中田浩ニ問題

日本代表MF中田浩二(25=鹿島)が26日、フランスリーグの名門マルセイユへの移籍を正式表明した。今日27日に現地入りしてメディカルチェックを受けた後、契約書にサインする。既に複数年契約の年俸5000万円を提示されている。31日で鹿島との契約が終了するため、移籍金は発生しない。契約のために代表合宿を途中で抜けるのは異例だが、ジーコ監督(51)から祝福され、晴れてフランス行きが決定。早ければ今月中に帰国し、2月9日のW杯アジア最終予選初戦の北朝鮮戦(埼玉)に臨む。(金額は推定)
http://www.nikkansports.com/ns/soccer/p-sc-tp0-050127-0002.html

どうやら移籍金0でのフリー移籍になってしまうようだ。今回の中田浩二の決断が正しいのかそうでないのかは分からない。ただ契約期間切れを狙ったフリー移籍というのは不況の欧州マーケットで珍しい事ではなく、ルールからは何も逸脱していない。ルールに則っていれば何をやっても良いという訳ではないけれど、少なくとも誰かが一方的に悪者扱いされるような問題ではない。

何やら各所で代理人が一方的に悪者扱いされたり、鹿島の足元を見たとされるマルセイユ批判を多く見かける。中田浩二が裏切り者という意見も。代理人マルセイユ側の対応が完璧だったとは思わないし、中田浩二本人を含め鹿島に対して誠実さに欠けた面はあるかもしれない。でも今回の件は、「鹿島が被害者でマルセイユ代理人が加害者」、という単純な二元論では括れない問題だと思う。

確かにマルセイユが提示した移籍金はJリーグの常識からいったら低すぎる。ただ中田浩ニがいくらJリーグや日本代表で実績のある好選手とはいえ、ヨーロッパではまだ何の実績もない。まして1月31日で契約が切れるため移籍金0で手に入れることが出来る。そういう選手と交渉する際に、足元(便宜上)を見ないクラブは欧州に存在しない。ごく普通の交渉である。現行契約が残り一週間という時点で、マルセイユと鹿島が対等に交渉するのは難しい。明らかに買い手のマルセイユが有利な条件(ましてや選手自身は移籍を希望している)。こういう状況で代理人の出来る事は限られている。

国際移籍では、今回のように契約期間が残り僅か(今回は一週間)の場合、移籍金0でのフリー移籍が常識となっている。残り半年であっても値下げ幅は激しい(スタンコビッチとか)。ただマルセイユ側も日本独自の習慣を考えたのか、今回の交渉で数千万円の移籍金を提示してきた。それは鹿島側にとって万満足のいかない額だったろうけど(ただし欧州基準では的外れとは言い切れない)、契約を結んでいないという不利な条件が存在するのは確かで、たとえ契約が万全であっても、鹿島側の要求する移籍金を経営難のマルセイユが払うのは難しい。この金額交渉が「正当ではない」とは言い切れない(勿論多少は舐めてはいると思うけど)。

契約が残っていたなら金額について交渉の余地は残っていただろうけど、鹿島側は昨年夏もしくは昨年末の時点で契約延長に成功していない。せめてマルセイユのトライアウトに参加させる前に(参加条件として)契約を結んでおけば問題なかったのだけど、大事な時期にもかかわらず契約しないままトライアウトに行かせてしまった。契約問題に関してはお互い様々な事情があっただろうけど(昨年は怪我のため中田自身が断ったとか)、契約していないという結果だけを見れば鹿島側の失策と捉えられても仕方ない。

結局マルセイユが提示した移籍金を、鹿島側は不服として受けず、中田浩二自身の判断に委ねた。「クラブとしては移籍を認めるわけにはいかないから移籍金は受け取らないが、本人が契約しないなら仕方ない」というスタンス。

鹿島が24日、マルセイユ移籍を希望するMF中田浩二(25)に最後通告を出した。契約交渉は平行線に終わり、鹿島側は(1)契約を更新し残留、(2)31日で切れる契約を全うし、移籍金0でマルセイユ移籍の、二者択一を要求した。
http://www.nikkansports.com/ns/soccer/p-sc-tp0-050125-0005.html

サッカークラブにとって、選手は「戦力」としてだけではなく、人的な「資産」という側面もある。ボスマン判決以降、欧州ではクラブが選手に対して複数年契約をするのが常識。そうでないと貴重な資産にフリーで移籍されてしまう。資産というからには、他のクラブに高く売って利益を上げる事も可能。どう資産運用するかは各クラブの判断。

そうした大切な「資産」ともいえる存在に対して、クラブ側が判断を委ねてしまったのはどうかと思う。しかも提示された移籍金に見向きもせず、残留かフリー移籍かという二者択一。中田浩二の意思を極力尊重しての判断で、彼が義理を重んじて残留という判断をする一縷の望みにかけたのかもしれない。でもこの決断いかんによって中田浩二の印象が180度変わってしまいかねない。残留すればヒーローだけど、移籍すればどうしてもイメージが悪くなってしまう。一介の選手には酷な選択と思えなくもない。

そして結果的に中田浩二はフリーでの移籍を決断(これは鹿島に対して不誠実な面があるかもしれない)、鹿島の希望通りの結果にはならなかった。クラブからしたら満足いかない経緯・移籍金額とはいえ、情に訴えかけて選手個人の判断に望みを託すよりも、クラブの判断として移籍金を貰った方が得策だったように思う。ただでさえ慰留できる可能性は低かったのだから。

鹿島は中田浩の無償流出に落胆するとともに、今回の交渉に不信感をあらわにした。マルセイユからの文書には「フリーになる選手」と31日の契約切れを意識した文言もあるなど、牛島社長は正当なクラブ間交渉ではないことを強調。「退団前提の移籍話に屈するわけにはいかなかった。結果、日本サッカー界の貴重な戦力が無償流出した。鹿島だけの問題じゃない。プロテクトなども考えないと、次々起こる可能性がある」と危機感を口にした
http://www.nikkansports.com/ns/soccer/p-sc-tp0-050127-0004.html

中田浩の移籍について日本協会川淵三郎キャプテンは「(移籍金0は)今のルールでは仕方がない。(国内の)クラブが損をしないよう考えないといけない」と発言。今後、海外移籍を希望する選手には、所属クラブが複数年契約を結び、契約が切れる前年までに契約を更新していくなど「契約切れで移籍金0」という事態を避ける具体策を検討することを明かした。
http://www.nikkansports.com/ns/soccer/p-sc-tp0-050127-0015.html

代理人マルセイユ側、中田浩二、鹿島の4社の内の誰が悪いというより、やはり「契約が切れても移籍金が発生する」という日本独自の移籍制度(30カ月保有権)に問題があると思われる。この制度のせいで複数年契約が日本では重要視されない側面がある。契約切れ間近の選手を来季の主力として計算するのは日本だけで、海外ならフリーになる半年前に放出先を探す(移籍を拒否して干される選手もいるが)。

こういったケースを反面教師にして、Jリーグ全体でルールの整備やクラブの契約に対する意識改革を進めていく必要があるように思う。日本人の海外移籍が一般化されてきた昨今、こういうことも予測して、海外移籍の可能性のある選手にはこれまで以上に複数年契約を結ぶ必要性が迫られている。このようなケースでJリーグのクラブが損失を被るケースを二度と起こさないように。そうでないとまたきっと同様の問題が生じてしまうだろう。鹿島だけではなく、どのクラブにとっても他人事ではない問題である。