磐田vs大分

ジュビロ磐田 2 - 3 大分トリニータ
得点者:'38 松橋章太(大分)、'54 カレンロバート(磐田)、'66 犬塚友輔(磐田)、'68 高松大樹(大分)、'89 高松大樹(大分)

ジュビロ磐田
川口能活茶野隆行田中誠金珍圭太田吉彰菊地直哉(69分大井健太郎(74分))、犬塚友輔(71分船谷圭祐)、服部年宏上田康太中山雅史カレンロバート(75分山本康裕

大分トリニータ
西川周作三木隆司深谷友基上本大海(80分山崎雅人)、エジミウソン梅田高志(85分西山哲平)、トゥーリオ根本裕一梅崎司松橋章太高松大樹(89分福元洋平


前田、福西、西、成岡、村井、秀人が負傷中、ファブリシオが累積警告と、レギュラー格の選手の大半が欠場。その状況を踏まえれば、仕方のない負けではあった。ただ勝てる可能性はあっただけに、滅茶苦茶悔しい負けでもある。主力大半を欠く状況で、若手主体で勝てたら得る物は凄く大きかったんだが。


特にチームの核である前田と福西の離脱が痛かった。攻撃面で川崎戦とは見違える出来。秀人の試合直前の負傷欠場も誤算。この3人の不在は、個人としてだけではなく、チームのバランスへの影響という点でも、予想以上に与える影響が大きかった。

  • 福西不在の影響

2列目中央主軸の福西がいなく、このポジをこなせる成岡と西も負傷中のため、太田を中央で使わざるを得なくなり、右サイドにはルーキーの犬塚を抜擢。福西の飛び出しやためがなくなったのも痛いけど、これでこのところ好調だった太田の持ち味が減退し、攻撃のバランスも失われてしまった。

太田は縦横無尽に動ける選手だけど、あくまで右サイドを基本ポジとして、右サイドを絶えずアップダウンしながら、空いているスペースに自由に飛び出していくのが一番活きる。この試合では始めから中央に位置したため、ボールを密集地で受けて捌くような役割を求められ、本来の力を発揮しきれなかった。得意の右サイドには犬塚が張り気味でスペースがなかったので、左に流れる事が多く、右からの利き足でのクロスやシュートも少なかった。試合終盤の船谷投入で、右サイドに移ってからようやく見られた位。

右の犬塚は、一時は逆転したゴールこそ決めたけど、試合通して安定感を欠いた。ポジショニングや判断が曖昧。ミスも多く、後述する2失点目の遠因にもなった。素直に太田を犬塚の位置した右サイドに置いた方が良かったと思うけど、怪我人続出で他に2列目中央に置ける選手がいない。前半の絞って飛び込んだ決定的なヘッドと、後半のヘッドでのゴールは良かったので、これを先につなげてもらいたい。あんまり印象なかったけど、中山のように頭から臆することなく飛び込める選手なのかしら。

  • 前田不在の影響

前線に正確なポストワークをこなす前田がいないことで、深い所で楔を受けられなくなり、前線でボールが収まらなかった。これまで前田への楔が攻撃の始発点となって、そこからのキープや落しが効果的だっただけに、ジュビロの攻撃構築力は半減したも同然。カレンと中山はキープ力に欠けるため、前線でタメを付くる事は出来ない。前田不在の悪影響は攻撃面だけでなく、楔を入れても簡単にボールを失う事が多くなり、不用意にカウンターを被る事が増え、守備にも悪影響を与えていた。改めて前田の存在感の大きさを感じた。

中山・カレンの2トップは奮闘していたけど、ボールが殆ど落ち着かず、機能性の面では不十分。ただゴールシーンは見事。菊地の正確なファーへのアーリークロスから中山のヘッド、それに合わせたカレンのダイレクトボレーは素晴らしかった。試合通しての連携は安定していなかったけど、2人の距離感がこのシーンでは絶妙だった。

中山は現段階での実力は出し切っていたと思う。年齢を考えると頭が下がる。終盤、船谷の正確なクロスに、得意のニアに絶妙なタイミングで飛び込んでのへディングシュートは惜しかった。その後も上田のクロスに飛び込んでヘッドと惜しいシーン、どちらかが決まってれば誕生日ゴールだったのだけどね。

