磐田vs広島

ジュビロ磐田 3−0 サンフレッチェ広島
[得点]00分:太田→鈴木秀人、19分:太田吉彰 89分:名波→太田吉彰

ウェズレイ森崎和幸、戸田、ジニーニョと主力3人を欠いた広島が悪すぎるのもあったけど、ジュビロは久しぶりにまともな試合を見せてくれた。ようやく「カレン1トップ&名波の1トップ下」のテストを諦めてくれたのかしら。気付くのにどれだけ掛かるっていう話だが。交代策も珍しく妥当。
これなら更新意欲もなくならない。

4-2-3-1
       前田

 船谷   成岡    太田

    ファブリ 福西

服部  金珍圭  田中  鈴木

       川口


スコア上は3-0の完勝も、試合内容はまだまだ。中盤で簡単なパスミスが多すぎるし、守備のプレスも不十分。試合開始直後のラッキーゴールで先制して流れが良くなったのと、相手の稚拙な攻守に助けられての快勝であって、これからも苦労する事に変わりはないと思う。試合自体もお互いの簡単なパスミスで流れが止まる低レベルの試合だった。でも勝ったので良かった事を主に。

今日はなんと言っても太田でしょう。昨シーズンの3-5-2のWBとは異る役割をよく理解し、4-2-3-1のSHに必要な仕事をほぼ完璧にこなしてくれたと思う。

右サイドでボールを持った際に、これまでのように縦へボールを運んでクロスを上げるプレーだけではなく、SBの攻撃参加を引き出すプレーが秀逸だった。太田が内へ切れ込んで外にスペースを作ってくれた事により、右SBの秀人がオーバーラップを何度も出来て、この2人だけで右サイドを切り崩せていた。秀人のクロスが直接入ったラッキーゴールも、2人でサイドを崩す連係が出来ていたからこそ。秀人のSBも様になって来た。

そして持ち場である右サイドでの仕事だけではなく、1トップをフォローする為に積極的に中に入ってのプレーにも対応出来ていた*1。エリア内にスピードを活かして中央突破で切れ込んで、得意の抑えの効いたシュートで殊勲の2ゴール*2。それ以外にも惜しい場面を何度か作り出した。

数少ない出場機会ながら、もうチーム最多の3ゴール。やはり昨シーズン、WB起用で7ゴールを奪ったゴールセンスは伊達ではない。課題だったプレーの幅も広げて確実に進化している。チームの誰よりも長い距離を何度も走る献身性も変わらない*3。なぜか監督が定期的に干すから知名度は全国区にならないけど、ジュビロのフル代表未経験者では一番代表に近いと思う。

太田は一昨年のデビュー後にすぐ活躍して、昨年はWBとしてJ最多の7ゴールとブレイクを果たしたのにも拘らず、山本監督は2年連続で開幕から干していた。西の怪我の後にレギュラーに復帰した途端に活躍する流れは昨年と全く同じですね。何度も書いてきた事だけど、なぜ序盤から使おうとしなかったのか。これは自分だけではなく多くのサポが不満に思っていた事。これで先発5試合中3試合でゴールに絡んでいる。これだけ活躍すればもう干される事もないでしょう*4

太田吉彰選手 
「(前に上がれと)特に言われているわけじゃなくて、前がワントップなので、僕が中へ入った方が、けっこうシュートとも打てているので、そういう部分で非常に良いのではないかと思って、自分の判断で入っています。去年は3-5-2だったのですが、なかなかうまく入り辛かったのですが、今年は4-5-1で前も一人なので、そのまま前の人が一人だけじゃかわいそうなので、僕も少しでも中に入ってフォローできればいいなと思ってやっています。」
http://www.jubilo-iwata.co.jp/live/2006/J060416_725.php

甲府戦のコメントで「2トップになってどう動いていいかわからなかった」と言っていたのとは別人のようだ。という事は、左の村井にも監督は「中に入れ」とは指示していないのかな。監督が適切な指示を出来ないのはもう仕方がないから、太田のように自分の判断で戦術状況に合ったプレーを選択する個人戦術を磨いていくしかないと思う。
4-2-3-1の新システムにしてから、1トップの近くでフォローする姿勢が、これまでのチームにはなさすぎた。孤立無援の状況でカレンに多くを求めるのは酷。今度はカレンが干される立場になったら可哀想ですな。

