ボスニア・ヘルツェゴビナ戦

日本代表 2-2 ボスニア・ヘルツェゴビナ代表

【得点】45分 高原直泰(日本代表)、56分 ミシモビッチボスニア・ヘルツェゴビナ代表)、67分 スパヒッチ(ボスニア・ヘルツェゴビナ代表)、95分 中田英寿(日本代表)


相手のボスニアは欧州予選でスペインと渡り合った鬼プレスは見る影もなく、試合の入りから親善試合モードまんまん。ただし前2戦のフィンランド、インドとは比べようもなく、本番と同じスタジアムでそれなりに手応えがある相手と試合をやれた事は収穫でしょう。ただし内容面では多くの課題が残った試合だった。

GK 川口能活
DF 加地亮宮本恒靖中澤佑二三都主アレサンドロ
MF 中田英寿小笠原満男小野伸二中村俊輔福西崇史稲本潤一
FW 久保竜彦柳沢敦高原直泰大黒将志

日本は4-4-2。DFラインから丹念にビルドアップしていき、落ち着いたパス回しから全体が押し上げていくポゼッションサッカー。豊富な中盤センターの人材を考えると、4-4-2がベストメンバー時のジーコのファーストチョイスなのかな。

ボスニアは4-3-3。サイドを数的有利を作って攻めてくる、日本が苦手とするタイプのチーム。オーストラリアも似たようなシステムでしょう*1。攻撃はタメの作れるトップのバルバレスに預けてからの展開と、プレッシングからの素早いカウンター。


前半はまあそこそこ。中田と俊輔が中盤いると流石に一味違う。相手のプレスが緩かった前半は、キープ力と展開力でチームに落ち着きを与えた。ボランチ起用された中田は、中盤の底から確実なボールキープからの展開が光った。俊輔は福西の一対一の場面を作ったパスが見事だった*2。セットプレーでも正確なキックを見せ、見事に高原のゴールをアシスト。相手を無失点に押さえ、前半終了間際という良い時間帯での先制ゴールは評価できる。


問題は後半。実質ホームでアジア相手に負けるわけには行かないと思ったのか、ボスニアがそれなりにプレスを強めてきた。こうなると組織的なプレス網を引くチームに弱い日本は苦しい。日本は中盤に技術力のある選手は多いけど、DFラインからのビルドアップ能力が大きく欠けていて、連係面や組織力にも不備があるので、前からのプレッシングに脆さを露呈してしまう。ポゼッションチームを標榜するにはまだまだ多くの課題がある。

ポゼッションから攻めに転じようにも、パスワークをプレスで分断され、大きく空いたサイドのスペースにカウンターを喰らう。サイドが押し込まれるとDFラインがズルズルとラインを下げて、中盤に大きなスペースが空いてしまう。前線や中盤の選手は前からボールを奪いに行こうとするが、間延びした布陣では効果的にプレスがかかるはずがなく、相手に簡単に主導権を握られてしまう。相変わらず攻守の切り替えも遅く、効果的なカウンターも繰り出せない。いつものパターン。

劣勢に立った時には我慢して守備から立て直すしかないけど、守備組織がろくにない日本ではどうにも苦しい。相手の組織的なプレッシングとは違い、こちらのプレスは個々が当たりにいくだけで、チームとしての連動性に大きく欠ける。相手がポゼッションをしている際、個々がバラバラに取りに行ってパスワークでいなされ、何度も1対1の場面を作られてしまった。

特に対人守備の弱いSBが1対1に晒されて、簡単にゴール前にクロスを上げられてたり、中に切り込まれて楔のパスやシュートを打たれたりなど、決定機を数多く作られてしまった。欧州予選でのボスニアは、攻撃面ではカウンター以外に際立った面はなかったけど、相手のレベルが下がるとこれくらいやれるわけだ。

劣勢の内に2失点を喰らい逆転。そしてそれ以上に多くの決定機を作られてしまった。小野、稲本、柳沢、大黒といった選手の投入も大勢には影響なし。結果的にはロスタイムに中田の劇的なゴールでドローに持ち込んだけど、相手FWに決定力があれば惨敗していてもおかしくなかった。ブラジルは当然として、クロアチアプルショクラスニッチ、オーストラリアのビドゥカならやられてたと思う。WCに向けて大きな不安の残る一戦だった。