カレンはスピードあるんだからもっと仕掛けて欲しい。前田や中山とは特性が違うのに、似たようなプレーばかり選択しているところが気になる。楔に入ってシンプルに捌くとか、勿論そういうプレーは必要なのだけど、時には前を向いて仕掛ける事も重要。中山や前田にはない、自らの身体的特徴をプレ−に生かして欲しい。怖さが足りない。でもゴールは見事だった。

  • 秀人不在の影響

チームで最も対人守備力のある秀人を、相手チームで最も局面打開力のある梅崎にマンマークさせるアジウソンの狙いが、直前の陣容変更で崩れてしまった。代わって梅崎をマークした菊地は、一対一では良く対応していたけれど、梅崎のプレーエリアも広く、それに菊地が釣られてしまった際には、バイタルエリアがかなり薄くなってしまった。
菊地の代わりに入った犬塚の所も穴になってしまったのも痛い。犬塚に守備面の期待は出来ないため、相手ボランチトゥーリオの対応に太田が下がるシーンも多くなり、攻撃の厚みもなくなってしまった。ただ秀人が慣れない中盤の底に入って、どこまでチームが機能したかも未知数ではある。まあ、梅崎をあそこまで自由にさせる事はなかっただろうし、秀人がマークで動かされても、菊地がフォローできたとは思うけど。


  • 逆転以降の監督・選手の対応の甘さ

そんな苦しい状況ながら、逆転するまでは、飛車角落ち所ではないこのメンバーで良くやったと思う。ただこれ以降は上位チームとの地力の差、監督・選手含む対応力の差がでてしまった。ビハインド時とリード時で、戦い方が同じというのは考え物。もっと状況に応じた時間の使い方を考えなくてはいけない。


2失点目。相手ゴール前で疲労困憊の犬塚がトラップミスして、そこからのカウンターから生まれた。ミス自体は仕方ないとして、そのミスを取り返すために走らなかったのが駄目。そこで戻りをサボったため、犬塚が見るはずの根本が右でフリーになってボールを運び*1、それに菊地が引っ張られて中央が薄くなり、マークしていた梅崎が空いて*2、根本のパスに梅崎がフリーで飛び出してシュート、川口が弾いたボールを高松がごっつぁんゴール

犬塚はそれ以前から疲労による不用意なミスが目立っていて、ゴールを決めるCKの直前もミスでボールを失いかけていた。アジウソンはここで交代させようとしていたのだけど、直後のCKでゴールを決めてしまったため、ボーナスで出場時間を延長。これは分からないではないけど、初心貫徹で、ゴールを決めた直後に予定通り交代させるべきだったと思う。もう普通にプレーできる状態ではなかった。

そして失点直後の菊地から大井への交代。この交代は結果的に失敗だったと思う。菊地が対処しきれなくなってきた梅崎への処方箋と、人選はともかく狙いとしてははっきりしている。ただし、これは2-1の段階で逃げ切りのために準備していたもので、交代直前に同点に追いつかれて状況は変わったのだから、攻撃センスのある菊地はあえて残して欲しかった。

でも、これはアジウソンを責めるよりも、大井が未熟であほすぎる。マークを担当する梅崎に簡単に振り切られて、苦し紛れに悪質なファウルで退場。出てきた意味がない。この退場で、梅崎への対応が曖昧になったのも痛かった。

これで流れが完全に大分になって、後述するシャムスカの見事な対応策もあって、攻められまくって終了間際に逆転を許す。10人で追いつく余力はもう残っていなかった。

  • まさかの16歳のデビュー

怪我人続出の中、明るい材料としては、ユース在籍中のボランチの山本が16歳でデビュー。確かに大井の退場で、守備的中盤のできる選手がベンチにいなかったのはあるけど、あの厳しい状況で出場させるのには驚かされた。いまや主力の上田もマリノス戦の厳しい状況でデビューさせたし、若手を余裕のある時に使うのではなく、あえて厳しい状況で成長させようという考えなのかな。

