アルゼンチンvsメキシコ

アルゼンチン 2−1 メキシコ
【得点】
[ア] エルナン・クレスポボルヘッティ)(10分)、マキシ・ロドリゲス(98分)
[メ] ラファエル・マルケス(6分)

アルゼンチン:
アッボンダンシエリ;アジャラエインセ■、スカローニ、ソリン■、カンビアッソ(76分アイマール)、リケルメマクシ・ロドリゲスマスケラーノサビオラ(84分メッシ)、クレスポ(75分テベス

メキシコ:
O・サンチェス;サルシド、マルケス■、グアルダド(66分ピネダ)、オソリオ、カストロ■、・メンデス、パルド(38分トラード■)、ボルヘッティ、モラレス(74分シーニャ)、フォンセカ■

試合開始早々から互いに激しいプレッシャーを掛け合い、相手に自由を奪い、素早い攻撃に繋いでいく。プレッシャーのハイスピード、それをかわそうと攻撃もスピードアップするため、ハイテンポな試合になった。熱い。


序盤はどちらかというとメキシコペース。速攻からソリンの裏を突いてファウルゲット。セットプレーからマルケスが前半6分に先制。アルゼンチンもすぐに反撃、コーナーからクレスポが同点ゴール。ボルヘッティの頭に当たったオウンゴール気味のゴールだった。中身の濃い展開。


その後も互いに素早く攻め合うも、相手の厳しい守備にも苦しみ、なかなか決定機は作れない。互いに一点づつ取った後は、そこまで攻撃に人数を掛けるのではなく、様子をうかがう慎重なゲーム展開なった。


アルゼンチンは2トップの動きがこれまでに比べ良くなく、メキシコのハードマークにも苦しんで前で起点を作れない。後方からの攻撃参加も少なく、厚みのある攻撃も少ない。それでもリケルメが時折りフリーになり、スルーパスからチャンスを作っていく。


時間が経つに連れて、互いに激しいプレッシャーは和らぎだし、中盤でパスは回るようになった。ただしどちらもFWに対するマーク、中央ゴール前での守備は固く、少ない決定機も生かせず、最後の所で防ぎきる展開が続く。


前半終了間際、エインセがゴール前で不用意なボールコントロールをカットされ、苦し紛れにファウル止めてで警告を貰う。これは一発退場でもおかしくない、決定機の妨害だった。アルゼンチンは助けられた。これで退場して数的不利になっていたらやばかったと思う*1。前半はメキシコペースだった。


後半はアルゼンチンが前半より中盤でのパスを繋げるようになる。試合序盤ほどメキシコのプレスが厳しくない事、あるいは慣れたのか、アルゼンチンらしいポゼッションでリズムを掴んでいく。メキシコは中盤で人とボールをなかなか捕まえきれなくなる。


前半はマルケスに押さえ込まれていたクレスポは、後半にマッチアップを避ける狙いでサビオラと左右にポジションチェンジする事が増え、これによりクレスポへの楔が入りだし、中盤で前を向いてプレーできるようになっていた。


メキシコも豊富な運動量で組織的なプレスを見せるのだけれど、前述したトップの楔のプレーから派生する組み立て、そして中盤でいくら追い込んで囲み込んでも、アルゼンチンは司令塔のリケルメにボールを預ける事によって、巧みなボールキープでプレス・マークをいなし、フリーの味方、あるいはスペースにパスを散らしてしまう。これが弱点も多いリケルメを重用する価値。今日は所々パスミスも目立ったけれど、パスワークの最中タイミングを見計らってスルーパスも狙い、何度か決定的なシュートシーンも演出した。


試合はアルゼンチンのペースになりかけるも、メキシコも豊富な運動量で一歩も引かず、スコアは中々動かない。メキシコは選手の怪我もあり、ラボルペ監督が早めの選手交代を見せるのに対し、アルゼンチンのペッケルマン監督は中々動かない。テベス、メッシと前線に局面打開に優れたタイプを途中投入するのがこれまでのパターン。


