出場国親善マッチ

クレスポ 35'、ルーニー 37' 、アジャラ 53'、オーウェン88'、オーウェン90'


強化マッチなので試合そのものより、本大会に向けた両国の印象について主に書きます。まだ途中。

アルゼンチン:変則4-4-2(3-4-2+ソリンw)
アボンダンシエリアジャラ(74分コロッチーニ)、サムエル、サネッティ、ソリン、デミチェリスカンビアッソリケルメ(84分L・ゴンサレス)、マキシ・ロドリゲステベス(80分クルス)、クレスポ(70分サビオラ

イングランド:4-4-2
ロビンソン;ブリッジ(46分コンチェスキー)、リオ・ファーディナンド、キング(58分ジョー・コール)、テリー、ヤング(80分クラウチ)、ベッカム、ジェラード、ランパードオーウェンルーニー

  • 試合

試合は一進一退の好勝負。FIFAランキング上位入りで本大会シードを確実にしたいイングランドが、親善試合とは思えないテンションで試合に挑み、宿敵アルゼンチンもそれに呼応する。

前半35分、右サイドを突破したマキシ・ロドリゲスからのクロスをクレスポが合わせてアルゼンチン先制。前半39分、アジャラのクリアミスをベッカムが頭で後ろにそらし、飛び込んだルーニーが右足でシュートを決め同点。後半8分、リケルメのFKに飛び込んだサムエルがヘッドでゴールし勝ち越し。

展開としては終盤までリードしていたアルゼンチンペースだった。細かいパスワークをしてくるテクニカルなチームにはいつも押し込まれるイングランド。パスの奪い所を見つけられず、ラインをズルズルと下げてしまう。これは今後の大きな課題であろう。

リードして迎えた終盤、アルゼンチンは親善試合の定石通り終盤に主力選手を引っ込め半ばテストモード。対するイングランドはRSBに代えて202cmの電柱FWクラウチを投入、なり振り構わぬパワープレーで勝利を目指す。アルゼンチンはこの攻撃的布陣に対応できず、その差が勝敗を分けた。

残り10分で投入されたクラウチが前線で抜群の存在感を見せ付ける。イングランドクラウチ目掛けてロングボールを放り込むパワープレーに対し、急に安定していたアルゼンチンDFが慌て出す。
その隙を突いたオーウェンが終了間際に2得点。ジェラードの右サイドからのアーリークロスからヘッドで同点にすると*1、ロスタイムにはコールの左サイドからのクロスにヘッドを合わせて逆転。どちらもDFはクラウチに引き付けられていた。

既にリケルメを欠いたアルゼンチンは攻め手なし。その後は危なげなく逃げ切り、イングランドが劇的な逆転勝利を飾った。FIFAランキング上昇でシード権獲得にも成功か。


  • アルゼンチン

攻撃はリケルメを中心とした細かいパスワークから中央突破主体の典型的なポゼッションサッカー。プレーテンポのゆったりとしたリケルメを経由するため、必然的に攻撃は遅攻が多くなる。イングランドをも翻弄するパスワークは絶品。

  • 華麗なパスワークのペッケルマン色

中央突破主体で、サイドのスペースを意識的に崩す攻めは少ない。ビエルサの速攻主体のスピーディーなサイドアタックとは対照的*2。強烈なプレッシングから手数をかけない電光石火のショートカウンターも少なくなっている。

ペッケルマンのリケルメという際立った個を最大限活かすサッカーと、ビエルサの一人の選手には依存しないサッカーとはアプローチは正反対。この試合はペッケルマン色が良い方向に出て、イングランド相手に完全に中盤で主導権を握った。

リケルメを中心としたサッカーは、この試合のように彼の調子が良い時は機能する。この試合でもずば抜けたキープ力でタメをつくり、パスにシュートで攻撃に彩りを加えるなど、完全にアルゼンチンの中心として君臨。ただリケルメがコンフェデ決勝のように不調だったり、マークされて消されてしまう展開になると、攻撃が機能不全に陥ってしまう恐れがある。

ペッケルマンは中盤の王様タイプは一人で十分という哲学らしく、同じテクニカルなMFであるアイマールダレッサンドロを重用しない。今回は共に不召集。リケルメと別のOMFと共存させるにしても、アイマールのような司令塔タイプではなく、リケルメとは特徴の違うマキシやルーチョのようなダイナミズムのある選手を好んで起用している。

リケルメのような癖のある王様タイプを活かすには、似たような役割を担うMFはチームに一人で十分かもしれない*3。それでも、バックアップや攻撃のオプションとして代役を呼ぶべきだと思う*4

ビジャレアルではリケルメに依存したサッカーが成功したけど、資金力が限られる中堅クラブと違い、アルゼンチンの中盤は才能の宝庫。ぜひテクニシャンの共存の道も探って欲しいところ。特にアイマールはWCでもぜひ見たい。

  • どこか危うい守備

守備に関して個々の能力にはあまり問題がない。クラウチ一人にかき乱された空中戦の不安もあるけど、アジャラ、サムエル、コロッチーニなどは世界トップレベルの高さを誇るし、クラウチみたいな脅威の電柱は世界にもそういないので弱点とまではならないでしょう。