  • 適材適所な選手配置

そしてこれまで散々書いてきた選手配置の問題。やはり1トップに楔になってある程度キープできる前田*5、1トップ下にFWを追い越してエリア内に飛び込める成岡がいると、同じ4-2-3-1でもこれまでとは異なったサッカーになる。1トップはこれまでの試合に比べて孤立していなかった。

怪我からの復帰明けの前田は、まだまだ試合勘の不足でプレーが安定していないけど、下がって楔を受けて捌いたり、前線でハイボールを競ったり、ポストになってキープする事に関してはカレンより明らかに上。今日はオフサイドが多かったけど、サイドやライン裏に飛び出してボールも良く引き出せていた。シュートは打てなかったし、まだ本領発揮とはいかないけど、1トップとして最低限の仕事は出来ていた*6。次は完全復活ゴールを期待。

成岡もプレーの精度は安定していないし、まだ試合から消える事も多いけど、1トップが空けたスペースに忠実に侵入したり、サイドからのクロスにもエリア内に飛び込めていた。後半の村井からのロングフィードに、広島のラインのギャップを付いて抜け出してシュートを打ったシーンは彼の真骨頂。ループ気味のシュートは下田の好セーブに阻まれたけど、ああいう動きをもっと繰り返していけばシーズン3ゴール目も遠くないでしょう。全体的には課題の方が多いけど、1トップ下としては名波より適正がある。

  • カレンの1トップ、名波のトップ下の不適正

これまで1トップを務めていたカレンは、スペースに前を向いて本領を発揮するスピードタイプで、最前線でDFを背負ってキープしたりハイボールを競る役割は苦手。下がって楔を受けるより、スペースに走りこむ方が得意で、どちらも出来る前田に多様性で劣る。苦手な仕事を必要とされる1トップより、2トップ時にセカンドトップとして起用した方が良い*7

名波もボールサイドに寄って組み立てに絡むことを好み、1トップの空けたスペースに飛び込む走力や意識は低い。プレーの特性がシャドープレーを求められる4-2-3-1のトップ下には向いていないので、どうしても1トップが孤立してしまう。トップ下で使うなら、スペースの空いてきた終盤に試合を落ち着ける今日のような役割が適切。*8

  • 監督の基本的な仕事

やはり監督の仕事の基本は選手を適材適所に配置する事。その選手の特性と、ポジションに求められる資質が適合していないと、いくらシステム変更を繰り返しても機能するはずがない。それがこれまでは酷すぎた。これで監督がカレンと名波の起用法を再考してくれれば良いんだけど。

不安なのは、今までの流れと同様に、また次から戻してくる可能性がある事。それどころか、昨年から今年の流れを振り返ると、ようやく機能する兆しの見えた4-2-3-1をいずれリセットしてしまう恐れさえある。テストとリセットの繰り返しは止めて、そろそろ良かった時の布陣を継続して欲しい。それで結果が出ないならまだ納得は行く。

  • 広島について

広島は何だろう、同じくジュビロが勝った新潟や大分よりもチーム状態は悪く感じた。昨シーズンに比べて珠際やマークが甘すぎる。ここまで相手にフリーでプレーさせると監督の采配以前の問題。主力4人の欠場も選手層の薄い広島にとっても不運。でも責任を取るとしたら監督しかいない。これで広島は8戦未勝利。ここまでチーム状況が悪いと解任の可能性もあるかもしれない。
期待の前俊は調子が良くないらしいし、干されているのも仕方がないのかしら。でも先発の上野より途中出場の前俊の方が脅威に感じたけど。同じ北京世代では吉弘と高柳が先発。戸田の代わりを務めた高柳は悪くなかったと思うけど、吉弘とジニーニョの差は大きく感じた。