山本起用はあくまで緊急措置だと思うけど、高校2年生のプロデビュー戦とは思えないほど無難にプレーしていたし、若手好きのアジウソンのことだから、今後も起用していく可能性は十分ある。アジウソンでなかったら、上田がスタメン定着する事もなかっただろうし、犬塚が初ゴールすることもなかったはず。目先の勝利だけに拘らず、世代交代を見据えて積極的に若手を途用している点は評価したい。これまでのジュビロ、こういう事に消極的だった事が、ここ数年の停滞に繋がった側面もあるのだから。親子でもおかしくない39歳と16歳が同じピッチに立っているのは、中々見れるものではない。


未来への希望はあるとはいえ、怪我人が復帰するまでは今後も苦労するでしょうな。他の重傷選手は仕方ないけど、代えの利かない前田だけは復帰することを祈りたい。次はマリノスか。前節は3-1で勝ったけれど、内容では押されていた。そして監督交代で息を吹き返しかけている。直接FKチーム№1のファブリシオが復帰するのは救いだけど、前田がいないと勝てる気しないね。


  • 大分について


大分の選手で言えば、攻守の切り替えを担うにブラジル人ダブルボランチ、3ゴールを決めた2トップも良かったけど、個人的には最年少の梅崎に最も脅威を感じた。日本代表抜擢が、将来性という理由だけではない事をJリーグで証明している。彼の魅力は積極性*3と多様性*4。まだ足りない面も多いけどね。


試合を通して、梅崎一人にかなり翻弄されてしまった。菊地が対面した時や、数的優位の時は簡単にはドリブル突破を許さなかったけど、茶野や上田や大井になると一対一では止められない。終盤はカバーに来たマコも簡単に振り切られていた。

彼にサイドを突破されて、抉ってからのクロスやパスで、決定機を何度も作られてしまった。高松や松橋に決定力があったら、アシストがもっと付いていたはずで、虐殺されていてもおかしくなかった。飛び出しでもチャンスを作られたし、強烈ミドルでもゴールを脅かされた。2点目は梅崎が自陣から長い距離を走って、ゴール前に飛び出しからのシュートから生まれたもの。らしさが出ていたシーンだった。


梅崎が縦横無尽に幅広く動く物だから、マークを担当していた菊地がその対応に追われて、全体のバランスが崩れてしまうことも多かった。これにより中央は上田一人になる事が多くなり、バイタルエリアの守備が薄くなってしまった。

プレーエリアが狭いパサータイプ相手ならボランチが担当するマンマークは有効だろうけど、梅崎の様な選手へのマンマークは難しい。たとえ一対一で抑えられても、全体に歪みが生じてしまう。その辺のマークの受け渡しの部分が、ジュビロはまだ下手。

失点が一向に減らないマンマークの守備戦術自体への批判は多いようだけど、個人的にアジウソンのだけのせいに出来ないと思うのは、そもそも選手がしっかり人をマークしきれていないから。選手にマーク力や対応力ないのでマンマーク戦術は向いていません、それじゃあ情けないよね。色々と思うところもあるけど、現段階でアジウソンをそこまで責める気にはなれない。たぶん今後も勝ったり負けたりだと思うけど、今年は我慢の年だと思う。それにプレーするのは選手という基本を忘れてはいけない。


シーズン途中に就任して、弱いチームをすぐ建て直し、外れ知らずの采配・選手起用を行い、 得点力も増加させつつ、失点も抑える。さらに目先の勝利を最優先しながら、若手も積極的に起用し世代交代を進める。怪我で主力選手がいくら離脱しようとも、魔法のような戦術・采配で切り抜ける。それが出来れば理想的だけど、現実的には不可能。アジウソンを過剰にバッシングする人は、そういう監督じゃないと満足できないようだけど、そんな監督は世界でも極稀。Jリーグの他チームにもそんな監督はいない。まあ、一番近いのは今節の相手のシャムスカで、比べるとアジウソンが見劣るのは事実だけど。


この試合ではシャムスカの対応策が見事だった。前田と福西がいない場合、ジュビロで最も警戒するのは太田。ここ数戦は相手の太田へのケアが不十分と感じていたけど、それをよく分かってか、明らかに太田を見る枚数を増やしてきた。序盤は太田が右に位置すると見て布陣を敷いていたけど、太田が中央に位置するのを見るや、犬塚の位置する右サイドを手薄にして、真ん中をケアしてきた。これで太田のスペースが消されてしまった。


