横浜FMvs磐田 

横浜Fマリノス 0 - 1 ジュビロ磐田 
得点者:'89 前田遼一(磐田)

これは逆の立場だったら、すぐには立ち直れないような試合でしたね。決定機をものに出来ず、PKまで外して、最後の最後で勝ち越される。相手からすればあれほど悔しい負けはないでしょう。

横浜F・マリノス
榎本哲也栗原勇蔵松田直樹中澤佑二田中隼磨■、上野良治河合竜二ドゥトラ■、奥大介(59分坂田大輔)、山瀬功治(83分山瀬幸宏)、久保竜彦(67分吉田孝行

ジュビロ磐田
川口能活鈴木秀人■(78分犬塚友輔)、田中誠金珍圭■、服部年宏太田吉彰菊地直哉ファブリシオ■、上田康太中山雅史(59分カレンロバート)、前田遼一

  • エースの不調

とにかくジュビロは不調明けの前田の不調が痛かった。今のジュビロは、前田への楔のパスが攻撃の始発点であり、そこからのポストプレーが攻撃構築の主要因。福西がいないので、前田しかタメの作れる選手がいない。前田が前でボールをキープしてくれるから、全体が押し上げる時間も作れるし、ボールロストからのカウンターも被らない*1。その前田に、普段なら簡単に収まるはずのボールが収まらない。マリノスも前田のケアをしていたので、安定して楔が入らず、攻守に悪影響が出てしまった。

ただ相方の中山の調子は良く、菊地のフライパス、ファブリのスルーパスなどに反応し、素早い動き出しで何度か決定機に絡んでいた。ただシュートミスでゴールを決めきれず。それ以外の攻撃は単発的なもの。前田と並ぶキーマンの太田も、中では窮屈そうで活きない。マリノスもケアしていたので、脅威を与えれなかった。

守備では1トップの久保をCBのジンギュとマコが見て、2シャドーの山瀬と奥を、ダブルボランチファブリシオと菊地が見る形。相手キーマンの山瀬を、ファブリシオがハードマークである程度消す事に成功し、ジュビロキラーの奥も不調で消えていた。

ただ1トップの久保に対して、前線で張っている時は捕まえられたけれど、幅広く動かれるとマークを見失って、楔を簡単に入れられたり、ゴール前に飛び込まれてシュートチャンスを作られてしまった。ただ久保もフィニッシュに精度を欠いたので助けられた。
代わって入った吉田も目立たず。マリノスの攻撃では、サイドのドゥトラと隼磨が多少驚異だったくらい。どうしてもマークが手薄になる相手ボランチの攻撃参加が少なく、マークがかく乱されなかったのには助けられた。

  • 低調な試合展開

どちらかというとマリのスペースのゲーム展開も、両チームともキーマンが封じられ、フィニッシュやクロスの精度に欠き、ビルドアップ段階の軽率ミスからカウンターの応酬になるなど、客観的に見て中位に比例した低調なゲームではあった。

ジュビロは序盤から執拗にマンマークしていた消耗で、終盤は全くラインを押し上げられず、ゴール前で相手の攻撃を跳ね返すのが精一杯。間延びした中盤には広大なスペースが広がり、セカンドボールも尽くマリノスに拾われて、二次・三次攻撃を食らってしまう。

その流れで、セットプレー時にジンギュが中澤を薙ぎ倒す愚行を犯し、PKを与えてしまう。この時点では負けゲームですよ。ただ流石に川口はPKには強かった。川口を直視できなかったキッカー松田は、蹴る前からメンタル的に負けていたとも取れるけれど、それよりも外した後のメンタル低下が駄目だったと思う。

両チームとも選手は疲弊し、どちらもラインを押し上げられず、中盤は間延びして、攻守にフォロー出来ない状態。その後もジュビロの軽率なミスでマリノスはチャンスを掴むも、精度を欠いて決めきれない。ここで耐え切れたのが大きかった。

  • 流れを変えた2つのポイント

こういう状況でジュビロのアドバンテージの一つは、ピッチの端から端まで走ってボールを運べる選手を擁してる事。ファブリシオが果敢なラン・ウィズ・ザ・ボールでボールを運び、太田が全速力で自陣ゴール前から相手ゴール前までを行き来する。ボランチの菊地もマークとオリジナルポジションを崩してゴール前に飛び込む。そういう勝利へのアグレッシブさが、土壇場でマリノスを上回る流れを呼び込んだと感じた。


