準決勝1日目

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まずは簡単に雑感。試合レビューは後日。

ドイツ 0 - 2 イタリア
119' グロッソ、121' デル・ピエロ

ドイツ:
J・レーマン;A・フリードリヒ、C・メツェルダー■、メルテザッカー、ラーム、ボロウスキ■(72分シュヴァインシュタイガー)、バラック、ケール、シュナイダー(83分オドンコール)、クローゼ(111分ノイヴィル)、ポドルスキ

イタリア:
ブッフォンザンブロッタ、F・カンナヴァロマテラッツィグロッソカモラネージ■(91分ヤクインタ)、ペッロッタ(103分デル・ピエロ)、ガットゥーゾピルロトッティ、トーニ(74分ジラルディーノ

好ゲームでした。この対戦カード、2年前なら見る前から退屈な試合が予想できたけれど、両国ともモデルチェンジした今回は期待度が高く、それに恥じない試合内容だった。華やかさはなくても、勝負への執念が見える試合は面白い。


イタリアは本当に守備が素晴らしい。ブッフォンカンナバーロは大会ベスト11確定だろう。中盤守備のバランスも良く、攻守に穴がない。ただその点は予想できた事。これまでのイタリアとの差異は攻撃面だろう。


ジラルディーノイアキンタデルピエロと、リッピは3人の交代枠を全てFWに使い、120分間で決着をつけるため点を奪いにいった。延長前半13分の3人目の交代、ペッロッタに代えてデルピエロが投入された時には、ピッチ上にはトッティを含めてアタッカーが4人も存在していた。これは従来のイタリアサッカーからは逸脱した采配だろう。


4人のアタッカーを並べる、積極的なのはそれだけでなく、司令塔ピルロを最後まで残したことも特筆すべき点。アタッカーを入れるにしても、守備不安のあるピルロと代えて、中盤を省略して前線に放り込むのではない、あくまで中盤の軸を崩さずアタッカーを増やした。


開幕前はいろいろな憶測が流れていて不安視した*1けれど、ピルロという稀代のレジスタを中心にチームを作り、リスクを恐れずそれを本大会でも継続した*2という点で、リッピは前任者たちとはレベルが違う。トラップには真似できない。ピルロのゲームメイクにより中盤の構成力が上がった事で、攻守両面に相乗効果を及ぼしている。


ピルロを中盤の軸としてチームを機能させるために、献身性に優れたガットゥーゾやペロッタを周囲に配置する。ガットゥーゾは守備面、ペッロッタはボールを引き出す役目として及第点以上の出来。そしてトッティとも共存させる事で、縦に2つの起点が生じて、相手は対処しづらくなっている*3。優れたタレントを順番に並べるのではなく、チームバランスを考慮した人選配置、今大会の上位進出チームのトレンドだろう。バランスを無視したブラジル、イングランドは脆くも敗れ去った。


そのピルロから生まれた決勝点。右CKのこぼれ球を拾って意表を突くノールック・スルーパス。これに反応したグロッソが左足でゴール隅に決めた。トレクアルティスタ受難の時代である00年代のセリエAで生き残るために、相手ゴールエリア付近をプレーエリアとするファンタジスタから、中盤の底をプレーエリアとするレジスタに転向したピルロ。この大舞台で、当時を彷彿とさせるファンタジーアをゴール近くで発揮したのは感慨深かった。それだけではなく、ゲームメイクや守備面でも獅子奮迅の活躍。文句なしのMOM。

  • 健闘が光ったドイツ


ドイツの敗因。リッピに対するクリンスマンの采配云々ではなく、これは単純にコンディションの差*4、そして本来のチーム力の差だろう。そもそもイタリアとはタレントの質も数が違うし、これまでの強化過程を振り返ればここまで渡り合えた事が脅威といえる。数ヶ月前は1-4で虐殺されたんだから。


試合全般の印象では、中盤でピルロを自由にさせてしまった事が大きかったと思う。ピルロのチームに対しては、彼を潰す事が鉄則といえる*5。司令塔を自由にした事で主導権を握られてしまった。ただそれでも決定機はあったし、延長終了間際まで粘ったのだから、惜しかったとは思う。PK戦でドイツがイタリアに負けはしないだろうし、ゲームプランは悪くなかった。ただ選手もそういう気持ちになり、最後に一瞬の隙を突かれたのかもしれない。


2年前のEUROでは結果・内容とも最低クラスだったドイツを、主体性のある攻撃的チームに作り変え、ベスト4躍進と開催国の責務を果たした。個人的には文句はつけられない。


  • モデルチェンジに成功したイタリア


イタリアは未だに守備偏重のカテナチオというイメージで括られるけれど、今大会はけして守備一辺倒ではない。確かに伝統の守備は堅く、攻撃的なチームではない。でも中盤でピルロを中心に中盤でしっかり攻撃を構成するし、SBの攻撃参加の頻度も高く、カウンター時にかける人数も多い。同じ決勝進出でも、6年前のEURO2000とは質が違う。4年前のWC、2年前のEURO*6とは比べ物になりませんね。


お家芸であるカウンターは、前線の傑出した個に依存*7したものではなく、中盤での速いパス回しから、人数をかけて点を取りにいっている。その象徴が2点目のシーン。カンナバーロが引いて守るのではなく高い位置に出てボール奪取、マイボール後も時間稼ぎに行かず、ゴールを目標としたトッティからのパス、それを受けたジラルディーノがゴールに向かって独走*8、そこからスペースにボールを出し、最後は数10メートルを走ってきたであろうデルピエロがゴール。外しても勝敗は変わらなかっただろうけど、あそこで追加点を狙いにいく姿勢、これまでのイタリアとはメンタルからして違う。これは攻撃的姿勢を打ち出したリッピによるところが大きいだろう。


開催国*9を破ったイタリア、そして相手はフランスvsポルトガルの勝者。近年で最もハイレベルな国際大会だったEURO2000と同じ流れですね。非常に楽しみだ。

7月4日総括:死闘の末、イタリアが決勝進出 (FIFAworldcup.com)
勝利は、つかみにいった者が奪う
最後に違いを生み出したイタリアの潜在能力
[準決勝]延長後半、電撃2発でイタリアがドイツ下す

*1:ピルロは外して守備的ダブルボランチの4-4-2フラットにするとか、イタリア紙で報じられてたしね。

*2:ここ数年のイタリアは、本大会前になると急に消極的になって、守備偏重のシステム・人選配置に変更していた。

*3:トッティは不調だったけれど、彼がいなかったらピルロが集中的に潰されるように感じる。

*4:ドイツはアルゼンチンとのPK戦に及ぶ激闘。イタリアはウクライナに大量リードし終盤は省エネ。

*5:現にイタリアは強烈なフォアチェックに苦しめられたアメリカ戦の内容が今大会で一番悪かった。

*6:ピルロレジスタに置いたスウェーデン戦以降の内容は悪くなかったけど、トラップの消極的采配で自滅。あれはマジで酷かったよ。

*7:ヴィエリ任せのロングボールがここ数年のカウンターパターン。ヴィエリが重戦車だったのでそこそこ機能していたけど。

*8:通常ならコーナーに逃げている場面。

*9:00年当時はオランダね。あのときは守備、そしてオランダがPK2本外すという運で勝ち上がったけれど、今回はそれだけではない。