問題はビエルサの用兵術。スタメンを見てソリンとサネッティがSBのオーソドックスな4バックだと思ったけど、左のソリンが神出鬼没に動き回りまくるので、サムエル、アジャラの2バック、もしくはサネッティボランチが下がった3バックになる時間帯が目立った。そして右のサネッティも上がりまくる。

サネッティはサイドで攻撃に持ち味がある選手。リードした終盤は右DFは本職CBでSBもこなせるコロッチーニ*5を使って、本職CB3人の3-5-2にして後方の不安をなくすべきだったと思う。相手の3トップにきっちり対応し守りを固めれば逆転されなかったはず。ビエルサはコンフェデでもCBのミリートボランチで起用したりと、守備面に関しては甘い部分がある。ブラジル相手には崩壊。

  • 本大会に向けて

ペッケルマンはあと半年でどうチームを完成させるつもりだろう。あくまでリケルメ中心なのか、そこにアイマールを組み込むのか。そして天才メッシも控えている。現状だと本大会躍進の鍵はリケルメのコンディション次第。彼がマラドーナになれれば優勝は十分可能。


エリクソンが悩みに悩んでいる中盤の構成。今回の中盤はキングが底、その前方にベッカム、ジェラード、ランパードが配置された。そのためジョー・コールはベンチに。

  • イマイチ機能しなかった攻撃

本来CBのキングがアンカーとして守備のタスクを担い、他のCHの攻撃性能を最大限活かす狙いは、攻守にそこそこ機能していたと思う。ただし、イングランドの誇る豪華なCH陣も、流石にテクニックとパス回しではアルゼンチンに劣っていた。パスを回して崩す狙いも、攻めあぐねるシーンが目立ち、必然的に攻めはカウンター主体に。

ショートパスでは崩せなくなると、ベッカムロングフィード中心の散発的な攻撃が多くなる。確実に味方にボールが渡る確率は高くない。ただし、そのロングフィードやクロスボールは正確無比。クロスに合わせるFWの背が低い事が悩みの種。ここに決定力が高いクラウチがいれば鬼に金棒なのだが、天はニ物を与えず。

  • 局面打開の必要性

スタメンにはドリブル突破で局面打開する選手が少ないため*6、相手に守備網をきっちり作られると敵陣深くに入れなくなってしまう。リケルメのようにキープしてリズムを変えられる選手も存在しない。

後半途中に、テクニックがありドリブル突破のできるコールを入れてからは、攻撃パターンが増えた印象を受けた。リズムを変えられる彼の存在は貴重。スタメンとして機能させたいところだが、流れを変えるスーパーサブとしても捨てがたい。

  • 高さという攻撃のオプション

リーグ戦ではノーゴールのクラウチは、代表にとっては確実に大きな武器になりうることを証明。チェルシーさえも翻弄した高さは初対決では止められない。終盤でのパワープレー要員として、ゴール前であの巨大な存在は脅威。攻撃のオプションとしてメンバー入りはほぼ確実でしょう。

  • 本大会に向けて中盤の構成をどうするのか

イングランド最大の問題は、中盤のベストな構成を見つけること。ここにエリクソンは試行錯誤を繰り返している*7。個々のタレントで選ぶなら左からコール、ランパード、ジェラード、ベッカムを並べる形。

ただこの4人を並べる布陣だと、中盤の守備バランスにに不安が出てしまう。格下相手には圧倒出来ても、イングランドはテクニックとパス回しが世界トップレベルの相手にはいつも押し込まれてしまうので、*8、そのような強豪相手には不安が大きい。カウンター狙いなら守備重視で行くのも一つの手。

世界最高峰のCHのランパードとジェラードも、守備力のあるMFと中央で組んでこそ持ち前の攻撃性能が活かせる*9。かといってアンカーに守備職人を起用すると、4人の内誰かが起用できなくなる*10。悩ましい。

守備陣はやはり世界屈指。前線にもオプションが増えてきた。中盤の問題が解決されれば、イングランドは有力な優勝候補に踊り出るであろう。

関連リンク
http://d.hatena.ne.jp/encyclopector/20051115#p3

*1:この同点弾の後にクルスがペナ内で倒されたんだが、微妙なノーファール。アルゼンチンが負けてたらPK取ったと思う。

*2:どちらが良い悪いとかではなくね

*3:前任者のビエルサはプレーリズムのゆっくりとしたリケルメを重用せず、アイマールダレッサンドロの共存させ、スピーディーなサイドアタック中心という道を選んだ。

*4:もしリケルメが怪我でもしたら、ジダンを欠いて崩壊した2002年のフランスのようになってしまう恐れがある

*5:実際はアジャラとのCB同士の交代だった。ここはサネッティかマキシと代えてDFラインに入れ、残った方を右WBにした方が良かったと思う

*6:下がってボールを受けにくるルーニーくらい、オーウェンは攻撃の組み立てにはほとんど参加しない選手。

*7:4-4-2フラットにしたり、ダイヤにしたり、4-1-2-3にしたりと

*8:EUROでのポルトガル戦、フランス戦など。オランダ、スペイン、アルゼンチン、ブラジルにもまずポゼッションは握られるでしょう。

*9:以前エリクソンベッカムを中盤の底に配置し、二人をその前方に並べて大失敗していた。それは流石に諦めたようだ。

*10:今日はキングを起用したのでコールが外れた