もう一つ良かった点としては、最後までチームのアイデンティティである攻撃構築を諦めなかった点*2

残り時間、そしてパスミスからの被カウンターリスクを考えると、偶発性に頼ったパワープレーになるのも仕方ない状況。この試合では何度も中盤でミスパスを繰り返しカウンターを喰らってたので、リスクレスのパワープレーを選択するのも1つの手だった。

ただマリノスのDFラインを全く押上げがなく、ここに来て前線で楔を受ける前田へのプレッシャーなくなっていた。その状況を利用し、後方からしっかりビルドアップして、中盤でパスをつなぎ、前田に楔を入れていくという、ジュビロ本来の攻撃構成を選手たちは選択する。その過程で何度かミスはあったものの、試合を通して本来の出来ではなかった前田が、ここで自分の仕事をきっちり遂行し、それが最後の最後で実を結んだ。

  • 狙いが結実したロスタイム

ロスタイム、まずはファブリシオの楔のパスを、前田が華麗なダイレクトヒールでカレンに流し*3、フリーのカレンがGKと一対一でシュート、GKのファインセーブで惜しくもゴールならず。このシーン、前田はヒールで流した後にペナ内にドフリーで進入していて、カレンがここに折り返せば確実に勝ち越しゴールだった。FWとして決定機にシュートを打ったのは間違いではないけれど、それなら確実に決めなくてはならない。それが出来なければ、より確実な選択を選ぶべき。カレンは要反省。

ロスタイムに決定機を逃し、ドローが妥当な試合展開。

直後のラストワンチャンス。ここでも焦らず中盤でパスを繋ぎ、ファブリシオがしっかり前田に楔を入れて、引いてきた前田がボールを受け、すぐにファブリシオに落とす。この前田の動きにDFラインから中澤が前に釣り出され、そのギャップに菊地が流れて、ファブリシオのスルーパスに抜け出し、ラインギリギリで折り返しのクロス。ニアに走りこんだカレンのシュートが弾かれるも、楔を落としてからファーに走りこんでいた前田がこぼれ球に詰めて決勝ゴール。

縦の出し入れでギャップを作って、そのギャップで出来たスペースを有効活用し、横からのクロスに2トップがニアとファーに走りこんで決めた、チームとして狙い通りのゴール。この土壇場でこの崩しが出来るという事は、攻撃面に関しては確実に前監督の時よりも進歩している。


最後までゲームを捨てる事がなかったし、引き分けでよしとする事もなかった。試合内容では分が悪かったけれど、勝利へ執着心の差で上回った結果の勝ち点3だと思う。

逆にマリノスは、PK失敗の後にメンタル的に落ちてしまい、その後は攻守に迫力を欠いていた。終盤はサイドからクロスを放り込んでいたけれど、久保交代後は前線に高さのある選手はいなかったし、クロスが直接川口の手に納まっていたので、正直助かった。大島とマイクを投入して、パワープレーに出られる方が遥かに怖かったのだけど、水沼監督はそうはしなかった。岡ちゃんなら間違いなくそうしていただろうね。精彩を欠いた1トップの久保に代えて、中央でポストプレーのできる大島ではなく、マリノスで良い所を殆ど見たことない吉田の投入にも助けられた。

来シーズンのマリノスは、攻撃性能のあるボランチを補強した方が良いでしょうね。マグロンが帰国したので、展開タイプが上野しかいなく、その上野も得点力のある攻撃的タイプではなく、年齢的にも多くは望めない。河合や那須は守備は良くても、攻撃性能のあるタイプではない。そもそもストッパーの方が向いているような。トップ下から攻撃構成できる奥も不調。ボランチが安定すれば、山瀬のようなシャドータイプもさらに活きると思う。FWとDFの選手層は厚く、サイドもしっかりしているので、あとは柱となる伝統の強烈な外人アタッカーを獲ってきて、チーム自体うまく再建すれば、かなり強くなりそう。その前に経験豊富な監督か。まあ余計なお世話ですが。


  • 選手評


川口
代表正GKのベテラン選手にしてはありえないくらいの波の激しさ。今日は神の日でした。PKストップは流石。この調子で頼む。

マコ
良くないねえ。カバーなどソツはないんだけど、マーキングミスが目立つ。ビルドアップにももう少し関与して欲しい。スペースがあったら前に運ぶ事も大切。

ジンギュ
中澤へのスリーパーによるPK贈呈は愚行。前と高さには強いけれど、予備段階でマークを見失いすぎ。出場停止中に要反省。韓国代表で大丈夫なのと少し心配。

秀人
負傷明けでコンディション不良。本来の姿ではなかったけれど、最低限の仕事はした。致命的ミス一つは要反省。チームとしてサイドで溜めてスペースを作って、もっと秀人を攻撃に絡ませる事が必要。

