決勝戦

早朝に書き殴ったものから大幅に改訂しました。

バルセロナ 2 - 1 アーセナル
[得点]37分:アンリ→キャンベル(ア)、76分:ラーションエトー、80分:ラーションベレッチ

バルセロナ:4-1-2-3→4-2-3-1
V・バルデス;オレゲル(71分ベレッチ)、マルケスプジョルファン・ブロンクホルストエジミウソン(46分イニエスタ)、デコ、ファン・ボメル(61分ラーション)、ロナウジーニョ、ジュリ、エトー

アーセナル:4-1-4-1→4-4-1
J・レーマン(19分退場);エブエ、K・トゥーレ、S・キャンベル、As・コール、ピレス(20分アルムニア)、ジウベルト・シウヴァ、セスク(74分フラミニ)、A・フレブ(85分レジェス)、リュングベリ、アンリ

  • 一進一退の攻防から一転

この試合のバルサは試合開始からロナウジーニョを中央、エトーを左へ配した左サイドの守備強化的なオプション布陣。ロナウジーニョよりエトーの方が走力があって守備にも献身的。

試合開始早々にアーセナルが右サイドから決定機を作り、アンリの一対一でのシュートはバルデスに止められる。若干アーセナルペースも、序盤はお互いがアグレッシブに攻め合い、一進一退の攻防で名勝負になる予感満載だった。そして試合の流れを決定づける1プレーが。

ロナウジーニョの絶妙なスルーパスに、これ以上ないタイミングとスピードで走り込んだエトーが、完全にアーセナルのDFラインを抜け出して独走。慌てて飛び出したレーマンは簡単に交わされ、苦し紛れに手で足を引っ掛けてしまう。痛恨の一発レッド。

これは故意に手で転ばして得点機を妨害した*1から仕方ないけれど、まずはファウルは流して、ゴールを認めてからレーマンにイエローでも良かったと思う。やはり中立的立場で見る者としたら、決勝戦は11対11の対等な勝負を見たかった所。

この退場劇で試合の趨勢は決まってしまった。10人のアーセナルが一人多いバルサに勝つためには、引いて守ってカウンター狙いのサッカーをやるしかない。攻めるバルサ、守るアーセナルの構図が明白に。

バルサは当然のようにボールを支配して攻めまくる。後方からじっくりビルドアップし、サイドを広く使って、分厚く守られた中にどうにかして隙を作ろうとする。しかしバルサは数的優位に立った気の緩みからか攻めあぐね、前半37分にセットプレーからキャンベルのヘディングにより1点を失ってしまう。

アーセナルは無理に前からボールホルダーにプレッシングするのではなく、リトリートしてゴールに直結する危険なスペースを消す事に専念する。古今東西、組織的に引いて守る相手を崩すのは容易でなく、バルサといえどそれは同じ。昨シーズンのミラン戦が頭を過ぎる展開だった。

バルサの攻撃技術、サイドへの大きなサイドチェンジの正確性、サイドに張り出したジュリのボールレシーブ、ロナウジーニョのキープ力、エトーの反転スピードなどは絶品。狭い所でのパスコンビネーションも流石で、何度か可能性を感じさせるシーンは作る。でも最後の最後で崩しきれない。

何となく逃げ切られそうなムードが漂ってきた所で、ライカールトイニエスタラーションベレッチという攻撃的采配が尽く当たる。始めからロナウジーニョ中央&エトー左、そしてボメルとオレゲルをスタメンにした守備重視策が裏目に出た前半を挽回するかのように。

まずは守備的な役割を担うアンカーのエジミウソンに代えて、ボールスキルに優れる攻撃的なイニエスタを中盤の底に投入。彼のキープ力とパスセンスでボールの周りが良くなったし、正確なサイドへの散しでピッチを広く使った攻撃でリズムを作る。さらに中央守備が甘くなったら、ドリブルで前方スペースにボールを運んだり、エリア内への飛び出しなどで、アーセナルバイタルエリアを脅かす。