試合が膠着してきた75分、クレスポに代えてテベス、そしてなんとカンビアッソに代えてアイマールを投入。監督がこれまで頑なに封印していたリケルメアイマールの共存。後半終了間際にサビオラに代えてメッシを投入、メッシ、テベスリケルメアイマールが同時にピッチに立つというサプライズ。これまで攻守のバランスを重視していたペッケルマンが勝負をかけてきた。


このテベスアイマールの投入で*2、明らかにアルゼンチンの攻撃のリズム、攻守のバランスに変化が出た。良くも悪くも。


まず中盤で運動量と守備能力に長けたカンビアッソを下げ、守備の苦手な攻撃的MFのアイマールを投入した事により、中盤の守備は弱くなったと思う。全体の運動量低下で全体も間延びしだし、メキシコのパスワークに苦しめられ、空きだしたバイタルエリアを途中出場のシーニャに突かれてしまうシーンもあった。


攻撃面では、ボールを持ってキープするリケルメに比べ、玉離れが早くスペースへも飛び出すアイマールの投入により、それまでより攻撃のテンポは上がり、テクニシャンの共演でパスコンビネーションのバリエーションは増えた。ただし、これまでのリケルメを最大限活かすための遅攻中心のパスサッカーとは趣が変わり、守備に忙殺される事も増えたリケルメの存在感は薄まってしまい、アイマールもチームに完全にフィットしているわけではなく、チームとしての安定感はなくなってしまった*3


メッシとテベスの2トップは、クレスポサビオラの比べ楔のプレーやボールを中盤から引き出す動きは少なく、足下でボールを受けてドリブルでガンガン仕掛けていく。2人のドリブルによる効果もあったけれど、他の選手が前を向いてプレーできるように、前線でポストプレーのできるクレスポは残した方が良かったとも感じた。


攻守のバランスは悪くなり、前線のポストプレーからの展開は少なくなった。ただしメキシコの組織的なマークやプレスをモノともせず、個人の力で膠着状況を打開してしまうもう1つのアルゼンチンサッカーの魅力が出始めた。組織・戦術の拮抗を、個の打開力によって打ち破る力強さ*4。ロスタイムにはリケルメアイマール、メッシのよる素晴らしい崩しでゴールを揺らすも、疑惑のオフサイド判定。これが決まっていればペッケルマンの采配は大当たりと絶賛されたでしょう*5


メキシコはドリブルによって苦しめられるも、チャレンジ&カバーの徹底、球際の激しさで何とか凌いで、ボールカットから手薄となった中盤守備を掻い潜りチャンスも作り出す。お互いの布陣が間延びした中、ゴール前を行き交う展開になったけれど、スコアは動かず延長突入。


延長に入ると両者の消耗度は極限、中盤でプレスも掛からなくなり、打開力に優れたアルゼンチンペースになった。ここで勝負を決めたのは、ペッケルマンの勝負采配とは関係ないところの、マキシの素晴らしい個の閃き。ソリンからのサイドチェンジを、胸トラップからボレーシュートでゴールに叩き込んだ。メキシコもDFのいたけれど詰め切れなかった。あの位置でこんなプレーをやられてはどうしようもない。


マキシは、終盤に前掛りになったアルゼンチンの中、攻守のバランス取りに奔走して脇役的なプレーが多かったのだけれど、この場面で他のスター選手を差し置いて決定的な仕事をしてしまった。素晴らしい。守備での貢献度も高く、得点機にも多く絡んでいる今大会での活躍は特筆されるべき。


その後はアルゼンチンが巧みなボールキープ、パスワークで時間を使いながら試合終了。リードした時の、「テクニック」で相手のプレー時間を奪いながら守る試合運びは流石。メキシコも最後までチャンスを作ったけれど、アルゼンチンは球際での粘り強い守備で防ぎきった。


