ブラジルvsフランス

ブラジル 0-1 フランス

ボールポゼッションから細かいパスワークで攻撃を組み立てるブラジルに対し、フランスは守りをしっかり固め、ジダンにボールを預けてから、素早くアンリにDFラインの裏スペースを突かせる狙い。ブラジルは中盤を厚くして、ジダンを自由にさせない狙いが見えるも、コンディションの良いジダンにボールキープさてしまった。


ブラジルがパスワークから相手ゴール前に進入できたのは序盤だけで、前線のロナウドロナウジーニョに対するマークが非常に激しく、前でボールが収まらない。ボランチやSBの所でボールを持てても、相手陣内で攻撃の形を作ることが出来ないため、得点の匂いが感じられない展開に嵌ってしまった。いつかチャンスが来るだろうとタカをくくっていたのか、どこか覇気が足りない。これまでの格下相手と同じようなテンションで試合に入っていた。相手は復活したフランスなのに。


守備が機能しているフランスは、ブラジルの攻撃を跳ね返した後、ジダンへきっちりボールを収め、そこからサイドや裏への展開で攻撃の形を作ることに成功している。ただし前へそれほど人数をかけないため、ブラジルに脅威を与えるまでには至らない。前半終了間際に、カウンターからジダンが鮮やかな身のこなしで2人を交わしてパス、攻め上がってきたヴィエラが抜け出すも、ペナ前でファウルで止められた。これが最大のチャンスだろうか。


前半は均衡した展開だったけれど、集中力で上回り、ゲームプラン通りに試合を進めていたのはフランス。相手キーマンをきっちり潰し、少ないながらジダンを中心に攻撃の形も作れている。対してブラジルは、中盤を厚くしたのに、相手キーマンのジダンを潰す事も出来ず、前線に上げたロナウジーニョもほとんど機能していない。パレイラは前半でロナウド1トップを放棄し、システムを変更すべきだったと思う。



後半、ブラジルはDFラインを押し上げて、高い位置から積極的にチェックし、前線へのフォローにも人数を増やす形で、主導権をもぎ取ろうとしてきた。前半よりはパスが回り、攻撃の形は作れるようになる。ただ相変わらずフランスの攻守の切り替えは早く、厳しいマークで前線とのパス・コンビネーションを封じられてしまうため、なかなかチャンスを作らせてもらえない。


57分、ジダンのFKに、ファーでフリーになっていた*1アンリがダイレクトで合わせて先制。フランスは得点力のあるチームではないから、ブラジルの攻撃がうまくいかない時間帯、まだテンポアップする前に、先制点を取れたのは非常に大きかった。


リードされたブラジルは、中盤のジュニーニョに代えて前線にアドリアーノを投入し、システムを元の4-2-2-2へ変更。2トップになり前の起点が増えたこと、中盤でロナウジーニョがボールを持って展開できるようになったことから、これまで封じ込められていたパス・コンビネーションに改善の兆しが見え始めた。プレーをテンポアップし、後方からの攻撃参加も増え、前がかりになって攻めに来た。


フランスも前掛りになったブラジルの裏を突いて、ジダンの華麗な技巧や、アンリやリベリーがスピードを活かしてカウンターを狙う。両チーム縦への展開が早くなり、試合のテンポが上がり始める。お互いシュートチャンスがあるも、決めきれず。


その後、ブラジルはフレッシュなシシーニョロビーニョを投入し、猛攻を仕掛けようとするも、フランスもしぶとく守り、決定機を許さない。フランスのゴール前での守備は素晴らしく、全く集中力を切らさなかった。


ブラジルは個人技で一人は打開できるものの、コンビネーションの意識が希薄となり*2、次々と立ちふさがる守備陣を打開することは出来なかった。そういう膠着状況でも、予想外のスーパープレーで打開してきたのがブラジルの誇るクラッキ達なのだけど、今大会の他の試合同様、彼らに好調時の切れはなかった。


ブラジルの攻撃を凌ぎきる形で、フランスが0-1の完封勝利。準決勝進出を決めた。




ブラジルは試合の入りが悪かったと思う。これまで省エネで勝ち上がっていたので、今回も流れでゴールできるだろうと、前半は様子見しているような印象を選手達に感じた。それがあのスタメンにも現れていた。


