グループリーグ第1節


マドリーはリヨン相手に攻守に圧倒された。セットプレーで2点奪われ、きっちり引いて堅守速攻狙い*1のリヨンにボールを持たされるだけで、全く得点を奪う可能性を感じられなかった。
現時点でのチームの完成度がもろに出た印象。これはアップセットでも何でもなく、順当な実力通りの結果でしょう。リヨンがペースを落とさなかったらもっと点差は開いていたはず。

リヨンは新監督のウリエが就任したばかりとはいえ、前任者のル・グエンによって完成された4-3-3は健在であり、主力の放出もエッシェン一人なので、シーズン序盤にして既にチームは熟成の粋にある。後任のウリエはカウンターをチームに植え付ける事だけは一流であり、リヨンに昨シーズンのような最後まで畳み掛ける攻撃色は薄くなったものの、リードした後の堅守速攻はなかなかのものだった。

カリューの存在は昨シーズンのリヨンに欠けていた高さを補完するものであり、敵陣深くでDFラインのギャップを作り出せるので、味方がそれにより生じたスペースを利用できる利点がある。長身FWといっても俗に言う電柱タイプではなく、スペースにを突く機動力も兼ね備えているので、流動的な3トップの魅力を損なわずバリエーションを増やす事に成功している。

放出したエッシェンの穴にしても、莫大な移籍金を得た事により充実した選手補強が成され、むしろチームの総合値は高まっている印象さえ感じられる。エッシェンのポジションに入るのはチアゴチェルシーではレギュラー格だったほどの選手で、派手さはないがエッシェンに比べてもけして見劣る存在ではない。3センターの質は、マドリーより明らかに上だった。

MOMはジュニーニョ・ペルナンブカーノ。彼の方がマドリーのどの選手より銀河系だった。御馴染みの世界最高峰のFKで2得点に絡み、豊富な運動量と巧みなボール扱いで攻守に大貢献。中盤センターのポジションでのプレーメーカ的資質はベッカムを遥かに凌駕している。マドリーは主体的に崩すサッカーをやるなら、彼みたいな選手がを補強するべきだったんではないかな。ジダンフィーゴのないマドリーには、華麗なアクションサッカーは難しい。

リヨンは間違いなく強い。ただし、この調子が最後まで続くかは未知数。まだル・グエンのサッカーで戦っている印象。ラニエリが就任したバレンシアも、対照的なベニテスラニエリのサッカーのバランスが取れていた序盤数試合はかなり強かったのに、ベニテス色が消えラニエリ色が濃くなるに連れてどんどんペースダウンしていった。ウリエは自身の志向するサッカーと、完成されたル・グエンのサッカーを今後もうまく融合できるのか。そこに注目したい。


  • 課題が山積みの新生マドリー

対するマドリー。昨シーズンは選手の特徴を活かした*2カウンターサッカーへの転換によってクラシコに完勝するなど、シーズン後半は好調だった。しかし、堅守速攻において重要な戦力となッていたオーウェンやサムエルを放出し、今はまた新たにチームを作り直している段階。

3失点とまたしても守備は崩壊したわけだけど、これまで同様DFだけが悪いわけではなく、チーム全体の組織的な守備力がなさすぎる。ガルシア*3グラベセンと中盤に守備力のある2人を使っているにも拘らず、中盤のフィルターが全然掛かっていない。

CBを務めるのは本来はボランチエルゲラと、右SBのセルヒオ・ラモス。個々はよく奮闘していたものの、急造バックラインでは中盤との連係やラインコントロールが不備は目立ち、相手にボールを保持されたらズルズルとラインを下げるばかりで、まるでどこかの代表チームを見ているようだった。DFラインが統制されていたリヨンとは対照的。

せっかく昨シーズン終盤にはサムエルがフィットしつつあったのに、放出してしまって守備構築はまた0から*4。いくらラモスが逸材だといっても、まだ19歳でCB経験はほとんどない。現状ではSBの方が良いと思うのだけど、パボンを使うよりまだマシといったところか*5

攻撃にしても昨シーズンの序盤戦のように個人技頼み。ラウール、ベッカム*6といった選手は個人というより組織の中で輝くタイプで、このサッカーではどうにも機能しづらい。新加入のバプティスタはまだフィットしておらず、唯一ロビーニョのドリブルを主体にした個人技だけが目立っていたけど、まだ周囲とは噛み合っていない。攻撃には高さがないので、引いて組織的に守られるとどうしても厳しい。ゲームを組み立てられるジダンの不在も大きく感じた。

これにジダンロナウドが戻ってきて、連係面がある程度改善され、主力選手のコンディションさえ良ければ攻撃面ではやはり脅威的だと思う。どんなチームからでもゴールを奪うポテンシャルはある。そしてそれ以上に失点する可能性だってある。それでは失敗したシーズンから何の成長もない。主力がコンディション不良だったり欠場すると、途端にチームが機能不全を起こしてしまう。

ルシェはどういうサッカーをしたいんだろう。昨シーズンのようなカウンターサッカー*7なのか、ブラジル風味のアクションサッカー*8なのか。とりあえずはチームとしての守備組織をどうにかして立て直さないと、今シーズンも強豪相手には勝てそうもないですな。

*1:この部分がウリエ就任の唯一の利点かも

*2:ポスト役や組み立てへの貢献度は低い反面、裏に抜けるスピードは一級品のオーウェンや、細かいパス回しはイマイチでも正確無比なロングフィードを誇るベッカムなど

*3:個人的にはビッグクラブレギュラーになるほどの選手だとは思っていない

*4:サムエルならカリューに制空権は握らせなかったはず

*5:本職ではないポジションで迎えたCLデビュー戦、19歳の若さでここまでやるのはやはり並の選手ではないと思う

*6:彼をCHとして活かすならやはりカウンターサッカーが一番だと思うけど

*7:これをやるならサムエルやオーウェンを放出して、バプティスタやロビーニョを獲った意味がない

*8:これならベッカムの必要性はあまり感じられない