サウジ戦

日本 3-1 サウジアラビア

日本:
川口能活阿部勇樹田中マルクス闘莉王今野泰幸加地亮鈴木啓太駒野友一中村憲剛三都主アレサンドロ(65分山岸智)、巻誠一郎(87分羽生直剛)、我那覇和樹(74分高松大樹


ここ最近年代別代表の試合が集中していて、似たような欠陥を抱えていて不満だったのだけれど、この日はフル代表らしくアンダー世代の代表との違いを見せてくれたと思う。サウジの弱さも差し引かねばならないけれど、目標となるとなるフル代表が内容でも結果でも勝利した喜ばしいね。そしてこの内容でも課題はあったわけで、そこをオシム監督も選手も浮かれず反省している所は安心できる*1


  • 追い越しのフォローの有効性


前半16分、川口の素早いキャッチリリースから、加地、中村と繋いで、中村のダイレクトの楔を受けた巻が見事なサイドチェンジを駒野へ、このとき左サイドでボールホルダーの駒野の外をサントスが追い越した事で、駒野が余裕を持ってアーリークロスを上げられた。ダイレクト中心の素早い組み立てで、サウジにマークを付く暇を与えなかった。惜しくもDFに防がれたけれど、素晴らしい攻撃展開だったと思う。


この辺りから完全に日本ペースに。その後にCKから巻のヘッドのこぼれをトゥーリオが詰めて先制。良い時間帯に先制できた事で、試合展開がかなり楽になった。


前半29分、左サイドの阿部が前にボールを運んでからの大きなサイドチェンジ、それを右サイドで受けた加地がタメて、加地の外を右CBの今野が追い越し、そこからボールを受けた今野の外を今度は加地が追い越す。これによりマーカーの注意が加地に引き寄せられ、フリーの今野が中に切れ込んでクロス、我那覇がヘッドで決めて2点目。


前半16分のチャンス、そして29分の2点目と、ボールホルダーの外を他の選手が追い越す動き、俗にいうウェーブの動きが非常に効果的に機能していた。外を追い越すのはアウトサイドの選手だけではなく、状況に応じて全てのフィールドプレーヤー全員が自分がボールを受ける為、またはボールホルダーを助ける為に、ボールホルダーを追い越し、パスコースやフリーの選手を増やす事。これがオシムの目指すサッカーでは必要とされている。この試合を見ても、試合を重ねるにつれて徐々に洗練されてきたといえる。




後半4分、バックラインから楔を交えて右から左に丁寧に組み立てて、今野からの縦のフィードに抜け出した駒野が左サイドからグラウンダーのクロス、これを右アウトサイドの加地がエリア内に飛び込んで潰れて、そこを通過していったボールを我那覇が確実に決めて3点目。左サイドからのクロスにニアに飛び込んだのが、右アウトサイドの加地というのがこれまでとは異質。


前半24分にも、トゥーリオの右へのフィードを深い位置で受けた加地がファーへクロス、これを左サイドの駒野がフリーでシュートするシーンがあった。惜しくもシュートは外れたけれど、決定的なチャンスだった。


アウトサイドの選手のクロスに、逆のアウトサイドの選手が長い距離を走って絡んでくる。このようなシーンが散見された。両アウトサイドがサイドに張り付いてプレーするのではなく、積極的に中に進出してプレーに関与する事で、数的優位を作ってボックス内で優位に事を運ぶ。両アウトサイドに代表されるように、選手がポジションに拘らない流動的なサッカーが見れた。ここもオシムの狙いが徐々に具現化されているように感じた。


  • バックラインの安定とビルドアップ


2点目は阿部のサイドチェンジ、そして3点目はバックラインを経由しての組み立て後の今野の縦のフィードから展開が始まったことに象徴されるように、バックラインからのビルドアップがかなり効力を発揮していた。リベロトゥーリオも、後方からのフィードだけでなく、積極的に前に出て数的優位を作り、攻撃の組み立てに絡んでいた。バックラインからの攻撃構成に苦しみ、安易に放り込んでボールロストしていたU-19、U-21との違いは明白。