フランスはゲームプランを忠実に遂行した。前半から集中を切らさずブラジルの攻撃キーマンを止め、ジダンを経由して攻撃を作る。ブラジルは中盤を厚くしたのに、ジダンを自由にさせてしまった。この辺の対応も曖昧。潰すなら徹底的に、でなければジダンにボールを渡さない位の勢いで攻め込むべきだった。


フランスの狙い通りの展開でゲームは進み、その流れを維持したままセットプレーで先制。そこからフランスは守備に比重を置いた。追い詰められてようやく本来の形で本気になって攻め込み出したブラジル。でも残り30分で守りに入ったフランスを崩すほどの輝きは、今大会のブラジルにはなかった。


もしブラジルが追いついていたら、フランスの勝ちはなかったと思う。良くてPK勝利だろう。ただリード後の限定状況でなら、経験豊富なフランスにとって逃げ切れる自身はあったはず。イーブンの段階から本来の形でハイペースで攻め続けていれば、フランスも90分は耐え切れなかったかもしれない。どこかブラジルが力を出し切る前に敗れたという印象を受けるのは、ここら辺から来るのかな。


この試合の後半からブラジルのWCが開幕して、ペースを上げきる前に敗れたという印象。今大会ブラジルは本来の輝きの片鱗のみを見せて敗退した。


  • ブラジル


ブラジルはジュニーニョを起用し中盤を厚くして、ロナウドの1トップ気味の布陣で望んだ。そのロナウドの1トップ起用が失敗だったと思う。ほとんど動かないため、前線で蓋になってしまい、中盤からボールが引き出せず、チームの流動性は失われた。一列上がったロナウジーニョにも、ボールは行き渡らなかった。


この布陣変更、ロナウジーニョを前線に上げて守備負担を減らすためか、中盤を厚くしてSBの裏をカバーするためか、あるいは相手キーマンであるジダンをケアするためか。そういう受身の姿勢はブラジルらしくなかったと思う。


フランス守備陣のハードマークの前に、前線のロナウドロナウジーニョにはほとんどボールが収まらず、前半の攻撃は停滞してしまった。相手ボールになると、ジダンにボールが収まってしまうため、ボール奪取してからのショートカウンターも狙えない。


後半、アドリアーノ投入により2トップにして、ロナウジーニョを中盤に下げてからの方が攻撃はうまくいった。ただ一度狂った歯車は、最後まで噛み合わなかった。復活したフランスの堅守相手に、隙を見出すことは出来なかった。


フランスは守備ラインを後方に下げて、エリア内では全く自由を与えてくれなかった。アタッカー人はハードマークに苦しんでいたから、後方にも起点を作った方が良い様に感じた。ミドルシュートと展開力、そしてセットプレーでの一発があるジュニーニョを3列目に下げて欲しかった。


膠着した局面を打開するため、最後にパレイラはカカに変えてロビーニョを投入。4バック、ダブルボランチという形は崩さず、最後までバランスに気を使った。もう点を取る以外生き残る道はなかったのだから、一か八かで1ボランチ、あるいはCBを一枚削って、アンカーが状況に応じて最終ラインと中盤を行き来する形にするのも手だった。その役目はエジミウソンがいれば適役だったのだけれど。


ただこの試合は、監督の采配が勝負を分けたというより、この試合のフランスの守備陣の出来が、ブラジルの攻撃陣の出来を上回ったことに尽きると思う。パレイラが責められるとしたら、采配というより、個に依存したチーム作り、そしてアンタッチャブルのコンディションの見極め、取捨選択に失敗した事だろう。個に依存するなら、好調の選手に依存すべきだった。


このチームが負けるとしたら「守備の破綻」だろうと、そう思っていた時期が、俺にもありました。まあ、確かにセットプレーでアンリをドフリーにした対応はお粗末だったし、他にも守備の綻びは何度も散見されたけれど、それ以上に攻撃が機能しなかった事が誤算と感じた。このチームはもともと守るのではなく、失点してもそれ以上に得点する事を目指したチーム。攻撃が守備組織なしの日本にしか嵌らなかった今大会*3、そういう意味で敗北は必然だったかもしれない。


チームのピークは、ロナウドのいないコンフェデの時だったと思う。ロナウジーニョ、カカ、アドリアーノロビーニョが流動的に絡み合う。若手SBがアグレッシブにアップダウンを繰り返す。アルゼンチンを4得点で粉砕した時には、これはそう負けないだろうと思ったけど、今大会期間中はコンフェデ当時より明らかにチーム状態が悪かった。


