磐田vs横浜FM 

ジュビロ磐田 3 - 1 横浜Fマリノス
得点者:'45 前田遼一(磐田)、'53 前田遼一(磐田)、'68 大島秀夫横浜FM)、'78 船谷圭祐(磐田)


静岡ダービーは暫く記憶から消去したいので、書きかけだったマリノス戦を先にアップします。ダービーは気が向いたらかな。

ジュビロ磐田
川口能活茶野隆行(46分大井健太郎)、田中誠(75分上田康太)、金珍圭服部年宏菊地直哉福西崇史ファブリシオ成岡翔(68分船谷圭祐)、太田吉彰前田遼一

横浜F・マリノス
榎本達也田中隼磨栗原勇蔵松田直樹ドゥトラ河合竜二(83分ハーフナー マイク)、マグロン狩野健太(51分山瀬功治)、吉田孝行(60分久保竜彦)、大島秀夫マルケス

山本監督に引導を渡した、因縁なのか恩人なのか微妙なマリノス戦。大不振のようだけど、ジュビロ相手になると底力を発揮しがちなので侮れない。


相手に合わせて布陣変更が好みのアジウソン。前節からの変更点は、前田の1トップは変わらず、前線のフリーマンとして活躍していた西をベンチ、太田と成岡はそのままで、前節右SBの菊地を中盤の底に入れて、ファブリシオ、上がり目に福西を置く3ボランチ気味の布陣にして、中盤を厚くしてきた。マリノス対策として守備的な布陣を敷いて来たけれど、この変更はうまく言ったとは言い難い。相手を過剰に尊重した守備的対応が、後手後手に回る結果を生んでしまった。


山本監督のときは、高い位置でプレスをかけて全体を押し上げてゾーンで守っていたけど、アジウソンは、リトリートして以前より低い位置に守備ブロックを形成し、そこで人を捕まえる事を重視している。ただ選手がそういう守備に慣れていないし、まだ戦術も浸透していないから、相手を捕まえ切れていなくて、低い位置で守るメリットが消えてしまっている。前からプレスに行かないので、後ろで人を捕まえきれないと、ひたすら押し込まれてしまう。


マリノスは1トップ気味に大島、ここをマコとジンギュのCB2人が受け渡しながら見ていたけれど、この対応も曖昧で、大島にポストプレーを許してしまい、2列目やサイドの攻撃参加を促されてしまった。マリノスはトップにまず当てるのが攻撃パターンだから、CBの一人がもっと潰しに行って、もう一人がカバーする形を徹底する必要があった。アジウソンになってからの守備組織は、チェレンジ&カバーがまだ曖昧。


左に流れるFWマルケスを右SBの茶野、右に流れるMFを左SBの服部が見る形。2列目の吉田は、3ボランチの中でも下がり目に位置した菊地が見る。こういうチェックをして、福西の守備負担を減らして攻撃に絡ませたいから、西を外して中盤に菊地を入れたんでしょうね。これもうまくいっていなかった。


左は、高い位置にSHを置いてないので、SBを見る選手がいなくて、田中ハユマの攻撃参加を許してしまった。成岡がもう少し見なくてはいけないというのもあるけど、チームとして押し込んで、相手SBの攻撃参加を許さない形が理想。
右サイドの攻防では、マルケスには右SB茶野がマンマーク気味に付いていったので、マルケスが中に入った時のサイドの守備が曖昧で、ドゥトラのオーバーラップに苦しめられた。そのため右ウインガー気味の太田が、ドゥトラの攻撃参加をケアする必要があって、守備に忙殺されてしまったため、太田の良さがスポイルされ、攻撃にも悪影響が出てしまった。サイドでの劣勢は、守備面での悪影響だけでなく、両SBや太田が守勢に回りすぎたため、攻撃のフォローにいけなくなり、前田が孤立するなど、攻撃でも厚みがなくなっていた。


そしてサイドの劣勢は、中の守備にも悪影響。


山本監督のときは、相手のボランチには主にFWがチェックしていたけれど、アジウソン体制では、FWは守備に下がらないように指示されていて、相手ボランチには中盤がチェックしている。ただ前述したサイドの攻防で押し負けて、ボランチがサイドのフォローに引っ張り出される事が多くなり、中がスカスカになって、マグロンの組み立てや攻め上がりを自由に許してしまった。


マリノスボランチマグロンと河合には、福西、ファブリシオ、成岡あたりが見ていたんだろうけど、サイドのフォローで空けてしまったり、トップでキープされて攻め上がる時間を稼がれたので、どうしても後ろから追いかける形が目立って、常に後手後手になっていた。新チームの絶対的中心の福西が守備の忙殺されてしまって、攻撃に絡めなくなったのも痛かった。生命線のボランチの攻防でも負けて、攻守に悪影響が出た。


