サウジ戦メンバー

▽GK 川口能活(磐田)、山岸範宏(浦和)、西川周作(大分)

▽DF 三都主アレサンドロ(浦和)、加地亮(G大阪)、田中マルクス闘莉王(浦和)、駒野友一(広島)、伊野波雅彦(東京)、青山直晃(清水)

▽MF 羽生直剛(千葉)、中村憲剛(川崎F)、鈴木啓太(浦和)、野沢拓也(鹿島)、阿部勇樹(千葉)、田中隼磨(横浜)、今野泰幸(東京)、山岸智(千葉)、長谷部誠(浦和)、本田圭佑(名古屋)

▽FW 巻誠一郎(千葉)、我那覇和樹(川崎F)、高松大樹(大分)、前田遼一(磐田)、佐藤寿人(広島)


播戸、佐藤勇、水本が負傷で召集外。という事は、リーグ戦不調の千葉からは最多の6人だったということか。そんな教え子の千葉勢優先ということを除けば*1、概ね妥当なメンバー選考だとは思う。GK以外でベテランといえるのはサントスくらい。これまでと同じように、先を見据えたメンバー選考ですね。

  • GK

いつものメンツ。

  • DF

山口、負傷の水本が外れて、U-21から伊野波、青山が招集。Jリーグでも活躍している青山はともかく、伊野波のパフォーマンスはそれほどでもないので不思議。CB出場し4失点した川崎戦での守備はザルだった。複数ポジションをこなすユーテリティ性と将来性重視枠だろうか。

  • MF

病気の遠藤、腰痛の佐藤勇、二川が外れて、播戸、本田と野沢が初召集。本田は左アウトサイド、野沢はシャドーでの起用だろうか。2人とも運動量よりテクニックに特長のあるタイプ。選考に置いて、これまでより技術面を重視した印象を受ける。


マリノスでレギュラーを外された隼磨も変わらず召集。調子を落とした何名かがメンバー外になっているのに、それほど好調ではない隼磨が召集され続けるという事は、どうやらオシムの信頼は厚いようだ。マリノスならメンバー外の山瀬の方が調子が良いとは思うけど、ポジション・役割の被りそうな野沢と羽生、山岸との比較で外れた模様。マリノスで孤軍奮闘中の山瀬が劣ってるとは思わないけどね。それよりも、Jリーグで一番活躍しているサイドアタッカーをMFに選んで欲しいんだが。

  • FW

怪我の播戸が外れて、前田、高松が初招集。不調の巻の代役候補と思っていたので、巻が選ばれているのに、高松と前田が同時に2人も選ばれるとは意外。巻は今の調子で選ばれるようだから、今後も外される可能性は少ないでしょうね。


メンバーを見ても、やはり日本は他の同格の代表チームと比べてFWの質が低い。ベテランの久保や西澤が衰えたのもあって、今は群雄割拠、というか良くも悪くも五十歩百歩。Jリーグや代表の実績では現メンバーより遥かに上の高原が、ブンデスリーグであれだけ苦労している事こそ日本人FWのレベルを証左している。まあ、最近は割と好調だけどね。


それはともかく、FWの選考基準には好感が持てる。この5人は、怪我の播戸を除いた日本人得点ランク上位の5名。巻の12ゴールに高松と前田が並んだら*2、即召集する。勿論、それ以外の基準もあるんだろうけど、FWはゴール数重視の基準は明快で分かりやすいし、実効性も伴なっている。FWの価値基準はやはりゴール数。現時点でのスタメンはゴール数の多い我那覇と寿人が妥当でしょう。


他の外れた候補FWも、ゴール数で上回ればチャンスは十分ある。門戸は開かれている。レッズで控えの田中達也も引き続きメンバー外だけど、レギュラーになってゴールを量産すれば復帰するでしょう。今回選ばれていないスピード系セカンドトップ*3では、大分の松橋、名古屋の杉本が有望株で、台頭が望まれる。大久保も依然ポテンシャルは高い。