良かったのは俊輔と中田でしょうね。ロスタイムの俊輔のクロスは正確だったし、あそこに飛び込んで決めれる中田の勝負強さも流石。2人とも広い視野から繰り出される正確なキックで攻撃に貢献。相手のプレスが緩かった前半は特に光った。俊輔のキックはチーム一の武器だし、中田が中盤の底からのロングフィードでピッチを大きく使う展開はまさにボランチ。今の日本はこの2人のチームだ*3。本番を何としても無事に迎えて欲しい。FWとしてゴールという結果を残した高原も評価に値する*4

  • 日本の弱点はサイド

悪かったのはサイドの守備不安。これはチーム全体の問題だけど、特に悪かったのは左SB起用のサントス。もともと守備能力のなさにには定評があるけど、今日はいつも以上に酷かった。相手がサイドで数的有利を作って攻めてくる時は勿論の事、一対一の対人プレーでも尽く敗れ、運動力なくポジショニングもあやふやで、チームの大きな穴になっていた。

守備能力のない攻撃的なSBを使うチームに共通するのは、守備能力を覆い隠せる攻撃的資質を持った選手であること、そしてSBの守備不安を補える組織力・チーム戦術があること。日本はそのどちらもない。

サントスはインドくらいのレベルの相手なら攻撃面で持ち味を発揮できることは証明済みだけど、今日のようにチーム全体が押し込まれてしまうようなレベルのチーム相手では活きない。サントスの攻撃力に圧倒的な威圧感があれば、高い位置を取って個人で相手サイドを押し込めるかもしれない。でもWC本番ではまず無理でしょう。

そしてサントスがオーバーラップした時、誰がサイドのスペースをカバーをするのか、マークの受け渡しはどうするのかといった約束事がまるで感じられない。

宮本や中澤などのCBが横に流れる場面が多くあるけど、それはカバーしているというより釣り出されているという表現の方が近く、薄くなった中央にクロスを放り込まれてフリーでヘディングシュートされてしまう。ボランチがカバーに行けばバイタルエリアががら空きになってしまうなど、カバーは個々が条件反射的に行っているだけで、チーム全体が連動するような守備組織がまるでない。

今後サントスの守備能力が劇的に向上する事はありえないだろうから、チームとして如何にフォローするかが重要。ただし3年以上も持ちこされている課題が、残り3ヵ月で改善されるのだろうか。アンカーの福西の横に、運動量があって対人守備に強い今野などの守備的選手を配置するとか、4バック起用時には割り切って他の人材を起用するしかないと思うが。

サントスのおかげで目立たなかったが、右の加地もけして守備力のあるSBではない。今日のスタメンでは、本番でサイドを突かれまくって大量失点の憂き目に合う可能性大。反撃に転じようにも、あそこまでサイドを押し込まれてしまう試合展開では難しい。

ヒディンク率いるオーストラリアはSBとウインガーが連動して数的有利を作ってサイド攻撃を仕掛けてくるだろうし、3-5-2のクロアチアのサイドは一枚だけど、スルナとバビッチの両WBは日本とは比べ物にならないほど強力。それにサイドに流れてのプレーが得意の技巧派FWクラスニッチと連動して崩してくるのでかなり厄介*5WC本番に向けて不安が残る。


今日の試合を見た相手チームの簡単な日本対策としては、「前からプレッシングを仕掛けて素早くサイドから攻めていけ」でしょうね。

*1:クロアチアは3-5-2、ブラジルは4-4-2

*2:福西のタイミング良い上がりも良し。シュートミスはいただけないけど

*3:ポテンシャルを考えればこれに小野も加わって欲しいけど、この3人の共存というのはバランス的にかなり難しい。

*4:彼は所属チームで無得点という理由でバッシングにあいがちだけど、試合に出ればそれなりの動きはしている。それに代表ではここ数試合はゴールを決めているのだから、それなりの評価を与えるべきでしょう。ブンデスリーガという、Jリーグとはレベルの違う環境も差し引くべき。少なくとも代表でゴールのないFWよりは上

*5:ちなみにクラスニッチは先日のCLのユベントス戦でも活躍していて、SB起用されたイタリア代表のブラージでも苦戦していた。日本ではクロアチアクラニチャル親子ばかりで全く取り上げられてないけど、クラスニッチは日本にとって脅威。技巧派の万能型FWで個人的にも好きな選手。