終始押し込まれてしまったため、マリノスはラインを押し上げて、全体をコンパクトに保てるようになり、中盤のスペースは消されてしまった。エースの前田にも良い状態でボールが入らず、それをフォローすべき太田も、ドゥトラの対応に追われてしまったため、ろくな攻撃構築が出来ない。守備でもブラジリアン・トライアングルに崩され、マルケスの左サイドからのチャンスメイクや、マグロンの攻め上がりからチャンスを数多く作られた。マリノスの決定力不足に助けられて、なんとか0−0で前半終了。


前半の劣勢を見ると、太田と西を共存させたセレッソ戦の形の方が良かったと思う。相手を尊重して中盤の数を増やしたけれど、その中盤が守備に忙殺されすぎて、攻撃の数が明らかに足りなくなっていた。福西が上がった時は良い形も出来たり、カウンターは何度かあったけど、殆どが単発。


前半は前体制下と同じようなグダグダっぷり。ただ前の監督とアジウソンが大きく違うのは、試合中の修正能力。ガンバ戦も前半グダグダで、後半開始からの早めの好対策である程度押し返す事が出来た。この試合では、交代策こそ怪我の茶野から大井だけだったけれど、選手の動き・チームの狙いに修正点が見えた*1。あとは、陳腐な言い方だけど、前半より明らかに戦っていた。ハーフタイムに活を入れたんだろうな。


後半開始早々、途中出場の大井が右サイド攻撃に参加して、右サイドの太田へのパス、太田がGKとDFの間隙を付く速いクロスを上げて、前田が胸で押し込んで先制。その後も前半よりリズムが良くなり、後半8分、カウンターから太田が右サイドを駆け上がってファーの前田にピンポイントクロス、DFとDFの間に張った前田が高い打点のヘッドを左ぎりぎりに決めて2点差。太田→前田のホットライン。2人とも素晴らしい。


マリノスの4バックは前半は機能していたけど、攻撃を受けるようになった後半は曖昧いな面が目立った。失点シーンはその欠陥がもろに露呈。それも色々あるけど、例えば、押し込んでいる時はSBの攻撃力が目立つけど、守備はうまくないね。左のドゥトラは太田に裏を突かれるシーンが目立ったし、右のハユマは絞って守る能力がイマイチ。3バックから変更してまだ間もないようなので、仕方ないとは思うけどね。ジュビロは前半からここをもっと突くべきだった。太田、西で両翼からせめても良かったと思う。


後半途中から、中2日で前半から飛ばしていたマリノスの選手が疲れてきて、ジュビロの攻撃構築もカウンター面では機能するようになったので、前半ほどラインを押し上げる事ができなくなり、コンパクトな中盤を維持してプレスをかけれなくなった。中盤にスペースが空くと、こちらの目指す流動的なパスワークもある程度は活きるようになる。


特に福西が攻撃参加できるようになり、ビルドアップやカウンターの起点となれたのは大きい。太田も右に張り出して攻撃に絡めるようになり、攻撃面での効果だけではなく、ドゥトラの上がりを牽制する守備面での相乗効果もあった。


ジュビロが2点リードして、マリノスが攻めに比重を置いてきたから、空いたスペースを狙ってカウンター中心に攻めるという形がはっきりした。これは本来アジウソンのやりたいサッカーではないと思うけど、こちらの完成度と相手の力関係との比較、試合の流れからして仕方ない。流動的なポゼッションを目指すといっても、状況に応じてカウンターも出来る柔軟性は必要だしね。


ただ前半より良くなっただけで、守備面の稚拙さは相変わらずで、マリノスにチャンスを数多く作られるのは変わらない。クロスへの対応が甘すぎ。15分から久保を投入して前線の人数を増やし、23分にマルケスの左クロスから大島が頭で決めて1点差。マルケスの左サイドでのタメとクロスは本当にやらしい。その後も攻められて、マルケスのシュート、久保のヘッドと、立て続けにチャンスを作られる。ここで同点に追いつかれていたら苦しかったけど、次の1点を先に決めたのはジュビロ。これは大きかったね。



後半33分、ロングボールを前田が競って、こぼれを拾った福西が、飛び出しでフリーになっていた船谷にクロス。船谷の見事なファーストタッチで勝負アリ。GKとの1対1でも余裕が出来て、冷静にシュートを決めて2点差。船谷を投入したアジウソンの交代策が見事に実を結んだ。これがなかったら追いつかれていたどころか、逆転されてた可能性もある。船谷はU-21落選が発奮材料になったんでしょう*2