いまだに柳沢、久保、玉田といった知名度の高い前体制の代表常連FWの待望論もあるようだけど、「現代表よりゴール数が明らかに少ない」という反論で一蹴できると思う*4。3人ともコンディション不良なのかゴール以外でも活躍していないし、落選しているのは妥当。知名度で代表が選ばれると思っている人は、実際の試合をよく見た方が良い。


では初招集選手についての雑感。



前田遼一


FWとして傑出した武器はないけれど、足下のテクニック、豊富な運動量と献身性、そして後述するFWとしての多様性に長けた技巧派FW。決定力もそこそこ。今シーズンは、どちらかというと苦手としていた*5クロスボールでの空中戦に急成長を見せ、ヘッドでのゴールが増えた。ポストとバーに当てまくりだけど。弱点はスピード。


前田は、ベテランの衰えや山本監督就任でグダグダでどうしようもなくなったジュビロを、代えの利かない中心選手として、太田とともに引っ張ってきた。アジウソン就任後は多少ましになったけれど、チャンスすらろくに作れないチームで結果を残してきた点*6は大いに評価できる。前田が欠場すると途端にチームは機能不全に陥ることが、その存在感の大きさをあらわしている*7。召集はようやくといったところ。


ジュビロでのプレースタイルから、ポストプレーヤー枠の一人として認識されているかもしれないけれど、正確な楔に入る動きと足下のボールスキルを活かしたポストプレーが巧いというだけで、純粋なポストプレーヤーというわけではない。巻、我那覇、高松のような前線のターゲットとして機能する純粋な長身ファーストトップでもない。ジェフでいうと、巻よりハースに近いタイプ。目標はグジョンセン


最前線ゴールに背を向けてポストプレーをこなすファーストトップとしても機能すれば、2ラインの間で前を向いてチャンスメイクを担うセカンドトップとしても機能する。コンビを組むFWと、監督の要求・チーム戦術に応じてプレースタイルを変えられる万能型のFWだ*8。ただし、Jリーグレベルで発揮される万能性が、国際レベルでは器用貧乏に陥る懸念も孕んでいる。


器用さが山本監督に勘違いされ*9、五輪代表では放り込みサッカーにおける電柱FWのタスクを要求されたり、運動量やボールスキルを買われてボランチで起用されたり*10ジュビロでもトップ下で名波の代わりに攻撃構成を期待されたりと、適正外の役割で便利屋扱いされて、そのたびに評価を下げてきた。器用だけれど、FW以外のポジションをこなすポリバレント性はない。サイドも苦手。あくまでCFとして様々な役割をこなす選手。


評価基準は、FWとしてゴールという結果を出すのみ。他の仕事はほどほどで良いから、最低でもゴールには絡んできて欲しい。それが出来なければ代表定着は無理だろうし、外れるのも当然。代表に選ばれても、試合に出場して、活躍して定着できなければ意義は少ない。まあ、使われるかは微妙だけれど、頑張って欲しい。



高松大樹


フィジカルコンタクトや高さに優れ、ポストワークを得意とする大型ファーストトップ。ゴール数はPK2本を合わせても12ゴールとそれほどでもないけれど、前線で身体を張って起点となる役割なら日本トップクラス。昨年からゴール数は少なくても、相手を背負ってのポストプレーの安定感は傑出していた。どこかまだ頼りなかった五輪代表のときよりもかなり成長している。五輪を経験しているので、意外と国際経験にも恵まれている。


現時点でも、不調の巻よりもボールは収まると思う。ゴール数で他のFWと差異を出せるかどうかが代表定着の鍵か。同じ初召集でも、役割のはっきりしない前田よりオシムサッカーに嵌る可能性はある。そういえば2人は仲良しなんだよね。



野沢拓也


ボールスキルとシュートセンスに優れた、技巧派シャドータイプのOMF。鹿島ではメッシーナに移籍した小笠原の後継者と期待されているけど、足下のボールを貰ってからのキープ力や展開力、ゲームメイクに優れた司令塔タイプではなく、スペースに飛び出してのチャンスメイクやゴールセンスに特徴がある。セカンドトップとしても機能し、昨シーズンは二桁ゴールを上げている。現時点でそこまで傑出した活躍を継続的に見せているわけではないけれど、まあ幅広く選手を見るということでしょう。