大井が退場し、ジュビロボランチを入れるためにカレンを下げて中山の1トップにすると、様子を見て3バックを一枚削ってアタッカーの山崎を入れて、1トップを見るのに必要十分な2バックに変更。その山崎のアシストで勝ち越し点を奪ったら、福本投入で3バックに戻して守備固め。

試合開始前の戦術的準備、そして全体のバランスを崩さず、状況に応じた選手交代は、ちょっと役者が違う。


大分は監督の手腕はリーグ最高クラスで、将来有望な若手も多く、数年後に楽しみなチーム。現時点でも6位に相応しい個力もチーム力もある。ただし、不安な点もある。それは資金面*5シャムスカや主力選手が永続的にチームに残るのは、年俸面を考えると難しそうで、そこにどうしても限界がある。今年マグノを残留出来て、さらに補強もしていれば、優勝争いに絡んでいた可能性もある。監督への依存度も大きいので、シャムスカがいなくなった後は、今のジェフのように苦労するでしょう。

シャムスカは極東の地方クラブに納まり続ける器ではない。将来的には、世界クラブ選手権に出るようなクラブを率いていても何ら不思議でないね。まだ大分と契約更新していないみたいだし、水面下では争奪戦も繰り広げられていそう。アジウソン解任は反対だけど、シャムスカ来るならまだ納得できるよ(アジウソン擁護が台無し)。

*1:この時の根本への対応が甘すぎる。左足は正確だけど、梅崎のような打開力はないのだから、臆せず間を詰めて潰しに行くべきだった。

*2:これは上田が追いかけていたけど、最終的には梅崎に振り切られてしまった。ただサボらずに長い距離を追いかけていた点は評価できる。相手が一枚上手だった。上田はボランチとして大成するなら、こういう守備面をもっと磨かないとならない。

*3:彼よりドリブルやミドルシュートに優れた選手はJリーグに他にいる。ただ彼ほど積極的に仕掛けてくる選手というのは日本人ではあまりいない。一対一になったら果敢にドリブル勝負してくるし、コースが空いたら即ミドルを打って来る。これが成功しなくても、ファウルを誘ったり、CKに繋がったりする。10代の日本人で活躍するような選手は、巧さは目立っても怖さは感じないのだけど、梅崎は巧いだけではなく、非常に怖さのある選手。テクニックは高い選手にありがちな、華麗なサーカスプレーに酔う事は少なく、プレーに実行力が伴っている。

*4:若手選手が活躍するパターンとして、ドリブル、パス、クロス、飛び出しなど、何か得意なプレーというのがあって、それを最大限に生かして活躍する事が多く、それが相手に研究されて封じられたり、上のレベルで通じなくなったりすると伸び悩んだりする。ただ梅崎の場合、ドリブルもパスもミドルも飛び出しも水準以上で、相手との力関係や状況に応じて使い分けてくるし、それらが単発ではなく連動しているのが強み。基本はドリブルで仕掛けてくるけど、無理な状況なら球離れ早くパスを選択してくるし、相手がドリブル突破を警戒して間を空けるとコースを作ってミドル。またはドリブルで突っかけて、抜き去ったり、相手を釣り出したり、他選手のマークを引き剥がして、スルーパスで打開できる。オン・ザ・ボールだけではなくオフ・ザ・ボールも秀逸。味方選手がボールを持ったときには、スペースに飛び出してパスを引き出したり、無駄走りでスペースを作ったりもできる。ボールを貰う工夫があるから、ボールをもって仕事が出来る。攻撃だけでなく守備もサボらず走って、ボール奪取に絡んで攻撃にも繋げられる。攻守の切り替えの部分で力を発揮できる、現代サッカーにおける指標となるOMF。ちなみにこういう多様性のあるOMFで世界的に今一番旬なのがマルセイユリベリー。パリ戦、ボルドー戦と、ここ2試合の出来は凄みさえ感じる。巧くて局面打開力もある才能に恵まれた攻撃的選手が、献身的にハードワークをする。これが今後の世界的スタンダートになってくると思う。話題の柿谷君も、こういう点でまだまだ改善の余地がある。

*5:その点、ジュビロは前監督時代の費用対効果を無視した補強策で赤字が出たとはいえ、経営的にはそれなりに安定している。