カタール国際ユース

U-19代表参加のユース大会。ネットでみれる試合は全部見ましたよ。決勝は画像がましで見やすかった。

  • U-19日本代表 0 - 0 U-19韓国代表

林彰弘;内田篤人、槇野智章、福元洋平堤俊輔梅崎司(106分伊藤翔)、青山隼田中亜土夢柳澤隼(85分安田理大);森島康仁(72分長沢駿)、河原和仁(52分青木孝太

延長終えて0-0でPK戦に競り勝って見事優勝したわけで、TVでは放送がなかったゆえに諸手を挙げて賞賛されるのかな。結果は素晴らしいが、試合内容は大会中で最悪に近いものだったけども。試合を見た人は内容には不満を覚えたでしょう。韓国はそれ以上に酷かったけど。

     森島康仁 河原和寿
 梅崎司   田中亜土夢   柳澤隼
         青山隼 
 堤俊輔 福元洋平 槙野智章 内田篤人
         林彰洋

このU-19の基本システムは4-4-2だけど、実際は青山がアンカーの4-1-3-2みたいな感じ。イングランド式の4-4-2フラットに比べると、センターハーフの活動範囲が狭く積極性がない。

  • 状況に応じないサッカー

序盤は押し込まれる時間帯も多く、攻撃もロングボールが中心であまり得点の可能性を感じられなかった。その後も白熱した試合展開にはならず。どちらも総じてレベルの高さは感じられなかった。
その後、後半終了間際までに韓国は2人も退場して、日本が11対9の圧倒的な数的優位の大チャンス。なのに戦い方は相手が11人の時と何も変わらない。相手はドン引きで前線にほとんど人を残していないのに、4バックを崩してはいけない法律があるかのようにDFラインに人が余っている。
監督は選手交替で流れを変えられず、選手個々も状況に応じた選択をする事ができないなど、チームとしてリスクを犯して攻める事をしない。監督の采配や指導にも問題があるように思うけど、選手の個人戦術にも問題あり。決められた事しか出来ない日本選手の課題を改めて露呈した。

選手は前にスペースがあるのにボールを運んで引き付けてパスなどのプレーが出来ず*1、リスクを恐れた責任回避の横パスやバックパスを選択ばかり。パス能力がない選手なら仕様がないけど、能力的にはそうじゃないんだから。
延長は、ボールスピードの遅いパス回しでチンタラ繋いで、手詰まりになるとサイドから精度の低いクロス一辺倒。大熊ジャパンが縦ポンサッカーなら、この代表は横ポンサッカー。フィジカルの強い相手がベタ引きしているのに、サイドから何の工夫もなく放り込み続けて、それを跳ね返され続けるだけ。延長の伊藤、長沢、青木の前線はみなヘッドには強くないのに、意図もなく放り込んでも何も変わらない*2。引いた相手に対して、ドリブルでの仕掛け、強引なミドルシュート、ワンツーや壁パスなどのグループによる崩しのアイディアが少なすぎる。

イビチャ・オシム
「日本の選手は個人能力がとても高い。ボール扱いが上手く、運動量が豊富で、しかもアグレッシブにプレーする。
練習での日本人の振る舞いを見ていると、彼らは個人でボールを扱うのが好きなように見える。好きにしていいとなると、シュート練習を始めたりするが、誰もいないところでただシュートを撃っている。ひとりでボールをこねている選手も要る。
ジェフにはトラップが抜群、FKの精度が素晴らしいというように、技術のある選手がいる。だが、それはひとりでボールを触ったときに限ってだ。数人でパスを回すとなると、すぐにミスをする。 大げさではなく10回に9回はすぐに敵に取られてしまう。 組織の中では技術を発揮することが出来ないのだ。
もちろん、試合でも似たようなものだ。いま何をすべきか、そんなプレーの使い分けが彼らはできない。すぐにパニックを起こして、相手がプレッシャーをかけていないのにボールを簡単に失い、ゆっくりボールを回せばいいのに、なぜか攻め急いでカウンターを食らってしまう。
状況把握ができないのは、選手たちが敵のいない中での練習を多くやってきたからかももしれないし、 システムや約束事にこだわりすぎているからかもしれない。日本人はシステム論議が好きらしいが、システムは保障でしかないことを理解した方がいい。システムの奴隷になってはいけないのだ。
持っている技術を局面に応じて使えるようになれば、日本サッカーは間違いなくレベルアップするだろう」

