選択した04EUROでもそうだったけれど、オランダが強豪相手の真剣勝負でパワープレーをしても勝利に繋がる事はない。結局パワープレーは奏功することなく、そのままポルトガルが逃げ切って勝利。

  • 美しかったオランダに思いを馳せる

98年WCフランス大会準決勝、ブラジル相手に試合終了間際までリードされながら、最後まで意地でもパスを繋いで、ピッチを広く使い、ドリブルで翻弄し、試合終了間際にR・デブールがサイドをえぐって、ドンピシャでクロスを合わせたクライファートが劇的な同点弾。この名勝負を見せてくれた頃のオランダを懐かしく思ったよ。
WCで一度も優勝していないのに、世界中から強豪と認知され期待されているのは、負ける時でも試合内容では圧倒して、敗れて尚強しを印象つけながら美しく散ってきたから。ユニフォームの色とは関係なく、今日のオランダに美しさはまるで感じられなかった。まだ全てにおいて若い新星オランダ、2年後は監督共々力をつけて復活してきてくれ。特にラフィー*5。期待している。

*1:ここでポルトガルを応援する事に決定。

*2:2年前の同一カードでも頑張っていたし、ロッベンとの対面を苦にしない数少ないSBですな。普段は不用意な攻撃参加が目立って危なっかしいけど、嵌った時のポテンシャルは凄い。

*3:冷静に見ると、先発1トップにカイトは決定力が不足していただけで、全体的な動きはそう悪かったわけではない。でもこういうタフゲームで、オランダ代表のCFとして試合を決められる選手ではない。だからファンバステンも今までサイドで使っていたのでは。

*4:他のCFは今大会でゴールを決めていない。

*5:後はスナイデルかな。彼らが輝いた3年前のEUROプレーオフ第2戦にオランダの未来を感じたから。ロッベンは怪我さえ泣ければ心配ない。中央で変化がつけば、サイドが手薄になってさらに活きる。新エースになるであろうフンテラールにも期待。