菊地
ジュビロキラー奥のマークをよくこなすも、終盤は集中力のキレで攻守にミスが目立った。ただ、中山への見事なフライパスなど、ただここぞという所のプレーは流石。ロスタイムで、あの苦しい体勢から折り返してのアシストは見事。90分コンスタントにプレーできるようになれば代表になれるよ。

ファブリシオ
何でかサポの評判が余り良くないけど、チームへの貢献度はかなり高いと思う。確かに不用意なミスはあるんだけど、90分間守備にハードワーク出来て、終盤でも独力でボールを前に運べて、決定的なスルーパスも出せる。日本には希少タイプの万能ボランチ。相手キーマンの山瀬というマーキングの難しい難敵を良く押さえ込んだ。中山へのスルーパスと、ロスタイムの菊地へのスルーパスは、アシストにも等しい精度とタイミング。良い選手です。まだ若くて成長が見込めるし、フロントは契約延長しておけ。フリーで海外に移籍されたらアホだよ。

上田
ワンタッチツータッチの素早いパス捌きで、攻撃のリズムを良く作っていた。前田とのワンツーはかなり巧かった。ただ時間が経つにつれて消えた。もっとミスを少なく、攻守にアグレッシブに。北京世代のボランチ争いは熾烈だけれど、タイプの被る選手がいないので、アジア大会に召集されるかもね。後方からビルドアップするサッカー目指すならだけど。放り込みサッカーするなら不必要なタイプ。

太田
今日も中での仕事が多く、マリノスにもスペースを消されたため、本来の持ち味を発揮できず。ただ相変わらずの驚異的な運動量でチームに貢献。試合終盤の両ゴール前を全速力で行き来する活動量はかなり大きい。終盤押されていた時の爆走は流れを変えたと思う。波さえ無くせれば言う事なし。

中山
決定機に顔を出す能力はいまだ健在。動き出しが素晴らしかった。元々、決定力で勝負するタイプではなく、決定機の数を活かして仕事をするタイプ。一度は決めて欲しかった。ビルドアップ場面の軽率なミスはなくして欲しい。年齢を考えると驚異的で頭が下がるけど、そこは関係なしにね。調子は悪くない。

前田
負傷明けで絶不調。持ち味のポストワークに安定を欠き、楔がいつもより収まらず、苦戦の原因になった。今のジュビロだと、前田に求められる仕事量が多すぎるし*4、マーク集中するから負担が多すぎるのは可哀想だけれど、エースゆえに求められる物も大きい。そんな出来でも決勝ゴールはエースたる証明。
代表落選はまあ当然でしょう。巻と我那覇のゴール数を超えれば見えてくる。怪我による欠場さえなかったらという所だけど、そこも実力の内。播戸にマグノ、我那覇ジュニーニョ、寿人にウェズレイがいるなど、前田の負担を軽減する傑出した外人FWがいれば、もっと活躍すると思う。ジュビロはFW層薄いし、フロントは調査しておいてください。グラウみたいなタイプじゃ駄目よ。

カレン
前田のダイレクトヒール後のプレーは、確実に決めるか、フリーの味方に折り返すべき。要反省。その後の決勝ゴールに繋がったシュートは素晴らしかった。シュートが決まらないのは相変わらずだけど、クロスに対してニアに走り込むという意識が。もう少し楔を収めないとレギュラー取れないし、それよりもスピードを活かした局面打開するプレーも選択して欲しい。宝の持ち腐れ。

犬塚
起用ポジションではどこが良いのかよく分からない。右SBの控えは苦しい。致命的ミスが一つ。あれはやってはいけない。まあルーキーだし、次に活かしてくれ。

アジウソン
いつボランチに代えて茶野を投入するか不安だったけれど、今日は珍しく動かなかった。菊地を最後まで代えなかった事で、間接的に得点を呼び込んだ。勝ちゲームだし、不満はあまりないですね。前田を軸とした2トップ継続は続けてもらいたい。後は太田と秀人を右固定で。

*1:前田がいなかった大分戦ではそこが駄目だった。

*2:逆にマリノスだったら、終盤は背の低いアタッカーに長いボールやクロスを放り込むのではなく、長身選手にパワープレーするのが正道だと感じた。そしてその方が遥かに驚異だった。

*3:日本人ポストプレーヤーで、こういうセンスが一番あるのが前田だと思う。グジョンセン的な。

*4:ゴール、ポストプレー、ボールを引き出すフリーラン、前線でのチェイシングなど。特の他にポストプレーのできるFWがいないので、前田がやらないと攻撃が機能しない