昨日はまさにシステムの奴隷になっていて、プレーの使い分けができていなかった。オシムの言葉が身に染みる。

  • 相変わらずの日本人監督

監督は監督で、攻撃的な選手同士を交代するだけで、CBやボランチを削って攻撃的な選手を投入しない。相手は数的不利の上にドン引きなんだから、守備的な選手をピッチ上に通常時と同様に残す必要性はあまりないはず。それよりも手詰まりな攻撃陣の人数を増やすのが定石だと思うのだが。流石に前ユース代表監督の大熊監督の元でコーチしていただけに、見事なまでの大熊イズムを受け継いでいる。

近年のユース才能豊かな選手はいるのに、中盤省略傾向の強い放り込みサッカーが中心になるのは問題だと思う。山本→大熊→吉田と、協会は一体どういう育成方針を掲げてユース代表監督を選んでいるんだろう。結果は勿論大事だが、リスクを恐れて組み立てを放棄し、勝利のみを追及するようなサッカーは育成年代にそぐわない。そもそもこの大会は親善試合なんだし。いい加減、海外からユース年代の育成に長けた優秀な監督を連れてきてください。

  • 大会通しての選手個々

今大会一番の収穫はGKの林。190cmの長身を生かしたハイボールの強さと、鋭いシュートへの反応で、レギュラーだった秋元から大会中に見事レギュラーを奪取した。大学進学するのは勿体無い。

DFではキャプテンの福元が大会を通して安定していた。対人プレーの強さと戦術的インテリジェンスを兼ね備え、正確なフィードボールも蹴れる完成度の高いCB。J1の大分でレギュラーとしてプレーしているだけのことはある。北京代表の有力なレギュラー候補だろう*3。CBは広島の槙野も良かった。右SBの内田のスピード溢れる攻撃参加は目立ったが、クロス精度や守備面では課題を残す。左SBの堤と佐野は一長一短。攻撃的な逆サイドとのバランスから、中に絞って守れる堤が一歩リードか。

レギュラーの山本真希柏木陽介を欠いたMF陣。サイドアタッカーには優秀な人材が揃うが、試合毎の波が激しかった。柳沢のテクとドリブル、梅崎のミドルシュート、安田の局面打開力などは印象的。CHでは初召集の新潟で既にJリーグ出場経験のある田中の積極性が目立ち、1ゴールを上げレギュラー争いに名乗りを挙げた。アンカータイプの青山は守備は良いが、攻撃面や展開力に課題が残る。

攻撃陣はみな一長一短で波がある。森島と長沢の長身FWは、高校レベルでは長身ながら足下も巧みな傑出したポストプレーヤーだが、国際レベルの激しい寄せの前では起点になれなかった。それでも森島は2ゴールという結果を残したが、結果の出せなかった長沢はレギュラー争いから後退。
野洲で高校選手権を制したジェフ内定の青木は、初召集ながら積極的なドリブル突破で攻撃に貢献した。ただしノーゴールとシュートは下手なので、FWといよりウインガー的なポジションの方が向いていると感じる。早生まれの河原は多様な能力で攻撃に貢献したが、得点がなくインパクト不足。
大会中にエトーと表現されるようになった伊藤翔のポテンシャルはかなり印象に残った。今大会2ゴールを上げ、ヒールパスによるアシストも見事だった。伊藤は中京高校2年で、180㎝を越す長身ながら、空中戦やポストプレーよりも、スピードとストライドの大きなドリブルを武器とするスケールの大きなアタッカー。来年の高体連新卒選手では傑出した存在なだけに、Jリーグ各クラブ間の争奪戦は必至だろう。