ここにきてジーコが積極的に吸い上げようとはしなかったアテネ世代の台頭が目立ちますな。特に非五輪組。アテネ世代の立ち上げのU-18の頃は、技巧派MF枠では松井よりも前田と野沢が中心選手として期待されていた。その後に前田はFWに転向して、大怪我もあったりと紆余曲折の末にプレースタイルはまったく別になったのに対して*11、野沢は当時のテクニシャンの面影が色濃く残っている。ユース在籍時にトップデビューと早熟の天才と期待されながら、長らく伸び悩んでいたけれど、昨年あたりからようやく卓越したテクニックを試合で生かせるようになってきた。


今のU-19も、今後はどう転んでいくかわからんね。プレーレベルもスタイルも。



本田啓祐


攻守におけるフィジカルコンタクトの強さ、類稀なキープ力、左足のキック精度に優れたプレーメーカーミドルシュート、プレスキックも強烈。パワー面が目立ちがちだけれど、技術面や創造性も兼備していて、視野の広さや状況判断も水準以上。技巧派の選手にフィジカル難の目立つ日本では珍しいタイプ*12で、非常にスケールの大きな若手選手。インタビューやエピソードから伺えるメンタル面の強さも魅力。現時点での完成度はともかく、ポテンシャルは日本最高峰だと評価している。


ガンバJYでは家長との争いに敗れるも、高2の選手権当時からこの年代トップのMFと評判で、高3時には高体連№1選手の名を不動の物としていた。ルーキーイヤーからレギュラーとして試合に出場して、U-20としてWYにも出て、2年目でフル代表召集。高校年代トップといえども、壁にぶつかって極端に伸び悩む若手選手が多くて、ノーマークの選手が伸びてくる事が多い中*13、これだけ順調にステップアップしている選手は近年でも珍しい。ピッチ上での能力もそうだけど、メンタルがしっかりしているからでしょうな。


課題も多い。U-21中国戦では頑張っていたけど、運動量やフリーランといった点ではまだまだ。試合終盤になるとばてて活動量が落ちてくる。また、典型的な「使うタイプ」の選手でもあり、オシムの好むタイプではないと思う。それなのに招集されたという事は、ポテンシャル面を相当評価されているからでしょう。まだ若いので、ある程度の矯正も可能なわけだし。


名古屋ではチーム事情により左SB起用されているけれど、フィジカルや技術面で傑出しているからこなせているだけで、本質的には攻撃的なポジション*14の方が合っていると思う。代表ではサントスの位置で使われるのかな。起点としては機能するだろうけど、サイドで突破を期待されるときついね。


  • 太田待望論


不満といえば、太田吉彰が呼ばれない事。今のジュビロからなら、川口や前田よりも太田。


今のJリーグで太田より活躍しているサイドアタッカーはいない。8ゴール8アシストという結果*15もそうだし、それ以上に圧倒的な走力で数字以上のパフォーマンスを継続していて、後半戦のジュビロ躍進の原動力となっている。チーム力で優るレッズ、ガンバ、川崎とのJ13強に対しても、太田はMOM級の活躍でアップセットを演出した。今が旬。


右サイドプレーヤーとしては、駒野、加地、隼磨と役割の被る選手を3人も呼ぶより、攻撃性能に傑出した太田を呼んで欲しかったところ。勿論、彼ら3人はSB経験という点では太田を上回る事も事実で、代表に選ばれる実力者だとは評価している。でも隼磨はそんなに調子が良くなくて、マリノスでもレギュラー外されているわけだし*16、タイプ的に3人のうち2人で良いような。また、ウインガーとしてはジェフの山岸よりも、太田の方が活躍している。直接対決でも勝利。


でもまあ、継続して活躍していれば、オシムならいつかは呼んでくれる気はする。序列はあまりない。活躍度の差はあれど、呼ばれている選手は誰もJリーグである程度の実績を残しているわけで、殆ど試合に出ていないような選手が呼ばれているといった不可解な点はない。そこの指針はぶれていない。