マリノスは38分に河合に代えてハーフナーを入れて、パワープレー中心の放り込み大作戦。その作戦にまんまとやられかけ、チャンスを多く作られてしまう。久保のシュートがバーとポストに阻まれて*3、ハーフナーも決定機を何度も外すなど、マリノスの決定力のなさに助けられただけで、追いつかれてもおかしくなかった。今日の守備は酷かった。


終盤のマリノスは、DFラインも押し上げられなくなって、前線に選手を張らせていたので、中盤はスカスカだった。中盤でプレスを掛けることも出来なく、また始めからその気はなくて、トップへのボールを狙ってカウンターしか手がなかった。その状況では、もっと中盤でボールを動かして、徹底的に相手を焦らして欲しかった。まあ以前よりは回せていたけど、不用意に前に楔を入れたりして、安易にカウンターを浴びるシーンもあった。もっとポゼッションサッカーをやる上での状況判断を磨いて欲しい。パワープレーしか手がなくなった相手に、あれだけチャンスを作られたのは課題。


3-1というスコアからは想像しづらい辛勝。でもまあマリノスには2連敗中だったし、監督就任間もない今の状況では上出来でしょうね。

  • 太田と前田について

2ゴールと2アシストの勝利の立役者であるホットライン。もしジュビロから代表初招集されるとしたら、この2人でしょうね。まだ代表確実のレベルではないけど。

前田は、監督がアジウソンになってから、中盤への組み立てにあまり参加せずに、ゴール前に残るように指示されている。これについての評判は賛否両論あって、実際に良い面と悪い面の両方があるけれど、ゴールシーンではそれが良い方に出ていた。以前の役割なら、サイドを崩す時の組み立てに関っていて、中にはいなかった確率が高い。ただ攻撃構築や、前線での守備力*4の面ではマイナス要素がある。この辺のメリット・デメリットについては、また後日やろうと思う。代表に関しては、FWなので、もっと継続してゴールし続けないと選ばれないでしょう。Jリーグでは日本人最高の万能型FWだけど、国際舞台ではまだ器用貧乏の域は出ない思う。ただジェフ戦ではかなりゴールを決めてきたから、オシムの印象は良いかもしれない。

太田は、前半はドゥトラの対応に手を焼いていたけれど、サイドに張り出してボールも来るようになった後半は、逆にドゥトラを押し込んでいた。ボールも来るようになったので、活き活きと右サイドを駆け上がり、快速を生かしてドゥトラをぶっちぎるシーンもあった。攻守の切り替え時の爆走は、試合終盤になっても全く衰える気配なし。攻撃面ではJリーグ屈指の右サイドアタッカーで、単純な走力だけなら既に日本一でしょうね*5。不用意なミスをなくしたり、もう少し状況判断やポジショニングが向上すれば、代表選出も現実味を増してくる。ただ相手の形に合わせてマンマーク気味に守るのは苦手なので、オシムサッカーのサイドに適応できるかは未知数。前半のように守備の忙殺されるとイマイチ。マークをつけられたりスペースを消された時の対応も課題。

ここまで実戦を見てきて、新監督のアジウソンは、相手をよく研究して形をいじるけど、相手に合わせたスタメン選択や戦術的狙いがうまくない。前半は下手に相手に合わせてグダグダになりがち。ただ試合の流れを見て、早いタイミングでの修正能力はかなりあって、後半からよく流れが変わる。この辺は、監督としての経験不足と、選手時代から定評のある卓越した状況判断を思わせる*6


後半からの攻守の修正もある程度は効果を発揮していたし、交代策も船谷がゴールを決めるなど総じて成功。それにしても、リード時にDFの大井に代えて、Jリーグ初出場となる上田を入れたのは驚いた。左に流れてくるマルケスに、右SBの大井がやられかけていたから、人に強い菊地をボランチから右SBに下げて、中盤にはパスを回せる選手を入れる。これは的確。ただボールを回すという意図があるなら、普通は上田ではなく経験豊富な名波。この辺は目先の勝利より、将来を見据えて意図的に若手を使っていく意思の現われか。でもこの展開で初出場の選手を入れるのは勇気がいるよ。上田はそこそこでしたな。


