松井大輔

ルマン 3-2 オセール


久しぶりに本来の松井を見たので朝から更新。アシストは一ヶ月ほど前のソショー戦以来かな。良い時の共通点は、ルマンのシステムが1トップ、そして松井が左サイド起用である事が多い。


  • 2トップと松井の相性


今シーズンの松井は昨シーズンに比べて不調気味。理由としては、昨シーズンの活躍を踏まえて相手チームに警戒され研究されている事*1、持病の腰痛悪化で痛み止めを服用しながら試合をこなしている事などが挙げられる。そしてシステムとの兼ね合い。今シーズンのル・マンは、2トップ向きのグラフィッチを活かすために4-4-2が多く採用されているのだけど、松井との相性は最悪。


サイドに自然とスペースのある1トップに比べて、2トップにした場合、トップの1枚がマークを引きつれてサイドに流れてくるため、松井の活きるサイドのスペースが消されてしまう場合が多い。松井はリーグ・アンレベルだとフィジカル不足のため、スペースのない中に位置しても潰されてしまう。


2トップだと、サイドで突破力を活かしてこそ本領発揮する松井が活きるような機能性*2もチームにないため、どうしても松井が犠牲になっている。


とりわけ先週は、相手のリールが昨シーズンのリーグ3位、今シーズンのCLでも健闘している強豪相手で、苦手な2トップでの右サイド起用であった事を差し引いても、松井自身のプレーの出来はかなり悪かった。松井がフランス一部でプレーしてから以来、最悪だったかもしれない。屈辱的な前半途中交代、ベンチにも入らず不満げな表情でロッカールームに直行した。


前節に不甲斐無いプレーをして、代役が及第点のプレーを見せた以上、今節のオーセル戦では控えスタートになってもおかしくなかった。だが、アンツ監督は松井を信頼して先発起用。システムは久しぶり4-3-3、そして得意の左サイドアタッカー起用。松井はその期待に見事に応えた。


  • 試合というか松井雑感


前半、右からのサイドチェンジを正確なファーストタッチで足下に置き、左サイドから得意のドリブルで仕掛けて、絶妙のタイミングでバングラの頭へ合わせるだけの柔らかいクロスを供給。これをバングラが確実にヘッドで決めて先制。サイドでボールを持ったら一対一で仕掛けて、アシストに繋がるようなボールを供給する。松井がこのチームで期待されているプレーを見事に実行した。左サイドからのチャンスメイクは本当に巧い。


その後、試合の大半は実力に優るオーセールペース。ルマンはプレーメーカーロマリッチ欠場で、中盤の構成力を欠いてゲームが作れない。松井自身も独力で流れを変えることはできなかった。後半に同点に追いつかれ、その後も押され気味。


終盤、松井がアカレの突破に松井がチャージに行き、ペナ内で縺れた際にPKが与えられてしまう。松井が手を引っ張ったと判断されたのか、挟み込んだセセニョンの足がかかったと判断されたのかは微妙。PKが決まってルマンは逆転を許す。試合の流れ的にこれは負けだと思って眠ろうとした、直後にドラマが。


このままだと松井の先制点のアシストが帳消しされてしまうような試合の流れ。ここで松井が意地を見せた。失点直後にワンツーからのドリブル突破で2〜3人を交わしてエリア内に突入、たまらず相手は引っ掛けてしまい、見事にPK奪取のお返し。ドリブルで仕掛ける姿勢、そしてそれを可能とする技術が素晴らしい。こういう姿勢が日本人全般には欠けている*3


この流れは凄かったなあ。相手にPKが与えられた直後、自分が失点に関った責任も感じていたのか、今度は逆に狙っていたね。このPKをバングラが決めて同点。この後、霧のスタジアムに発煙筒がたかれている間、お役御免で交代していた。


その後はオーセールに退場者が出るも、ルマンは押され気味。松井がなくなったため、タメを作る人材がいない。このまま同点で上出来だったけれど、ロスタイムにカウンターから右サイドを崩して、シュートのこぼれ球をバングラが決めて劇的な逆転勝利。


MOMはハットトリックを決めたバングラだろうけど、松井の活躍がなかったら試合は一方的なものになっていただろうね。バングラの2ゴールはほぼ松井の物。素晴らしかった。試合内容も見事な逆転勝利。

  • 今後のルマン


残留が目標のルマンだけれど、こういう試合が出来れば目標達成はまず固いんじゃないだろうか。欧州カップ圏内は難しいと思うけど。とりあえず1トップは継続して欲しいね。チームで一番金がかかっているグラフィッチは2トップの方が向いているだろうけど、チームとしては1トップ(3トップ)の方が機能する。


問題はロマリッチが復帰した時のチームバランス。タメの作れてキック精度の高いロマリッチは、ルマンの中で最も個人能力のある選手。ロマリッチがいないとプレスキッカーも不在になってしまう*4。ただ、松井とはいまいち噛み合っていない。ロマリッチには、もう少し左の松井を見ろと言いたい。得意の左足も右への展開ばっかだし、すぐドリブル突破したり、シュート打っちゃう。ただ、そのシュートが強烈なのでデメリットばかりではないのが難しいところ。