これによりアーセナルは、イニエスタをケアする為に中盤へのプレスに人を掛けなければならなくなる。前線の選手だけを圧縮ゾーンに嵌めてハードマークするより、必然的に多少は前掛りでプレスを掛けざるを得なく、リトリートしてスペースを消した圧縮ゾーンに徐々に綻びが生まれ出し、劇的な逆転にも繋がったと思う。

中盤で攻守に中途半端だったファン・ボメルに代えて、前線でのターゲット役になれるラーションをCFに投入。超攻撃的な4-2-3-1。ラーションは確実なポストプレーで起点となり、攻撃にタメと深さを与える。それまでスペースへの飛び出しを狙ったパスが大半だったのが、いったん前線中央に構えたりやサイドに流れるのラーションに楔を当てる事で、トップ下付近に下がったロナウジーニョを始めとした選手達が前を向いてプレーできるようになり、攻撃にバリエーションが生まれた。

そして最後の交代枠はSB。守備を期待されて配置されたはずなのに、いつもの如く快速アタッカーに付いて行けない本職CBのオレゲールに代えて、サイドからのオーバーラップに定評のあるSBベレッチを投入*2。リードされて追いつきたい状況では、普通なら前の選手同士を入れ替えたりと、どうしてもアタッカーを投入してしまう所だけど、ライカールトは冷静に戦局を読み取り、最後のピースを右サイドに当てはめた。

これでリュンベリは相手SBの攻撃参加にも注意を向けねばならず、サイドの主導権争いに変化が現れた。カウンターから守備にまで奔走したリュンベリは消耗。ベレッチはクロスや前方スペースへの飛び出しといった攻撃面でもオレゲールとは違って貢献した。そして最後に大仕事。

  • 布石が結実した2得点

ベレッチ投入をするまでの時間帯は、前掛りになった隙をアーセナルに突かれてピンチを招くなど、守備面の不安が目立ったけど、徐々にこの3つの交代策が結実し始め、バルサに流れが傾く。

後半31分、エトーからボールを受けたイニエスタの楔のパスに対し、ポストに入ったラーションが絶妙なタイミングでエトー*3にダイレクトパス、エトーアルムニアのニアサイドに流し込んで同点。出し手と受け手の呼吸が合い、3人目の動きも完璧な素晴らしいゴールだった。

そしてバルサは機を逃さず畳み掛ける様に逆転を狙いに行く。迎えた後半35分、まずベレッチがサイドへ流れるラーションへ楔のパスを送り、苦しい体勢でも見事にボールを収めたラーションが中に折り返し、ラーションの空けたエリア内スペースへと飛び込んだベレッチアルムニアの足を弾いて逆転ゴール。2人の意思の疎通があった見事なゴール。ここでほぼ勝負アリ。ライカールトの交代策が結実した瞬間。

  • バルサのポゼッションによる逃げ切りモード

バルサは攻撃モードから一転、守備をケアしながら時間稼ぎのためのボールポゼッションで主導権を渡さない。引いてゴール前を固める事により守るのではなく、アーセナルの攻撃時間を減らす事でリスクを抑える。1度リードしたバルサから、残り約10分で一人少ないアーセナルが追いつくのは至難の業だった。というかどうしようもない。レジェス投入も後の祭り。そのまま逃げ切ってバルサが14シーズン振り2度目のビッグイヤーを獲得。

アーセナルとしてはやれる事はやったと思う。粘り強く守り続け、アンリのセットプレーのワンチャンスをキャンベルが生かして効率良く先制点。理想的な展開。その後もゴール前のゾーンを圧縮し、バルサの使いたいスペースを消して、カウンターで脅威を与える。今シーズンのCL躍進を支えた堅守速攻は、バルサ相手にも十分通用していた。彼らの数的不利でも諦めない粘りがこの試合を面白くさせた。

  • 高速カウンターは機能するも実らず…

バルサの守備組織はいつもと比べおかしかった。個々のマッチアップでも、バルサ守備陣はアンリやリュンベリのスピードに四苦八苦。大黒柱プジョルでさえもいつもと違ったし、特にオレゲールは快速アタッカー陣のスピードに全く付いていけず、危ないファウルを何度も繰り返した。アーセナルは圧倒的にボールを支配されながらも、高速カウンターで何度か決定機を作る事に成功した。

