クロアチア戦


両チームにとって、勝てる試合でもあり、負ける試合でもあった。客観的に判断するならクロアチアが勝ちを逃した試合だろうか。決定機を外してしまうチームに勝利の女神は微笑まない。両チームとも必勝・そして負けられない試合で慎重になり、リスクを犯してでも勝とうとする姿勢も見えなかった。そういう意味で引き分けは妥当な結果だと思う。

日本:4-4-2
川口能活■;宮本恒靖■、三都主アレサンドロ■、加地亮中澤佑二中田英寿小笠原満男中村俊輔福西崇史(46分稲本潤一)、高原直泰(85分大黒将志)、柳沢敦(62分玉田圭司

クロアチア:3-5-2
プレティコサシムニッチ、ロベルト・コヴァチ■、シミッチ、トゥドール(70分オリッチ)、スルナ■(87分ボシュニャク)、バビッチ、ニコ・コヴァチ、クラニチャル(78分モドリッチ)、プルショクラスニッチ

まとまりはなく適当に。


日中の猛暑が試合の展開を決めた。クロアチアはペース配分を考え、フォアチェックや中盤での激しいプレッシングを封印し、ラインを引き気味にして、リトリートからのカウンター狙い。これにより素早いショートカウンターの脅威はなくなった。

相手の中盤でのプレスが弱く、オーストラリアの様な激しいマークもないため、日本は中盤である程度ボールを回せた。ポゼッションサッカーを志向する日本の生命線はボール回し。攻撃でもパス回しによりリズムを作り、守備でもパスを繋ぎながらラインを押し上げることが重要。その点で、前のオーストラリア戦よりは自分達のサッカーが出来たといえる。

ただポゼッションを握って押し込む時間帯はあったものの、ゴール前に近づくにつれて精度が下がり、簡単にボールカットされカウンターに繋がれてしまう。引いて守ってカウンター狙いのクロアチアの術中に嵌められた格好。特に疲れでクロアチアが引いた後半は、ボールを回させられるシーンが目立った。



クロアチアは日本の弱点である左サイドの守備を徹底的に突いてきた。右WBのスルナに攻撃参加したサントスの裏を突かれ、戻って対応した場面でも、寄せが甘く簡単にクロスをあげられてしまう。あれだけエリア内にサイドからクロスを上げられて無失点で済んだのは、スルナのクロス精度が安定しなかった事、守備陣の頑張り、そしてクロアチアの決定力不足という運があった。

PKはクロアチアの狙いとおリ。リスクのないロングボールを放り込んで、少ない人数での攻撃。その何でもないシーンで宮本が相手を倒してしまう。ここで決められたら日本の得点力を考えると勝利はほぼ絶望的。それを川口が神懸り的なPKセーブ。クロアチア最大の誤算。


日本の中盤守備、ボランチの中田が頻繁に上がるため、中盤の底を一人でケアする事が多くなった福西の負担は相当なものだった。試合序盤に貰った膝蹴りの影響なのか、暑さによる疲れなのかは定かではないけれど、バイタルエリアで不用意に交わされることが多く、相手トップ下のクラニチャルにチャンスを作られ、得意の空中戦でも劣勢になるシーンが多かった。

ジーコは後半、その福西に代えて稲本を投入。中盤の守備の補填、そして運動量という面*1で、悪くない交代策だったと思う。後半に消耗度の激しい2トップに代えて、フレッシュなFWを投入する采配も妥当*2。オーストラリア戦では致命的な采配ミスを犯したジーコ、この試合では采配面において致命的なミスはなかったと思う。それ以前の、クロアチア戦を見据えたチーム作りについては長くなるので省略。


日本の攻撃では、素早いパス回しからサイドのスペースを突くサイド攻撃が何度かあった。加地とサントスのスピードはある程度通用し、3バック横のスペースを突くという狙いはある程度うまくいっていた。ただ中央を固めたクロアチアの守備は堅く、日本はなかなか崩し切るところまで至らない。

引いて固める守備を何とか打開しようと、中田やサントスが積極的にミドルシュートを打っていった。ただゴールを奪うほどの精度はない。可能性があるシュートを打てるのは中田くらい。ただ積極的に打つ姿勢は良いと思う。

日本の攻撃は、FWに楔を入れてからの連動で始まる事が多い。そのFWになかなかボールが収まらないため、攻撃に深みが全くでない。日本の2トップはスペースを突く動きに優れたタイプであり、ラインを深くしてスペースを消して守るクロアチアの守備との相性は良くなかった。

ラインが下がってしまったり、疲れが見えたりした時間帯では、全体が間延びしてしまい、FWは孤立してしまっていた。それをフォローすベき2列目も運動量、気の利いたオフザボールの動きが足りない*3。ベンチワークで改善しようにも、サブに飛び出しに優れたMFはいない。パサーばかり揃えた弊害。中田の攻守に献身的な運動量だけが目立っていた。