やはり個人主体のチームは、主力選手のコンディションに大きく左右されてしまう。自慢のカルテット・マジコは、魔法を披露できるコンディションになかった。ロナウドはダイエット中だし、アドリアーノインテルでの不調を引きずり、その2トップを前に、本調子とはいえないロナウジーニョとカカは最後まで居場所を見出せなかった*4


そういう状況であっても、選手個々を相互補完するような組織力があればある程度はカバーできただろうけど、ブラジルはそういう方向性のチームでない。これはもう仕方ない。チームが機能しなくても、選手の圧倒的個人技で何度もこじ開けてきたのだから。


ただアンタッチャブルがチームに多すぎて、コンディション不良の選手を使わざるを得ないのは痛かった。一人なら周りでカバーできるのだけど、ブラジルの場合はそうはいかない。それでも一人外すとしたら、動かないロナウドのいないチームの方が機能しただろうけど、日本戦の2ゴールで外せなくなってしまった。あそこがまともな相手で、ロナウドが前2戦同様冴えなかったのなら、また違ったのかもしれない。


能力上位の攻撃的タレントを並べるだけでは勝てない、それは過去の歴史が証明していること。他にもバロンドール受賞者のいるチームは優勝できない、欧州開催で南米チームの不利など、様々な不安要素はあったのだ。ただ、このブラジル代表にはそれらのジンクスを吹き飛ばすほどのポテンシャルがあったのも事実。攻撃タレントのコンディションが良く、それがチームとして噛み合えば、敵はいないだろうと。ただその部分が難しかった。


これでブラジルを長年支え続けた両SB、カフーロベカルは一線を去っていくのかな。エメルソンも最後だろう。ロナウドも年齢的に厳しい時期にだけど、まだまだ居座るでしょう。今後はロナウドの存在をめぐって論争が起こりそうですな。次の監督はロナウドアンタッチャブルにするのかどうか、個人的にはロナウジーニョとカカを中心としたチームを作るべきだと思うけど、色々と難しいんでしょうな。

  • スターとバランス


イングランドもそうだけど、バランスを考えず、スター選手を順番に並べたようなチームは敗れ去っている事実。様々な教訓を残しましたな。ま、個人的にこういうやり方は好きではない。機能すれば最良なんだろうけど、まずそれはないから。ただブラジル代表ならそれも「アリ」なのかと思ってたけど、結果は失敗と。ただコンディションが万全なら可能性はあった。イングランドはあれで成功するはずもないですね。

今大会のチームで面白いと思ったのはアルゼンチン。詳細はまた後にして、簡単に書くと、スタートはリケルメ中心のチーム、後半にメッシなど局面打開に優れた選手を投入し、チームのテンポ・リズムを変える。選手層が厚いチームにとって、こういう二段構えの編成は面白いと思った。それを使い切らず守備固めをして敗れたドイツ戦。非常に残念だった。あれで成功してれば×ルマン見直したのになあ。


  • フランス

大会前、ブラジルも磐石ではない、敗北も十分ありえるだろうと思っていたけれど、まさかその相手がフランスとは思わなかった。ドイツの開催国ドーピングは予想できたから、フランスの復活が今大会のサプライズかな。


スペインを枠内シュート2本に押さえた守備は、ブラジル相手にも十分通用していた。選手個々を見れば優勝候補、ただ予選からチームとして噛み合っていなかった点が評価を下げていた。大会に入っても似たようなもの。スイスと韓国相手に勝ちきれない。守備だけは堅かったけれど、相変わらずの得点力不足。チームの軸であるジダンとアンリが噛み合わない攻撃の不調は深刻に見えた。


チームが代わったのはトーゴ戦。ジダンがいないことにより、各選手に自覚が芽生えたのか、攻撃に躍動感が出始めた。

特にジダンの後方をケアすることばかりに気を取られていたヴィエラが、全盛期を思わせる攻め上がり取り戻したのは大きい。新星リベリーもようやくチームに居場所を見つけ出す。そうした好循環の中でジダンが復帰したスペイン戦、ジダンに依存したチームではなく、ようやくチームの中にジダンが組み込まれたと感じた。一度生まれたチームとしての好循環は、ブラジル戦でも形として出ていた。