J1でスタメン出場してゴールを決めている選手をひたすら無視して、なぜかU-19でも実績のない高校生を呼んだ反町監督とはそこが違う。あの選考は、Jリーグが軽視されているようでかなり不満。乾は良い選手だと思うけど、J1のスタメンで試合に出ているというのは、そんなに価値がないものなのかね。幅広く選手を試すと言っているけど、幅広くの意味を取り違えていると思う。前戦とはメンバー総入れ替えで、辞退した病気の家長や怪我の枝村、小林の代わりを呼ばないのも疑問だ。

*1:立ち上げ時期に自身のフィロソフィーを理解する教え子を優先する方針に一定の理解は出来るし、阿部、羽生、負傷の水本なんかの召集は適正だと思うけどね。

*2:高松はPKも含めての数字だけど、そこはあまり関係ないようだ。

*3:寿人はスピード系というより、嗅覚と動き出し勝負のボックス系ストライカーだからね。

*4:そもそもゴール決めずにコンディション不良でも序列重視で選ばれていた前体性のFWの招集基準がおかしかった。それで「急にボール来たから」でしょ。

*5:山本監督のサイド攻撃重視サッカーと、前田の一十っぷの相性は悪くて余り機能しなかったけど、今ならそれなりに機能するでしょうね。

*6:昨シーズンは、開幕数試合で適正外のトップ下で活躍できない途端に干されて、後半戦を怪我で欠場しながらも12ゴール。今シーズンも序盤戦を怪我で棒に振りながら12ゴール。J1で継続した結果を出していて、全治半年以上かかった股関節通からようやく復調してきたけれど、まだ本調子ではないので無理強いは禁物だが。

*7:J1上位レベルで90分間プレーできるFWが前田以外にいないジュビロFW陣の層の薄さも問題だけど。FWは要補強ポイント。

*8:昨年の怪我するまでゴール量産していた時で云えば、運動量を活かして前線で幅広く飛び出してスペースメイクや裏抜けを繰り返すムービングFWだったし、1トップ固定された今年の前半は、中盤に下がっての攻撃の組み立てから前線で幅広く動いて攻撃の基準点となる役割を担うポストプレーヤーであり、FWがボックス内にいないことを嫌うアジウソン就任以降は、前線中央で楔を受けてからのポストワークとフィニッシュを担うボックス型ストライカーとしての責務を果たしている。

*9:技術的には器用だけど、頭的には器用ではなくて、適応には時間のかかるタイプ。今後、山本監督が前田を伸ばしたか云う記事が出ても信じないように。

*10:つーか、同じコンセプトのチームで、電柱FWとボランチをやらせる監督は今考えても頭おかしいな。最終予選の第5戦で前田をボランチに使って、よく予選突破できたものだ。大久保のゴールのアシストがなかったら、戦犯にされてたかもしれないね。

*11:今みたくシンプルにプレーするんじゃなく、グラウンドが狭くて室内トレも多い暁星中・高出身らしい、視野の狭いコネコネテクニシャンだったからね。

*12:そういった意味では、同じU-21の梶山も似たタイプかな。特長はまた違いけど、スケールの大きさといい、守備や走力などの課題も似ている。梶山の方が波は激しすぎだが。

*13:北京世代からフル代表に選ばれた水本、青山、伊野波、梅崎は、高校時代にそこまで騒がれていたわけではない。

*14:スピード・スタミナといった走力には欠けるから、アップダウンや独力突破が必要なアウトサイドより、視野の広さ、展開力、シュートレンジの広さを活かせるセンターMFで一度見てみたい。

*15:昨年は右WBとして7ゴール。これは同ポジションの加地、駒野、隼磨と比べても傑出している。日本に彼ほどゴールに絡めるサイドアタッカーはいない。

*16:でも隼磨がマリノスでレギュラー外というのはちょっとおかしいように感じる。マリノスの右は、SBにコンバートされた栗原も、SHの吉田も余り機能していなかった。降格も優勝もないのに、若手を使わずベテラン吉田を起用する水沼監督は謎。吉田は今シーズン活躍しているのを見た事ないし、今節のレッズ戦でも持ちすぎてからのバックパスでチャンスを潰しているだけだった。この方針だと、乾が来ても厳しいな。そういえば後藤は何やってるんだろう? ジローも最近見ないな。