マークを付かれにくいDFが前に出て積極的にビルドアップに貢献したり、長い距離を走ってボールホルダーを追い越したりとフォローする事で、他の選手のマークが引き剥がされるなど、相乗効果が発揮される。オシムボランチの選手をCB起用するメリットが良く見て取れた。本職CBはここを磨かないと試合には出れないんでしょう。若手の青山、水本には所属クラブでビルドアップ向上に積極的に取り組んで欲しい、


また、ビルドアップだけではなく、本業の守備面の安定も良かった。中盤でボールロストもあり、ワンボランチの鈴木以外のMFと両SBまで攻撃参加して、疲れから守備への戻りが遅くなった中盤以降は、中盤の守備がかなりルーズになったシーンもあったのだけれど、2トップのマーキングを任された2ストッパーがエリア内で仕事をさせなかった事が守備での安定に繋がった。マンマークの守備組織を形成する上で、CBの充実は見逃せない。


  • ダブルポストの機能性


この試合では、我那覇と巻のダブルポストという形で前線を形成していて、これまでより前でボールが収まった。特に我那覇が下がって楔を受けて時間を作り、他の選手が前を向いてボールを受けられる事で、攻撃展開がスムーズに運んだし、全体を押し上げる事ができた。巻も前線でターゲットなり身体を張るなど、2トップの縦の関係がうまく出来ていた。


阿部の正確なロングフィードを受けた巻のバックヘッドから、前でボールを受けた我那覇が仕掛けて強烈ミドルという良い攻撃シーンもあった。放り込みといえばそうなんだけど、長身に空中戦に強い巻だからこそ競り勝てた。その意味では特長を活かした攻撃構成。縦の位置取りでボールを受けて、その後に積極的にドリブルで仕掛けてミドルを打った我那覇の勝負する姿勢も良かった。


ポストプレーの苦手なカレンの1トップにして、空中戦が苦手なのにひたすら放り込んで、前線で全くボールが納まらず、押上げや追い越しが殆ど見られなかった先日のU-21代表とは対照的だった。反町監督はよく勉強するように。オシムなら絶対にカレンの1トップなんてやらない。1トップやるならその人選は重要よ。


2トップというとポスト型+シャドー型の組み合わせが一般的だけれど、オシムが率いたジェフの2トップは、巻とハースというポストプレーの得意な選手同士の組み合わせが多い。後方から次々と選手が飛び出してくるサッカーをする上で、その時間を作るために前線でボールが収まる事は必須。そういう意味でダブルポストは理に適っている。


似たタイプの選手が2トップを形成すると、プレーエリアやプレースタイルが被ってしまい、補完性の薄いデメリットが生じてしまうものだけれど、巻と我那覇オシム体制になってから継続的に呼ばれている2人で、お互いが被らないように工夫していて、コンビネーションが出来上がっていた。巻が前線で身体を張って、より足下の巧みな我那覇が楔を受けに下がってくる事が多く、これが中々嵌っていた。


後半に我那覇が高松に交代して、巻と高松の2トップになると、余り機能性がなかった。これはタイプ的に被りすぎるし、初めての組み合わせで相互理解もないため仕方ないだろう。2人とも前線で身体を張るタイプなので、どうせなら先発2トップをそのまま初召集の高松と前田に代えて欲しかった。この組み合わせの方が、前に張る高松と下がって受ける前田という様に役割分担が明確だし、初招集の選手を同時に試せる面でも良かったと思う。


  • 中盤の問題


バックラインの安定、とりわけFWへのマンマークが機能した事もあり、エリア内では殆ど仕事をさせなかったけれど、その前の中盤の守備はルーズなシーンも散見された。


中盤以降に選手の運動量が減ったり、後方から積極的に攻撃参加した後だと、ワンボランチの鈴木の両脇がかなり開いてしまう。ボールを奪った後は後方からどんどん飛び出していくサッカーを志向しているので、そこでミスをしてしまうと、一気にカウンターからピンチになってしまう恐れが高い。一対一で潰せるサウジレベルでは良くても、世界レベルの相手ではそうは行かないはず。修正が必要。


また、鈴木と他の選手の距離も離れる事があって、彼の展開力不足が目立ってしまうパスミスもあった。鈴木がサイドに引き出され、バイタルエリアが空いてしまうシーンも散見された。