アジウソンに求めたいのは、相手に合わせずにすむような確固たる初期布陣を作って、試合中に悪かった所を修正する形で挑んでもらいたい。修正能力は認めるけど、初期設定には疑問がある。この辺は日本のサッカーや、味方・相手選手の特徴や適正をまだ見極めていないんでしょう。30代の若手監督だし、まだ就任間もないので、今後に期待したい。とりあえず山本監督よりは可能性が見える。A3による中断期が一つの鍵でしょう。


あと、アジウソンのサッカーで目立つのは、守備の酷さ。前は前線からのチェイシングなど高い位置からプレッシングをかけていたけど、今は基本的にリトリートで守っているからなのか、ファーストプレスまで引き気味でやっているのが気になる。まずはファーストプレスを徹底して、遅らせている間に戻る感じでやって欲しい。WCでもリトリートして守備ブロックを低い位置に形成する守り方が目立ったけれど、攻守の切り替えの際のファーストプレスだけは徹底してたから。
これは新監督の守備戦術がまだ浸透していない面もあるだろうけど、選手の意識の問題でしょうね。これまでの試合でも、活を入れられたであろう後半開始から見違えるようになるケースが多いわけだから。


他にも山本監督のアジウソンは、攻撃でも守備でもかなりやり方が変わっていて、その辺の違いがなかなか面白い。その部分いついて既にある程度書いてあるけど、A3による中断期にでもアップしますよ。

不振のマリノスは監督の進退問題が浮上してるみたい。この試合だけ見たら、敗因は監督というより選手にある。決定力不足なだけ。ただ今のジュビロ相手に攻撃構築がうまくいくのは普通だし、マリノスの戦力で、今の順位は問題でしょうね。選手の大半を代えるのは無理だから、責任を取るとしたら監督しかいない。2連覇した岡ちゃんを解任するのは色々と難しいだろうけど、これ以上負けると自ら辞めそうな気がする。誰が来るにしろ岡ちゃんの後任は大変でしょうな。日本人では荷が重いと思う。どうするんだろう。人間力就任とかウルトラCはないの? 他のチームにも味わって欲しいんだけど。


まあ監督交代するにしても、重要なのは後任の人選とチームの方針でしょうね。能力自体が駄目な監督が来たら、さらにおかしなことになるし、方針がなかったらうまくいかない。

ジュビロは、アジウソン新監督の能力は置いておいて、チームの方針が駄目すぎ。山本正邦とアジウソンの人選に、サッカーの部分で一貫性というものは存在しない。守備も攻撃も対照的なサッカー。サッカーの中身を重視せず、ジュビロ出身というだけで選んでいるのは明白。チーム方針が一貫してしっかりしていれば、監督を交代してもそこまで苦労しないと思うけど、ジュビロはそうじゃないから、今後も新しいサッカーが浸透するまで苦戦するでしょうね。荒地を耕している段階のアジウソンは、長い目で温かく見ていく必要がある。これでうまくいかなかったとしても、非難すべきは監督ではなくフロントでしょうね。選手ももっと頑張らねば。

*1:例えばマグロンへの対応。前半は自由にさせすぎて攻撃を作られていたけれど、近くにいる選手のファーストプレスやマークの厳しさが改善され、攻守に良い影響が出ていた。

*2:Jリーグでは初ゴールだけど、今年のナビスコでは3ゴール決めてるし、フリー時の柔らかなファーストタッチや冷静なシュートは今さら驚く事ではないけど、カウンター時にあの位置には走りこんでいるのが素晴らしかった。ただタイプ的に反町監督の好む選手じゃないと思うし、役割の被りそうな本田や梶山にはまだ見劣るから、これくらいの活躍では選ばれないでしょうね。なにやら大学生枠もあるみたいだし。

*3:久保の跨ぎフェイントからの振りの速い強烈ミドルは凄かったな。

*4:これはチームの守備戦術とも関っているので、一概に悪いとは括れないけど。

*5:スピードとスタミナの総和という意味で。他の右サイドとの比較すると、スタミナ自慢の加地やハユマよりスピードはあるし、快速RSHの石川や加藤より運動量がある。クロスとシュートもこの中なら一番正確。まあ穴も多くて、守備面と、オシムの重視する「考えて」走るという部分では改善の余地アリ。代表レギュラーだった加地とは、守備、状況判断、ポジショニングで差があるね。まあ加地は本質的にSBだから、アタッカーの太田とはタイプが違うけど。

*6:前の監督は、修正のタイミングも効用も駄目で、むしろ流れを悪くする方が多かった。チームで最も最後まで働ける太田を変えたりだとかね。初期設定の面では、良い形を作りかけてはいたけど、せっかく出来た良い流れも変にいじろうとして、自ら築き上げた物を無駄にしていた。才能ない。