ジダン自身のコンディション向上も躍進の大きな要因。トーゴ戦を休養できた事が良かったのか、スペイン戦からの好調を維持している。ジダンのところでボールが収まるのは、フランスにとって大きい。アンリのDFラインを押し下げるための裏抜け、ジダンが動いたときの周りのフォロー*5。ただ単にジダンにボールを預けていたグループリーグまでとは違い、ジダンを活かすためチームとしての狙いも徐々に洗練されてきた。


ただまだチームとして完璧に嵌ったわけではない。アンリはセットプレーでも得点したけれど、流れの中で持ち味を発揮しているとは言い難い。ジダンや周囲を活かすための囮としては機能していても、アンリ本来の能力は活かされていない。最適ポジションではない1トップ*6への苦心もうかがえる。アンリの動き出しのタイミングと、チームとしてのパス供給がまだまだぎこちないし、アンリが周囲を活かす能力もまだ本領発揮していない。ここが嵌れば、さらなる強さを発揮すると思う。


守備は本当に堅い。ギャラステュラムの対人に優れたCB、そしてマケレレヴィエラのダブルボランチ。SBはサイドでの一対一はそれほどでもないけれど、絞って守るのは非常にうまい。フランスの中央守備を中央からこじ開けるのは容易でない。韓国戦でチョ・ジェジンに競り負けていたように、高さが唯一の穴か。その点で、次がクラウチのいるイングランドではなく、ポルトガルというのは有難い。中盤でパスを繋いでくるチームには、フランス守備陣は相性の良さを発揮できる。

中盤の攻防は互角。いくらジダンがいるとはいえ、チーム全体の攻撃構成力ならポルトガルのほうが上回るかもしれない。デコが復帰した中盤のバランスは大会屈指。フランスはジダンの出来に大きく左右されるので、安定感でもポルトガルが上。

ただ、ブラジルとスペインを完封したフランスの堅守に、ポルトガルが点を奪うのはかなり難しい。引いて守られると攻め手をなくすポルトガルにとって、堅守を誇るフランスは一番苦手なタイプでしょう。鍵はサイドでの攻防。ここでポルトガルが上回らない限り、勝機は少なそう。その上で、中で点が取れるのかどうか。
フランスはスペイン、ブラジル戦のように、相手にシュートチャンスを作らせない試合展開でOK。パウレタとアンリ、エースFWの決定力ではフランスが上回っている。名将フェリペがどんな策を弄してくるのか、それに対すドメネクは本当に一皮剥けたのか。ここまでセオリー通りの交代策で、相手が勝手に自滅しているけれど、フェリポンは2度も過ちは犯さないだろう。ドメネクが何かやらかさない限り、フランス優位だと思うが、果たして。

*1:左サイドでロベカルがマークをサボっていた。試合中も裏を突かれていたし、やはりロベカルの裏は穴になりましたな。

*2:味方がスペースにフリーでいても、シュートを打ってしまう。ロナウドのペナ前でのシュートシーン、サイドに流せばさらにゴールの確率の上がりそうなシーンが2度はあった。でもそういうシュートを決めてきたのがロナウド、パスをしなかったことを責めるより、シュートを決めなかった事を責めるべきでしょうな。

*3:大会中に本当に輝いたのは日本戦のみだったと思う。ガーナ戦は過剰に前掛りのチーム相手にカウンターが嵌っただけで(一点はオフサイドだし)、内容はそれほど良くなかった。クロアチア、オーストラリア戦では、引いた相手に苦戦を強いられ、何とか個人技で1点もぎ取っただけ。その時はコンディションを上げないで意図的に省エネ戦法を取っていたと思ったけれど、そうではなかった様だ。要は日本が弱すぎただけか。敗退の兆候は既にグループリーグの段階で既に現れていた。

*4:2人ともFWを走らせるスペースへのスルーパス、FWが空けたスペースへ高速ドリブルで侵入するプレーが持ち味。ただこのチームのFWにそういう動きはなく、2人とも多用な能力を活かせない、単調な選択肢を強いられてしまった。

*5:ジダンが下がればヴィエラが前に出てくる。前線に上がったりサイドに流れると、サイドアタッカーが絞ったり、アンリの位置も変化する。フランスの不調時は、ジダンにボールを預けるだけで、全体が完全に硬直下していて、このような連動性がほとんどなかった。

*6:適性がないというわけではない。ただ左サイドに流れたり、前を向いてのプレーが得意で、前線中央でターゲットとなる仕事は最適ではない。エリクソンの奇行、ルーニーの1トップとは比較にならない。