日本代表FWの佐藤寿人について。広島のエースである彼は、ボックス内で勝負する典型的なワンタッチゴーラーで、チームとしてお膳立てがないと機能しづらい選手。今の広島で活躍するのはかなり難しいと思う*9ジュビロが苦手とする一瞬のマーク外しが巧い選手だけど、今日は彼へのボール供給を断てたし、ゴールで遠い位置でしか自由にプレさせない事が功を奏した。シュート0本。
寿人のプレースタイルは、ドリブル突破やパス能力や長距離シュートはあまりないし、ポストやチャンスメイクなど組み立てに貢献できるタイプでもないので、今日のように孤立させれば試合から消えてしまう。DFとの駆け引きに勝って抜け出す一瞬のスピードや、クロスにマークを外してフリーで合わせる能力はあっても、長い距離を独走できるような快速タイプでもないし、単純な空中戦に強いわけでもない。チェイシングで守備に貢献は出来るけど、ペナ近くでの得点機以外では輝けない生粋のフィニッシャー*10
エクアドル戦のゴールで即代表レギュラーという声もあるけど、まだまだ当落線上の選手でしょう。本大会ではエクアドル2軍戦と同じようにチームが主導権を握るのは難しい。今の状況が続けば代表FWとしてのWC本大会メンバー入りは厳しそう。ゴールという結果を継続して残して、役割的に被る大黒を蹴落とせるかどうか。好感の持てる選手なので頑張って欲しい。


同じ代表の右SB駒野も不調。プレー全体に際立った所がなく、得意のクロス精度も安定していなかった。今年の出来なら、加地の控えはJリーグで活躍する他の選手の方が良いかな*11。まあジーコの序列上、駒野はメンバー入りが濃厚な選手なので、何とか調子を取り戻して頑張って欲しい。

*1:これは逆サイドの村井にも見習って欲しい。サイドであれだけ好質なプレーが出来るんだから、意識を高めれば中に入ってもやれるはず。先発左SHの船谷は全体的に修行が必要。前半終了間際の右からのクロスを、1タッチで福西に落したプレーとかセンス抜群だけど、軽いプレーとフィジカル面に難点がある。北京世代の司令塔候補で言えば、攻撃センスは東京の梶山や名古屋の本田にも見劣りしないけど、フィジカル面で大差があるのが厳しい。でも期待の若手の一人であることに違いはない。

*2:ストライカーでもないのにふかさずに落ち着いてシュートを打てるんだよね。

*3:この過密日程でサイドのアップダウンの量は圧巻。スピードとスタミナの総和は日本トップクラスだと思う。

*4:課題だった中に入ってのプレーも可能となると、トップ下に西を置いて試合中ポジションチェンジを繰り返す流動的な布陣もおもしろそう。西は左も出来るだろうし。

*5:1トップにボールが納まらないと、後方からの押上げが出来なくて全体が間延びしてしまう。

*6:ただ純粋な1トップより、プレースタイルを相互補完できるカレンとの2トップの方が合っているようにも感じた。これは終盤に1トップを務めた中山についても同じ。ゴンはボールは引き出せても、キープ力はないので1トップは厳しい。

*7:今の戦術での1トップシステムなら、前を向きやすいサイドの方がまだ良いかもしれない。SHというより、デポルでのルケのようなサイドFWというイメージで。

*8:今日の起用法ならならまだまだ十分やれるはず。タメを作って太田にアシストパスをした一連のプレーは見事だった。開幕から不振の戦犯の1人にされていたけど、単に適正外のポジションでプレーさせていたから活躍できなかっただけ。適材適所で使えば十分戦力になる。

*9:逆にチャンスメイクの巧いガンバや鹿島でなら得点量産できそう。スペースメイクやポストプレーなど1トップに多様性の求められるジュビロでは厳しいかな。

*10:フリーになる動きと、ゴール嗅覚・決定力は日本屈指。

*11:SB出来るか微妙だけど、攻撃のオプションとしてのWBなら太田。SBなら守備的オプションとして対人に強い徳永。ルーキー内田も勢いがあるけど、まだ早いか。