失点の直前、鈴木が中盤でミスパスをして、それを取り返そうとアタックしている間に、空いた中央から攻め入られたことが、PKに繋がった側面もあったと思う。まあ、攻撃を遅らせる事は出来ていたし、あのPK判定は怪しかったけど、強豪国なら普通に失点していた可能性もあるから、注意するに越した事はない。


中盤の高めのトップ下気味に位置した中村だけれど、2点リードした後はあえて下がって、鈴木の近くに並んで、彼を守備面でも攻撃面でもフォローしながら、DFラインの前からボールを捌いていった方が良かったと思う。川崎ではダブルボランチを組む谷口の近くで、彼の展開力不足を補完しているし、状況に応じて谷口より下がって守備のバランスを取るプレーも得意としているので、けしてできない事ではないと思う。



上述したように、時間が経つに連れて選手に疲れが見えて、ワンボランチの鈴木の両脇のスペースがかなり空き出してしまう。また攻撃のフォローも遅れる。とにかく運動量がベースとなるサッカーをしているので、走れなくなってしまうと機能性は一気に減退してしまう。ジェフも選手のコンディションが悪くて走れなくなると、一気にサッカーの質が低下してしまっている。


前半の15分過ぎから2点リードするまでのサッカーを90分間やれれば理想的だけれど、現実的にそれは難しい。今日のような空調の効いたドーム内の好環境でも終盤はバテたのだから、アジアカップやアジア予選でのアウェーの猛暑ではさらに厳しい。


2点リードした後も、それ以前と同じようなサッカーを展開していた点は気になった。特に後半に2点リードした後は、ゲームを意図的に落ち着かせてしまっても良かったと思う。無理に縦に急いでミスするシーンも多かった。トゥーリオも2点リードで相手エリア内まで頻繁に上がる必要はない。


常に同じようなペースで試合を進めるのではなく、状況に応じてチーム全体でゲームをコントロールする必要がある。個人としても緩急を付けるべきだし、チームとしても意識していきたい。相手を引き出すようなボール回しをして、カウンターを狙っていく様な駆け引きも欲しい。


  • 今後


今年最後の代表戦。かなり良い占めになったと思う。今後に希望が持てる試合だった。ベースは今年のメンバーとの事だけれど、オシムなら来シーズンもJリーグで結果を出した選手は試すだろうし、不調の選手は外すでしょうね。特に結果が明確な数字として出るFWは。ジェフとそれ以外の選手ももっと平等になってくれば尚良いかな。まあ、その部分は仕方ないと思いますけど。


来年はまだ見ぬ欧州や中南米の中堅以上との試合が見てみたい。特に平面ではなく、高さで勝負をしてくる国。地上戦でのマーキング力のある選手をオシムはストッパーに好んで使っているけれど、高さを相手にしたときにどうするのか。今年はガーナ、サウジ、インド、イエメン、T・Tと、高さが武器の相手とはまだ一度も試合をしていない。


中盤の構成力の攻防を無視して、始めから割り切ってロングボールを放り込んでくる国。年代別代表みたいに不適格なサッカーではなく、しっかり選手の特長を生かした放り込みをやってくる国。こういう国を日本は一番苦手にしているので、早めに対しておきたいところ。特にJリーグで傑出した存在感を見せているヨンセンでさえ当落線上のノルウェーは、日本が苦手とする国だと思う。トルシエ時代も完敗したし。


後は駆け引き上手のメキシコとか、技術力のあるコロンビアとか。強豪国とは言わないから、アジアレベル以上の国との試合が見てみたいね。スイス、オーストリア共済のEUROプレ大会に参加するという話があるらしいけど、それはかなり良いと思う。スイスのスペース消去のうまいゾーン守備相手に、スペースに飛び出すサッカーがどこまで通用するのか。見てみたいね。


  • 選手評

*1:先日のU-21韓国戦なんて、あの内容で何で監督が手応えを得ているのか分からん。世間の論調も2軍で良く頑張った的なのも謎。韓国だってベストじゃないじゃん。ジュビロのジンギュがいなかったしね。

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