終盤、クロアチアはトゥドルを外してオリッチを投入し3-4-3、サイドも引き気味で3トップを前線に残す5-2-3のような形。中盤の構成力を捨てて、リアクションから前線の個人技で点を狙う完全なカウンター狙い。勝負の時間帯。

これに対して日本は、疲れから集中力の切れが目立ち、パス精度が低く、ボールレシーブの動きも不十分で、ビルドアップのミスから速攻を許してしまう。相手も疲弊して、中盤ではある程度自由にやらせてくれたのに、ミスからの速攻を受け、なかなかペースを握れない。

相手は高い位置からボールを奪い来ることはなかったのだから、もっと落ち着いてパスを回して、ピッチを広く使うサイドチェンジも交えながら、相手を走らせて疲弊させる必要があった。これが出来なければポゼッションサッカーを志向する意味はない。相手の守備陣形が整っているのに、焦って縦にパスを入れてしまい、カウンターを受けるというシーンが終盤は非常に目立った。


クロアチアは深い位置からの少ない人数での攻撃が主体だったため、そこまで脅威はなかったはず。ただ前述した不用意なミスからカウンターを受けるシーンがあまりに多く、数多くの決定機を作られてしまった。自分達の守備陣形が整う前に攻撃を受けるため、相手の攻撃はシュートで終わることが多く、逆にこちらがカウンターを仕掛ける場面は少なかった。

どうしても対応の難しい数的同数・不利の状況で攻撃を受けるため、コーナーキックフリーキックの場面も数多く作られてしまった。逆にミスからのボールロストの多い日本の攻撃は、シュートや相手ファウルで終わることは少なく、逆に速攻を受ける方が多いため、息つく暇もなく守備に戻ることで消耗してしまった。効率の良さで判断するのなら、クロアチアの方が内容は上だった。


効率の悪さといえば決定力。唯一といって良い決定的なチャンス。加地と高原のワンツーから、柳沢が3人目の動きで抜け出し無人のゴールにシュート……。崩し方としては、日本の長所が出た素晴らしいグループによる崩しだったと思う。これを柳沢がゴールマウスに押し込むのではなく、アウトサイドで相手GKの股の間にシュートしてしまう。残念。


試合終了間際のサントスの突破シーン。*4。あの疲労困憊に場面、あそこまで独力で突破してくれて、中にクロスまで入れてくれたのに、飛び込む選手が誰もいない。一人はニアに飛び込むのが鉄則だろう。全員良い状態でシュートしようと、マイナスのボールを受けようとしてしまっている。ただこれは今発覚したわけでなく、代表で度々散見されているシーン。改善策の一つとして、練習でクロスの時に飛び込むパターン練習をするとかがあるわけだが、実際は本番直前まで単純なシュート練習ですからね。


両チームともチャンスを外してドローに終わった。これも必然か。


これでブラジル戦での2点差勝利がトーナメント進出の最低条件。やはり初戦のオーストラリア戦が全てだったと思う。初戦に勝っていれば、ここで引き分けたのは大きな前進だった。あそこで勝ち点を落として、しかも相手に与えてしまったから、ここに来て大きなツケを払う事になってしまっている。うーん、とりあえず選手達の意地を見たい。このままでは終われないでしょ。

*1:この日の福西が90分持つとは思えなかった

*2:タイミングは少し遅かったような気はするけど。ただ問題なのは、あの状況で最重要な点を決める能力が今の玉田と大黒にあるかという疑問が拭えない事。引かれてスペースのない状況、クロアチアのDFのスピードと疲労度を考えると、スパーサブとしては独力で局面打開できるドリブラーが欲しかった。でもサブにはいない。これは代表人選の問題。まちゅい。

*3:攻撃の中心として期待されていた俊輔は、怪我や発熱の影響なのか、マークが激しく環境も過酷なタフゲームでは持ち味を出せないのか、とにかく本来の調子には程遠い。それでも時折り見せる気の利いたパスや、タメを作るキープ力は流石だが。でももっとできるはずだし、やってくれないと困る。

*4:サントスは守備では相変わらずザルだったけれど、ドリブルは相手に脅威を与えていた。このビッグゲームで大半の日本選手がリスクを負わないプレーを選択する中、積極的にドリブルで打開しようとした事は評価したい。日本人らしからぬメンタリティー、と思ったらブラジル出身者だ。WCのここ2試合、組織力のないチームで、日本人の短所がもろに出てしまっていると思う。個人的には攻撃でも守備でも脅威を与えていたサントスを、攻撃に専念できる高い位置に上げるような交代策が見たかった。