両チームとも持ち味を発揮し、中身の濃くレベルの高い好ゲームだった。

6月25日:優勝経験国ドイツとアルゼンチン、強さを見せる

  • アルゼンチン

アルゼンチンは強いですね。優勝しても全くおかしくないチーム。スタメンだけなら優勝候補筆頭の評には値しないと思う*6けれど、メッシやテベスなどの切り札を持っている事で、チームに2つの顔があるのが強み。試合途中に局面打開に優れた選手の投入するのは、どのチームにとっても驚異。ただ高さ、ドリブルへの対応には不安もあって、磐石ではないと感じた。右SBは4試合でブルディッソコロッチーニスカローニと3人も試しているけれど、3人とも決定打に欠ける。次は勢いづいている開催国ドイツとの準々決勝。地力ではアルゼンチン有利も、試合日程や消耗度の面で遥かにドイツが恵まれている。凄く楽しみだ。

  • メキシコと日本

メキシコのテクニカルなパスサッカーは、アルゼンチン相手にも十分通用していた。所詮ベスト16の壁を破れない中堅国の限界、と決めつけるのは簡単だけれど、相手が悪かっただけで、サッカーの中身の充実はかなりのもの。体格的に大差のない日本との共通点がよく語られるけれど、日本よりフィジカル・技術・駆け引きなど多くの部分で優れていて、何より今大会の両チームを比べると組織力が段違い。その差をもの凄く感じた。


メキシコでさえこれだけの組織的なサッカーを志向しているんだから、日本の4年間は明らかに間違っていたと思う。個々の判断・自主性を重要視するサッカーが間違いというわけではない。それはメキシコも重視しているし、どんなサッカーをやるのも重要な事。でもメキシコの守備や攻撃が、選手達の話合いだけで構築されているとは思えない。選手の自主性以前の、選手任せにして守備組織の構築を怠った事や、チーム戦術・戦略、選手選考、チームマネジメント、試合中の采配もお粗末なジーコに、代表監督を4年も任せた事が明らかに間違いだった。

個々の判断を重要視するサッカーを志向する事と、ジーコにチームを任せる事は全くの別物。そういう方向性の監督が世界中にジーコしかいないならまだ理解できるけど、ジーコより実績のある優れた監督はいくらでもいるんだから、ジーコでなければ駄目だったという理由はない。ジーコ以外に知識がなくて知らないだけかもしれんが。

選手任せにしただけの秩序なき自由を支持して、ジーコで勝てると楽観論を蔓延させたサッカーライターやマスメディアなどの人達は猛省してください。大会の総括や今後の方針についてどうこういう前に、まずは自分の判断の間違いを反省して欲しい*7。マスメディアも賢くならないと、日本サッカーは強くならない。これから各種メディアで敗因をそれ以外の事だけに責任転嫁して、自己正当化した言い訳が始まると思うと憂鬱。というか既に始まっている。

サッカー協会トップの川渕の「個が劣っていた事だけが原因で負けた」みたいな主旨の総括は最低だと思う。そんなの4年前から明らかだった事じゃん。勿論、選手個々の成長は絶対に必要な事だけれど、それ以外の様々なことが代表強化に必要。監督がオシムになったからといって即強くなるわけではないし。

最後は愚痴になってしまったけれど、日本の事を忘れられるくらいの好ゲームでした。

*1:個人的には好試合が壊れなくて良かった。

*2:メッシはもう少し後だったからね。

*3:この2人の共存は、互いが持ち味を最大限引き出し合っているとは言いがたく、守備面のバランスを考えても、あくまでオプションでしょう。

*4:グッドルーザーと、勝者との違いはここだと思う。

*5:延長終了間際にも、テベス、メッシ、アイマールによる素晴らしいパスコンビネーションによる崩しがあった。

*6:リケルメを潰されたら機能性は半減する。

*7:まあその人達が今後何を言っても書いても説得力はないけれど。