ロマリッチとダブルボランチを組む、ユース出身の若いクタドゥールも悪くないけど、昨シーズンのフレデリック・トマ、ヨアン・オクールのダブルボランチの方が、チームバランスは良かったように思う。連係面に差があり。彼らがステップアップしてしまったので、他の選手の欲が出たのか個人プレーが目に付く。松井がフリーでもパスこないし。


オセールに特筆する事は特になし。カーレンベルクという若手の技巧派MFがお気に入りなのだけれど、負傷で長期離脱中のため欠場。彼のプレーは見たかったね。リヨン勢以外では、リーグアンリベリーに次ぐOMFだと思う。

  • 松井の評価基準


とかく松井のような選手は、ボールのない所でのプレーを必要以上に求める人*5からは叩かれがちだけれど*6、彼のプレーを評価すべきはオン・ザ・ボールで効果的な仕事が出来ているのかどうかだと思う。爆発的フリーランなんてしなくても、ボールを持った時にドリブル突破やチャンスメイク、ポゼッション貢献の責務を果たす事こそが重要。オフ・ザ・ボールの動きは卓越した技術をより活かすための手段であって、それが目的ではない。まあ、最低限の守備貢献はしなければならないのは当然だけど。


ドリブルが不発だったり、チャンスに繋がるパスを供給できないなど、ボールを持った時に効果的なプレーが出来てなければ、松井の必要性は薄れる。ルマンで期待されているのは、キープや散しでボールを落ち着ける事や、サイドからチャンスメイクして点に絡む事*7で、それが出来るかどうかで評価されるべき。守備や流動的なポジションチェンジは二の次。そういう意味で、卓越した個人技で2点に絡んだこの試合の出来は、先週の不出来を払拭するに値する。試合を通して見ると、好調時の松井に比べると物足りないし、まだ体の切れなんかは戻っていないけどね。


とにかく来るべき代表招集まで、コンディションを整えて好調を維持して欲しい。現状の代表で一番欠けているのが、オン・ザ・ボールでの精度、攻撃の緩急、ドリブルで仕掛ける姿勢と局面打開力で、それを充足できるのが松井の存在。


ところで、海外組では一番活躍している俊輔との共存はどうなんだろうね。プレースタイルも、得意なプレーエリアも、所属クラブでやってるポジションも被らないから、一般論としては共存は可能なんだろうけど、オシムのコンセプトの元では色々と難しいかもね。現状で二者択一となったら、プレスキックもあるエキストラキッカーの俊輔でしょうな。まあ、独力での局面打開力のある松井はスーパーサブでも活きそうだから、それはそれで良いかも知れないけれど。

*1:とにかく早めにファウルで潰されるし、ボールを持つと2人以上で対応してくる。リーグアンレベルにおいて、それを苦にしないほどの個人能力はまだない。それがあるのはリヨン以外ではリベリーくらいなもんだけど。リベリーはリヨン相手でもそれが出来るから、確実にビッグクラブ移籍するだろうね。

*2:、2トップの役割分担やスペースを作る動きが不十分で、2列目を有効に活かせない。タイプ的にも独善的な選手ばかりで被っていて、松井が効果的なパスを送る事はあっても、逆は殆どない。

*3:そういう意味で、ナビスコMVPの水野とか、家長の若手には可能性を感じるんだけど。U-21で使って欲しいね。

*4:その場合、この試合のようにキッカーは松井になるんだけど、間接FKはそこそこでも、直接FKがイマイチ。松井はもう少しシュートが巧ければ確実にステップアップできるのになあ。。チャンスメイク力はリーグアン屈指だけど、それに比べて得点力が見劣る。

*5:サイドに張り付いている批判もあるようだけど、ポジションがSH・WGで、守備時にサイドのケアも担ってるんだから、主にサイドにいるのは仕方ない。選手のタイプと役割があるんだから、全員が爆発的に走り回る必要はない。それに、サイドに張り付いていたって、そこでボールを貰って、得意のドリブルからのチャンスメイクで点に絡めれば十分。松井はそれが出来るか出来ないかで評価されるべき。そもそも殆どの試合で流動的に動いていて、片サイドなんかに張り付いてなんていないけどね。それにサイドの守備ゾーンを任されているのに、常に流動的になっていたらアンツ監督に怒られるでしょ。そういうとこは厳しいから。ルマンは利己的な選手ばかりだから、松井がバランスをとる必要がある。

*6:とにかくオシムになってからは、オフ・ザ・ボールでのプレーだけを重視しすぎな傾向が全体にある気がする。勿論オシムをそういう部分を重視しているけれど、オン・ザ・ボールの重要性もまた認識しているはず。様々な役割をこなせる選手がいてこそ、バランスの良いチームが作れる。技巧派パサーばかり集めて実行力が伴なわないのも、走れる選手ばっか集めてボールが落ち着かないのもバランスが悪い。周囲のために走れる選手、ハードに守れる選手、タメてパスを散せる選手、ドリブルで仕掛けられる選手、多様性のある選手。スペシャリストとユーティリティ。チームを構成するに置いては、バランスとバリエーションが重要でしょうね。オシムは当然分かってると思うけどね。

*7:ルマンはかなりの曲者揃いだけれど、サイドからチャンスメイクできるのは松井だけ。相手を引き付けるフリーランとか、守備貢献だとかは、他に相応しい役者がいる。つーか、周りをうまく使える選手は松井だけで、チームバランスは少々悪いね。クラブの規模的にこれ以上を求めるのは贅沢だけれど。