ただし結果的には、その決定機を確実にモノに出来なかった事が後に響いた。後半のビックチャンス、アンリ、リュンベリのどちらかが決めて2点差にしていれば、そのまま逃げ切れた可能性が高い。そういう意味では、ビッグセーブを見せたバルデスを褒めるべきか。

MOMは2アシストのラーション。後半途中の投入後、前線で起点となってバルサの攻撃に彩りを与え、試合を決める2アシストと、ラストゲームをCL優勝というこれ以上ない有終の美で飾った。バルサにとってこの万能型FWが移籍する穴を埋めるのは容易ではない*4

そして決定機を防いだGKバルデスも素晴らしかったと思う。派手なバルサの中では地味な存在で、きっとCL史にも残らないだろうし、攻撃陣に比べニュース等でも取り上げられる事は少ないだろうけど、決勝戦勝利の影の立役者だと個人的には評価したい。守備が安定していなかった今日のバルサを、最後の所で支え続けたのはバルデスに他ならない。バルサ守備陣でアンリと渡り合ったのは彼だけ。

アーセナルはエースFWのアンリが、2回あった1対1をどちらもバルデスに止められたのが痛かった。エトーは2回のうち1回は決めたわけだし*5。エースの決定力の差も勝負を分けたと思う。ただあれだけ前線でボール・キープして、カウンターでバルサの脅威となり、守備にも頑張ったアンリを責める事は出来ない。やはり止めたバルデスが今日は凄かったと。でもこれだけ外したらアンリが移籍しないよね。

そしてそのバルデス*6だけでなく、ベレッチ*7、ジュリ*8といったビッグイヤーに貢献した選手たちが、WC代表メンバーからは落選。贅沢な物です。

  • 最後に何の意味のない戯言

結果的には10人のアーセナルが先制したので良い試合になったけど*9、出来れば11対11でもう一度見てみたいカード。でもバルサファンからしたら最高の試合でしょうね。守りに守られて鬱憤が溜まった所で、一気に連続ゴールで大逆転。この展開は痺れると思う。羨ましい。

まあ、とにかく色々と見所の多い面白い試合でした。あ、これでセルティックのCLストレートインが決定か。俊輔は残留した方が良いね。

今シーズンの欧州サッカーシーンも終了。総括はの予定は未定で。CL一試合を見ただけで今日は1日中眠かったから、夜から早朝に架けて1日3試合あるWCは死にそうだ。見るだけで精一杯で、更新できるか分からん。

*1:レーマンはプレミア最終戦でもFKの処理ミスで失点してたし、そろそろ確変終了ですかね。まあ退場するまでは安定してたけど。

*2:対するヴェンゲルはセスクを下げフラミニを投入し、守りの意識を高めます。これが結果的に明暗を分けた。

*3:イニエスタにボールを預けてから斜め前方スペースに走りこんでいた

*4:これだけの能力があって、控え扱いに不満をあからさまにしない選手は希少。アンリを狙ってるらしいけど、彼は控えには出来る選手ではない。エトーがいるから破格に移籍金を捻出してまで獲る必要ないような。

*5:前半終了間際のアルムニアの好セーブでポストに弾かれた反転シュートも凄かった。キャンベルを置き去りにした反転のキレが凄まじい。

*6:まだ安定感のない試合もあるし、代表3GKがカシージャス、レイナ、カニサレスだからまあ仕方ない。

*7:これもセレソンRSBはカフーシシーニョだからね。でも最近の試合を観ると、シシーニョよりもベレッチ、そして最終節での直接対決を対面で凌駕したダニエル・アルベスの方が目立っている。シシーニョは攻撃面での個人技はあるけど、SBとしてはまだまだだね。だからマドリーでは左SHで使われたりする。

*8:これは不可解。

*9:一人多いバルサが先制してたら試合は一方的になったと思う。アーセナルがリードしたからこそ、バルサが圧倒的にボールを支配し続けても緊張感があった。