今回のメンバーに、本来レギュラーの森本貴幸山本真希柏木陽介を加わえたメンバー中心でAYを戦う事になるんだろう。放り込みせざるを得ないなら、マリノスの長身FWマイク・ハーフナーも有力か。Jリーグで新たに台頭する選手に期待したい。

  • 野洲フィーバーについて

今年の高校選手権で野洲高校がクリエイティビティに溢れたサッカーで優勝して、サッカー界の話題の的となった。ここでは言及してなかったので、少し書いておこう。
ポゼッションとドリブル突破を重視した攻撃は魅力的で、ヒールパスなどの小技もチームスタイルの中に巧く取り込んでいる*4。日本選手に欠けているラン・ウィズ・ザ・ボールも有効に使えていた*5
そんなわけで、個人的にはかなり好感の持てるサッカースタイルだったけど、高体連の大会を一度制しただけで、巷で言われるように高校年代のサッカーに革命だとか、日本の目指す唯一無二のサッカースタイルという意見に全面賛同するまでは思わない*6
フィジカルを軽視するかのような、異常なテクニック信仰にも疑問。選手個々の能力に合ったサッカースタイルがあって然るべきだし、どんなチームであってもテクとフィジカルはどちらも重要*7。とかまあ異常なまでの野洲フィーバーには疑問もあったわけですが。

でもユース年代最高峰のU-19代表でこういうサッカーを見せられたら、あれだけ野洲高校がもてはやされるのはしょうがない気がする。高体連の大会を一度制しただけに過ぎない野洲のサッカーが、遥かにレベルの高い国際舞台やプロレベルで通用するかは未知数だけど、少なくとも意図のない放り込みサッカーより遥かに将来性があるし魅力的だ。とりあえずAYまでに監督交代して、育成年代に相応しいサッカーをする事を今後に期待したいです。いい加減日本人監督育成路線は限界だと思う。それは山本・大熊、両氏のサッカーで答えが出ているのでは。

  • ちなみに現段階で北京世代代表を作るのなら

    平山相太 カレン

家長昭博  梶山陽平  水野晃樹

    本田圭佑 谷口博之

 水本裕貴 福元洋平 青山直晃 

       西川周作

昨年のJリーグで急成長した選手が多く、WYの頃より全体がスケールアップしている。特にJリーグでレギュラーになった青山と福元との台頭で、層の薄かったDFラインが強力になった。これに加えて、プロの舞台で結果を出しつつある前田俊介増田誓志船谷圭祐杉山浩太枝村匠馬中村北斗小林祐三森下俊らがいるわけか。かなりポテンシャルにある世代だ。優秀な監督を招聘できれば北京五輪に向けて期待大なんだが。

*1:効果的なラン・ウィズ・ザ・ボールができない

*2:1世代上の平山や、マイクや森島がいるならまだ分かるけど。

*3:現状でも増島からレギュラーを奪取すると思う

*4:ヒールは即興で使われているのではなく、ドリブルでスペースにボールを運んで、その選手の後方にできたスペースに選手が進入してヒールパスを貰うパターンが徹底されていた。

*5:スペースがあればボールを前に運んで、DFを引き付けてからパスを出すとかね。

*6:野洲が今季の高校サッカー最強チームと認識されているようだけど、高円宮杯を制したヴェルディユースの鬼プレッシングサッカーや、個の強さを前面に押し出したガンバユースに勝てるかと言ったら微妙だと思う。それに高校年代でのチームとしてのインパクトなら、当時最強だった国見(今年の決勝の鹿実どころではない圧倒的なフィジカルサッカー)を圧倒した広島ユースの方が遥かに衝撃的。それに前俊が3年の時の2冠の広島ユース、2度準優勝したジュビロユースの試合は、攻撃の構築能力に優れたかなり魅力的なチームだった。それなのに今回の野洲フィーバーに比べてほとんど騒がれることはなかった。やはり高校選手権はJユースより遥かに注目を浴びるのだと実感。いまだ世間的には高校年代の中心は高体連なのかね。

*7:野洲の監督はしっかり認識してると思うけどね。野洲はフィジカルも意外とあったし。