オシム初戦

日本 2-0 トリニダード・トバゴ
[得点]17,22分:三都主

GK:川口能活
DF:田中隼麿、坪井慶介(60分:栗原勇蔵)、闘莉王駒野友一
MF:鈴木啓太山瀬功治(56分:小林大悟)、長谷部誠(74分:中村直志)、三都主(86分:坂田大輔
FW:我那覇和樹(66分:佐藤寿人)、田中達也

様々な限定条件下の初戦で、これだけ出来れば上出来でしょう。賞賛されているっぽいU-21の初試合にはそれほど感銘を受けなかったけど*1、流石にオシム・ジャパンは違った。前半途中までに見せた質は急造チームとは思えない。


ある程度の内容が伴なった快勝は、相手との力関係も影響してるけど、ジーコジャパンはさらに格下相手でもグダグダの試合はデフォルトだったから、それを考えると不満はない。準備期間がなくて、ベストメンバーも呼べない初戦の相手としては妥当なレベル。


さっそく、オシムの志向するサッカーの狙いが、実際のピッチ上で見れたのが良かった*2。攻守の切り替えの速さ、ダイレクトパス、フリーランニング、第3の動き、スペースへの飛び出しと、シンプルな活用方法。システム・ポジションに拘らない流動性も特徴。相手の出方や布陣に応じて、選手個々の判断で役割やポジションも変える。DHの鈴木がDFラインに入ったり。


全員が労を惜しまず走って、ボールホルダーに選択肢を増やす。ただ走るのではなく、先を予測した動き出しで、次の局面を有利に運ぶ。ポジショニングも含めて、適切な判断で走ることにより、無駄な運動量もなくす。勿論、単純な量もこれまで以上に必要。オシムはこれを日本サッカーのスタンダードにしたいんでしょう。いくらスター性のあるテクニシャンでも、オシムの要求水準をこなせなければ使わない。日本で「巧い」といっても大半はたかが知れてるわけから、この方向性も1つのやり方でしょうね。


攻撃パターンでよかったのは、前線にボールを当てた瞬間、何人かの選手が連動して動き出し、素早いダイレクトパスを連鎖させて崩していくシーンが何度か見られた。この攻撃の頻度を増やして、さらに精度や速度を上げていけば、格上相手であってもそう止められない。効果的なフリーランニングの多様も良かった。駒野からアレックスの得点シーンは見事。アレは中盤で使えばこれだけ出来る。これまでSBで使うことが間違っていた。


コンビネーションの問題で言えば、短期間で完成に近づける最も簡単な方法は、ある一定のグループの塊の選手を同じJリーグのチームから選んでしまうということです」
http://www.jsgoal.jp/news/00036000/00036534.html

寄せ集めの代表チームの初戦、レッズを中心に構築したのも功を奏した。もしレッズの監督をオシムがやっていれば、手の付けられないチームになっていたかもなあ。



日本サッカー界が若年層から推進している「人もボールも動くサッカー」、固定メンバーでやってきたジーコジャパンですら4年間でそれほど多く見られなかったのに、初戦から散見されたのは良い傾向じゃないのかな。前線のプレスも選手がばてる前は機能して、ボール奪取後の速攻も散見された。それが勝てるサッカーの全てではないけど*3、日本はそういうサッカーにならないと良い試合が出来ない。そこを根本から変えるのか、とその特性を突き詰めていくのか、方法論は様々だけど、オシムの方向性は支持したいね。


課題としては、2点リードした後に、無駄に急いでミスするシーンが多かった事。試合開始から飛ばしたので、途中から全体的にばててしまって、プレスも掛からず、攻撃の連動性も薄まった。

単純に個々のスタミナ、無駄に消費しないための判断の向上というのも求められるけど、チーム全体の戦い方の工夫も必要でしょうね。リードした後は、もっと落ち着いてボールを回して、相手を走らせて疲弊させるような時間帯を意図的に作っても良かった。後方でゆっくり確実にボールを回して、急にテンポアップして崩すような緩急、試合展開に応じたペース配分だったり、遅攻と速攻、ポゼッションとカウンターの時間を使い分ける事が出来るような柔軟性が付けば、さらに良くなると思う。


今回はオシムが召集しなかったけど*4、パスセンスや展開力があって、自発的に緩急やタメを作れるような選手も必要なのかもしれない。ただそういう選手に限って、オシムの要求する運動量や機動力の面で欠ける事が多い。オシムの要求する「走る」事への水準はかなり高い。それが満たせなければ、こういうタイプは今後も呼ばれないかもしれない*5

今日の出場選手の中では90分を走ることができない選手がいました。それは今日呼んだ選手だけではなくて、Jリーグでも少なくないと感じています。
ある意味ではこの問題の解決は単純な方法でできると思います。だけども、それはきちんと考えなくてはならない問題です。特に日本人のサッカーということを考えた場合、日本人が筋骨隆々、あるいは長身の選手の選手ぞろいではないがゆえに非常に大事な問題だと思います。ですから1対1の勝負という点では不利な点が出てくるわけです。相手よりもどれだけ多く走れるかというところで勝負しなくてはいけません。ただ、残念ながらJリーグではそういった習慣はありません。これは一般論で話をしています。今日の試合から得たもっとも大事な教訓は走るということです。これが感想です」
http://www.jsgoal.jp/news/00036000/00036534.html

走ることを要求するには、それ相応の理由がある。質の面でも量の面でも「走る」ことへの要求水準はかなり高いと思うけど、それは間違っていないでしょう。このコメントを見ても、オシムは単に代表チームの強化だけに止まらず、Jリーグ、ひいては日本サッカー界全体にもメッセージを送っているわけだ。日本サッカーのスタンダートみたいな物を作ろうとしている。それは目先の勝利やり遥かに困難な事。オシムだけが頑張るのではなく、日本サッカー界全体で考えていく必要があるでしょうね。




まあこの試合で勝ったからって、明るい未来ばかりではないであろうし、今後壁にぶつかる事もあると思う。オシムの手腕に疑問はないけど、プレーするのはあくまで選手。基本的に時間的制約のある代表チームでは、監督が最低限の準備さえやっていれば、あとは選手に依るところが大きい*6。世界レベルで良い結果が出なかったとしても、選手の質が世界水準にない日本のレベルでは、監督の責任にだけするのはナンセンス。やっぱりオシムの要求に選手が応えなきゃね。そして協会やサポーター・ファンも含めて、日本サッカー界全体が成長していかないと未来はないでしょう*7


まだ始まったばかり、期待しすぎないように、それでも先が楽しみですな。


以下余談。

この4年間を振り返って、ジーコジャパンに対してだけでなく、アテネ五輪代表に関しても色々と思う所があったよ。オシムジャパンアテネ世代中心、しかもアテネ五輪出場メンバーより、山瀬、長谷部、鈴木、田中隼、佐藤寿、小林大と落選組みの方が多い。2年前の評価はけして高くなかった選手中心のチームのわけだ。それが今は期待感に満ち溢れている。


山本監督はあれだけの準備期間を貰ったのに、中盤省略の放り込みサッカーしか構築できなく、それでも平山・大久保・達也の1トップ2シャドーへ素早くボールを入れる形は機能しかけていたのに、それまでのチーム構成をいじってまで、本番直前でトップ下にOAの小野を入れて、急遽小野中心のパスサッカーへの方向転換を目指して、結果失敗。層の薄いSBはOA呼ばなかったのに、急遽3バックから4バックにも変更してたね。あれは何だったんでしょう。2年後、フル代表に小野はいない…。


中盤でボールを繋ぐ事が出来ず、主体性のあるサッカーを全く出来なかったアテネ世代が、2年経ってぶっつけ本番に近い形でここまで出来るようになっている。細かいダイレクトパスで中央を崩していくなんて、山本監督の元では殆ど見られなかった。この2年間での選手個々の成長もあるだろうけど、やっぱりポテンシャルは生かされていなかったんだなあ。長谷部なんて親善試合ですら試されていないわけだし。やっぱりユース世代の代表監督の人選は重要だよ。反町監督はまだ良いけど、その下の世代は考えた方が良いと思うよ。


近年のユース年代では評価が最も低く、アテネ五輪で惨敗した、俗に言う「谷間世代」。フル代表に定着した選手も極僅かだったけど、その後のJリーグでの活躍や、今日の試合での躍動を見ても、谷間なのは監督だけで、選手達の質は俗に言う「黄金世代」に負けず劣らずだったのかもしれない。選手の質、そしてオシムサッカーに合いそうな個々の特徴を見ても、オシムジャパンアテネ世代中心に作られて行くことになるでしょう。彼らのポテンシャルがようやく国際舞台で発揮されるかもしれない。今からでも遅くない。



他の試合で気になった点や、選手個々についてはまた明日。なんか久しぶりにフル代表について書きたくなる事が多い。そういう人は他にも多いんじゃないかな。なんか急に代表について更新する人が増えた気がする(笑)

*1:とりあえず苔口の1トップは次から止めて欲しい。適材適所に選手を置くのはサッカーの基本。苔口が所属クラブで1トップとして機能したことなんて見たことない。そもそもセレッソでもユース代表でもサイド起用主体。

*2:いつまでたってもそれが不明瞭だった前任者とは大違い。なんか「選手の自主性」という部分だけを切り取って、ジーコオシムを同列に語る意見をよくマスメディアなどで見るけど、全然違うでしょ。口では同じような事を言っていても、具体的にどうやったら選手の自主性を引き出せるのか。ただ選手任せにするのではなく、その方法論を練習段階から実践して、実際にピッチ上で示せないと意味はない。単にジーコを肯定してきた自分を無理やりにでも肯定したいとか、川渕氏のように自己保身からならまだ分かるけど、本当に同じと思ってるならやばいよ。そもそも選手の自主性なんてどの監督になっても必要。ジーコオシムが同じなら、大半の監督の同じになってしまう。

*3:例えばイタリアなら守ってカウンター勝つ文化がある。ブラジルは勝ってもテクニカルで支配的なサッカーをしないと支持されない。色々ですな。

*4:必要としているなら、中村憲や小野を呼んだと思う。大吾も悪くないけど、元ヴェルディで言えば、パス捌きやリズム作りは林の方が巧かったしね。

*5:呼ばれるとしても、あくまでオプションとしてであって、スタメンとしては長谷部のような、オンザボールでもオフザボールでも貢献出来て、運動量、機動力、守備力もある選手がオシムの好みなんでしょうね。その長谷部も、このチームではばててしまった。要求される水準は相当高い。

*6:その最低限の準備さえ出来なかったフル代表や五輪代表の前任者は問題外ですけど。

*7:ジーコを肯定して、4年間を任せた国にとって、WCでの惨敗は分相応、という考えもある。もっとサッカー力のある国なら自浄作用は働いたでしょう。そもそも就任してないか。